花は咲き、月は沈む3
リカはワールドシステムから出られず、ただ浮遊していた。
「そういえば、入れるけど、出られたことない……」
「やあ。また迎えにきた」
メグの声がし、リカは振り向く。
「ああ、メグ……一つ聞いていい?」
リカは振り返りながら、メグに尋ねた。
「……ん?」
メグは首をかしげつつ、リカをふわりと浮かせ、当たり前のようにワールドシステムから外へと連れ出した。
「それ! ねぇ、それはどうやってやってるのかな? ワールドシステムから出る方法がわからないの」
「……? たぶん、『K』の力……。あなたにはない」
メグが疑問を顔に浮かべながらそう言い、リカは眉を寄せた。
「マナさんにはあるよね?」
「それは知らない。それより、ちゃんと黄泉を出せたんだね」
「あ、そう? 出せたの? あれ、マナさんがやったんだよ」
「……? まあ、いい。そろそろ、サヨの世界に着く」
メグはいつの間にか宇宙空間を浮遊しており、ネガフィルムが絡まる場所にたどり着いていた。
「……ほんと、いつも不思議」
リカがつぶやいた時には、もうサヨの世界へ入れられていた。
メグは仕事が終わるとすぐにいなくなってしまった。
リカはサヨの世界へ入り、白い花畑を越えて大きな屋敷へと入った。部屋はかなり賑やかだった。
沢山の人がいる雰囲気。
「あ、あの……」
リカが部屋に入ると栄次やアヤ、更夜だけでなく、沢山の望月家が笑顔で話していた。
「これは……?」
「あ、リカ!」
アヤと栄次と更夜がリカに気づき、近づく。
「無事か? リカ……。これから探しに行くところだった。お前が黄泉を開いたから、マガツヒは消えた」
栄次が安堵の表情を浮かべ、怪我をしていないか確認してきた。
「怪我はしてません。今回は……あの、プラズマさんとサヨは……」
「……」
三人が同時に困惑した顔となり、楽しそうに遊ぶルナとスズに目を向ける。
「ああ、プラズマは今回の件でワイズ軍を乱した。罰が発生する。アヤが今回の騒動で海神を呼んでしまったこともワイズが許可しておらず、罪になるが、おそらく、プラズマが代わりに……」
栄次が答え、リカは真っ青になった。
「サヨはそのワイズとの交渉についていったらしい。サヨを今から連れ戻すことはできず、困っている。だが、交渉にはお兄様がいる。なんとかしてくださるはずだ」
更夜が冷や汗を拭い、珍しく慌てていた。
「そ、そういえば更夜さん、元に戻ったんですね!」
「ああ、お前達のおかげだ。ありがとう……。娘や妻に会えたんだ。ほら……あそこで、明夜と話している……」
「……良かったですね」
リカは楽しそうに話す三人を見て、優しい笑みを向けた。
しかし、プラズマとサヨが気になる。
「皆で壱に一度戻ってプラズマとサヨを待ちましょう。ルナに扉を出してもらう。ルナはこないだから扉が出せるんでしょう? 霊は連れていけないから更夜とルナだけね」
アヤがそう言い、更夜が頷いた。
「ああ、ルナは扉を出すだけにしてもらう。今、楽しそうに笑っているからな」
更夜はルナを愛おしそうに見てからアヤに目を戻す。
「では、俺達はあちらに戻ろう。リカ、無事で良かった……」
「はい」
リカはとりあえず返事をし、ルナを呼ぶ更夜を眺めた。
※※
一方、高天原東。ワイズの城では、冷林とワイズが電話をしていた。
プラズマとサヨには電話が聞こえない。ただ、罰の軽重を待った。冷林は話せないため、電話というよりも、頭に直接文字を送るメールのような感じである。
「ふむ」
ワイズは通話を切り、プラズマを見た。
「私としては公開罰にしたいところだったが、冷林が公開はいけないと言ってきた。おもしろい罰を提案してきたので採用するYO。公開の方が惨めさが出てより罰らしくなるが……そこは残念だYO。ああ、冷林は自分で罰を与える事はできないようなので、東に罰を与える許可をしてきたZE」
「なんだと!」
プラズマが焦り、ワイズが口角を上げながら先を話す。
「アイツは私に怯えてんだYO。封印罰だけはやめてくださいと泣いていた。東側が罰を与えることで、今回の怒りを沈めてくださいと情けなく言ってきた。で、まさかのそこそこ重い罰を提案してきて笑っちまったZE」
ワイズは笑いを堪えており、プラズマとサヨは眉を寄せた。
「プラズマくん……」
サヨは心配そうにプラズマを仰ぎ、プラズマは冷や汗を流す。
「……あんたに罰はいかないから、大丈夫だ」
「冷林は何考えてんの! せっかく罰が軽くなったのに!」
「サヨ、冷林を悪く言うな……。あの子は……まだ六歳なんだ」
プラズマがつぶやき、サヨが怒る。
「なんで、数え年八の子供が北のトップなんかになってんだって言いたいの!」
「……あの子は……天皇からこちら側へ神格化した神だ。弐の世界に行くことなく、壱にとどまり続けている。高天原北は元々、アマテラス様の世界だった。冷林……安徳帝はアマテラス様の元にいた神だ……今は、アマテラス様がいない。だから彼が……」
「……?」
プラズマの発言が突発的だったため、サヨは眉を寄せた。
「プラズマくん、もう一回言って」
「え? 俺、なんか言ったか? ああ、冷林が上に立っている理由はわからない。彼はアマテラスと関係があるらしい。概念となったアマテラスと関係してるのは、まあ、お話では知っている」
「プラズマくん……今……」
サヨが先程の事を持ち出そうとした刹那、頭に警告音が鳴った。
……エラーが発生しました。
……エラーが発生しました。
サヨの瞳が黄色く輝き、プラズマの瞳も黄色に輝く。
……エラーが発生しました。
……エラーが発生しました。
「さてと、刑の執行だ。望月サヨ、お前は外にいろ。紅雷王の悲鳴を聞き、震えているが良い」
ワイズが手を叩き、呆然としているサヨを部屋の外へと出した。
「で、罰は?」
プラズマが元に戻り、ワイズは神力を解放する。
「今回は重罪ではないZE。私の神力に百回斬られろ。それだけだ。安心しろ。冷林が決めた。さっさと神力を解けYO」
ワイズの髪が伸び、荒々しい神力がプラズマを突き刺す。
プラズマは素直に神力を最低に落とした。
「ああ……。冷林……俺が前回封印されたのがよほど怖かったんだな……。だが、これは非人道的な罰だぞ……冷林!」
プラズマはあきらかに重い罰に唇を噛みしめた。
ワイズは笑いながら続ける。
「一見、重そうに見えるが、アヤがいるからNA。巻き戻せるし、ぬるいだろ? 良い機会だ。私の神力を受けてみると良い」
「何がいい機会だ。お前も冷林の判断がおかしいと思ったなら、対応しやがれ!」
「はあ? お前、私に何を求めてるんだYO。アイツの判断だ。私は神力を使い、お前を罰する手間がある。私に得は何もないが、冷林との関係を悪くはしたくはないからNA」
ワイズは飄々とそんなことを言い、プラズマは再び、怒りを露にする。
「よく言うぜ……」
「さて、罪神が偉そうにはできないZE?」
ワイズは神力でプラズマの腕を縛り、上に吊るす。
「痛てぇから覚悟しろよ? 紅雷王……」
ワイズは神力をさらに放出し、黄色に輝く鋭い神力をプラズマにぶつける。鞭のようにしなる神力はプラズマの服を裂き、皮膚を裂き、プラズマは悶えながら耐えた。
「まず、一回。あー、強すぎたかNA? かなり裂けちまったなあ~」
「……はあ、はあ……」
「神力で防御を少しでもしたら、最初からだZE? めんどうだから、自分で数えろ。屈辱的な気持ちにしてやる」
「……手加減しろよ、グラサン女っ……。死んじまう……」
プラズマは腹の皮膚を裂かれ、血を滴らせ、苦しそうに言った。
「次は、縦にいくか」
ワイズは笑みを浮かべつつ、プラズマを頭から斬り下ろした。
「あぐっ……」
プラズマは頭から血を滴らせ、顔の一部まで斬られ、耐える。
「お前が死んだら困るなぁ。もう少し、抑えるか」
「なめやがって……」
「数は?」
「二回だ。後、九十八回だ」
「お前のその邪魔な記憶……ムチ打ちでなくしてやる……」
ワイズはプラズマを睨み、黄色に輝く神力を振り抜いた。
サヨは扉の外で耳を塞いでいた。『K』である彼女はこう言った虐待行為が嫌いである。
嫌いというより、データで弾かれる。
プラズマの悲鳴を聞き、震え、うずくまっていた。
「百回っ……終わったぞ……。がふっ……もういいだろ……」
プラズマは涙を浮かべ、痛みに呻く。服は破れ、体にはミミズ腫れが目立ち、血が滴っている。
残虐な行為だ。
「無意識に神力で自分を覆ったな? 追加で二、三十回は受けてもらおうか?」
「非人道的じゃねぇか? こんなの……」
「非人道的だNA! だが、決めたのは冷林だ。このまま、私の力を受け続けろ。……もう少しだ……。もう少しでデータ修復ができる……」
後半はワイズのつぶやきだった。
プラズマは疑問に思う。
……神々のデータとはなんだ?
「さあ、追加懲罰といこうか?」
ワイズは再び手を振り抜き、神力を飛ばす。
プラズマは痛みに耐えながら、ワイズを睨み付ける。
……俺のデータとはなんだ?
……俺達の仕組みとはなんだ?
「まだ、そんな顔ができるか。では、情けなく泣き叫ばせてやろう。ちなみに、冷林には動画を送っているぞ? 満足してるかNA?」
「なんてことするんだ……。あの子は優しい子だ……。血まみれにされる俺なんて見たら……」
「はあ? アイツが決めた罰なんだZE?」
「怖がって決めたんだろうが! 俺だってあの子のことがわかる! お前がわからないわけがねぇだろ!」
「わからねぇNA~。封印刑を避けたかっただけの短絡的な判断なんて。封印刑の話はもうしていなかったんだがNE~。軽すぎると私の気持ちが収まらないと考えたかNA?」
ワイズの言葉にプラズマは息を吐き、怒りを抑えてつぶやいた。
「そこまでわかってて、お前、自分の気持ちは話さなかったのか……」
「話す必要はないだろ? あちらさんが一方的に混乱していたんだ。私には関係ねぇYO」
「……てめぇ、覚えてろよ……」
プラズマは最後までワイズを睨み付けていた。