表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
199/316

心の行く先は7

 「更夜が戻ってくる!」

 みーくんが叫び、サキが太陽神の力を放出した。


 「みーくん! 黄泉は?」

 「さっきのがなんだったんだってくらいに簡単に開いた……」

 みーくんがつぶやいた刹那、黒い煙が横たわった更夜から出ていき、わずかに開いた黄泉の中へと入っていった。


 「しかし、こんだけしか開かなかったな……」

 みーくんが指で大きさを伝えた時、黄泉の中から女の声が聞こえてきた。


 「天御柱と鬼神、竜巻に桃太郎。桃のデータを持つ彼女が桃太郎か。あの鬼神は鬼退治。めでたし、めでたし。鬼神神格は消えない。残るけれど、鬼はいない」


 「イザナミか」

 「うふふ……あははは!」

 黄泉の開きが小さかったからか、女の謎の声を残し、黄泉は消えた。


 「戦闘にならなかった……?」

 サキが冷や汗をかきながら、太陽神の霊的武器、『剣』をしまう。


 「黄泉へ連れ込まれなくて良かったぜ……。あの空間は異常だ。おそらく、俺達の古いデータ、古い世界もあそこにある……。黄泉はパソコンでいうところのトラッシュボックスだろ、たぶん」

 「うう、怖いねぇ」

 みーくんの発言にサキは震えた。


 「ま、とりあえず、終わった」

 「時神は大丈夫かねぇ?」

 サキは少し離れて更夜の時間操作をしているルナ達を見つめる。


 ルナはアヤやプラズマを交互に仰ぎ、自分があってるのか確認していた。


 「ぷ、ぷらずま、あや……」

 「いいぞ。それぞれ、入った時間列操作ができている……。そうだろ? アヤ」

 「ええ、大丈夫よ。更夜が帰ってくる。時間を……サヨと歩いてる……」

 プラズマ、アヤがルナに笑いかけ、ルナはようやく安心した。

 

※※


 更夜とサヨは白い空間をただ歩いていた。真っ白い空間なのだが、帰る道がわかる。

 そして、サヨとの思い出の記憶が優しく流れていく。


 「ああ、小さくてかわいいお前が映るなあ。これは、叩いてかぶってじゃんけんぽんをした記憶だ」


 「……おじいちゃん、楽しそう」

 「楽しかったぞ。力加減がわからなすぎて強めにいっちまって、お前が大泣きした時はかなり焦った」


 「あははは! そんなに痛くなかったけど、おじいちゃんを困らせてみたかったんだ。おじいちゃんが動揺しすぎてて、イタズラだったのに、悲しくなっちゃった」

 サヨが小さく言い、更夜が苦笑した。


 「そうだったのか……。かわいいな。それであんなにあやまってきたんだな。怯えさせちまったかと思ったよ」


 「過去を見ると、笑って流せない言葉だね……。おじいちゃん」

 サヨのせつない顔を見た更夜はサヨの頭を撫でる。


 「……でかくなったな」

 「うん」


 「お前の時は色々、手加減ができなくて、傷つけてしまうんじゃないかと心配して、実家に返そうとわざと離して冷たく対応しようと思っていたんだが、お前に会った瞬間になんか……何にもできなくなっちまった。笑顔を見たら優しくなってしまってな」


 更夜は優しく微笑んだ。


 「そうだったんだ」

 サヨは更夜の本心を知り、小さくつぶやいた。

 流れていた記憶にルナが現れ、やがてサヨが今の年齢と重なり、スズが現れる。


 「ああ……幸せだったんだよなあ、俺」

 更夜は幸せそうな、おだやかな顔で目を閉じ、サヨと共に白い世界から消えていった。


※※


 「おじいちゃん! お姉ちゃん!」

 ルナの声がし、更夜とサヨは目を覚ます。


 「ん……」

 更夜は暖かい春の空を眺め、サヨは更夜の上に覆い被さっていたことに気付き起き上がる。


 「……春の空? 春の野原?」

 更夜の鼻先を蝶が飛んでいく。

 「おじいちゃん! お姉ちゃん!」

 ルナが呆然としていた二人に抱きつき、泣いていた。


 「ルナ……」

 なぜ、ルナがここにいるかわからない更夜は状況を知らないまま、ルナを抱きしめる。


 「ルナ……会いたかった……」

 「うええん……」

 「ルナは頑張ったんだぜ」

 更夜の前にプラズマが立っていた。


 「プラ……ズマ?」

 「ああ。詳細は後で話すよ。この世界も戻った。春の世界だったんだ、ここは」

 「更夜、大丈夫か?」

 プラズマの横から栄次が顔を出す。


 「栄次……」

 「俺だけではない。皆いる」

 栄次が静かに後ろにさがり、更夜の見知っている人物達を前に出させる。


 「……!」

 更夜は目を見開いた後、顔を歪ませ、情けなく泣いた。


 「スズ……静夜……ハル……」

 更夜は笑顔でこちらを見ている三人に優しく抱きしめられ、赤子のように声を上げて泣いた。


 彼は感情のコントロールができない……。だが、人一倍、優しい感情を持っている。


 皆、彼を大切に思い、守ってくれた彼に感謝をしていた。


 更夜が抱いた負の感情は黒い霧となり、逢夜の横にいたルルに吸い込まれる。


 「きた。彼の厄だ……」

 「ずいぶん削ったとはいえ、やっぱデカイな。消化しよう。一緒にな」

 「いつものお仕事だね」

 ルルと逢夜は手を繋ぎ、更夜の厄を分解した。


 家族同士でそれぞれ、再開を喜んでいるところを眺めつつ、プラズマは汗を拭い、アヤと栄次に向き直る。


 「ああ、皆、家族に出会えて良かった。……だが、問題がな。アヤ、リカは何してるんだ? 置いてきたのか?」

 プラズマの言葉にアヤは体をわずかに震わせた。


 「えっと……その……」

 「……? アヤ?」


 「わ、私が指示を出したの……。ルナの過去見で状況を知って、メグを使って……私達をこの世界に入れたり……リカをひとりでワールドシステムにいれてしまった。おそらく、黄泉のブロックが解除されたのはリカがワールドシステムに入ったからだと思うわ」


 アヤの言葉にプラズマはため息をついた後、アヤを真っ直ぐ見据えた。


 「アヤ、メグはワイズ軍だ。それにリカをひとりで行かせたのか?」

 プラズマがアヤに厳しく言い、アヤは目を伏せて答えた。


 「それしか方法が……」

 「リカは狙われているんだぞ。マナやワイズに」

 「わ、わかっているわよ……」


 「メグを使うことをちゃんとワイズに言ったのか?」

 「言っていません……」


 「今回はワイズと太陽神が処理する内容だった。だから冷林軍がメグを動かすのは話がこじれる。先にワイズに助けを求めたらよかったんだ。ワイズからメグを借りるならアイツは何も言わなかったはず……。ルルもいたんだろ? 


 ルルに頼んでワイズの許可をとらないといけないだろうが。過去を見たならわかるはずだが、黄泉を開く段階で、もう望月家は自分達だけでなんとかしようとはしていない。あんたは軍についてはよくわかっているはずだと思っていた」


 プラズマにそう言われ、アヤは目に涙を浮かべうつむいた。


 「ごめんなさい。時神が皆傷ついていて、更夜が……」

 「……それは言い訳だ」

 プラズマは静かに言い、アヤが泣き出した。


 「プラズマ、アヤは今回、動揺していたのだろう。あまり強く言うな。アヤはわかっている」

 栄次がアヤを庇い、プラズマは息を一つついて口を開く。


 「わかっているのは知ってる。謝罪して泣いているんだからな。言い訳は聞きたくない。今回はもう、時神側が悪いことになる。そうされる。ワイズはリカのデータが邪魔なんだ。壱を存在させるために、ちらくつ伍の存在を消したいんだ。


 前回はマナとリカを相討ちさせようとしていただろうが。アヤは危険だとわかってリカをワールドシステムに入れたはずだ。黄泉はワイズも開けるはず。アイツにやらせれば良かったんだ」


 「アヤだけを責めるな。彼女は周りの意見を聞いてから決断をした。プラズマ、今回はお前の誤りから始まったことだ。お前が慈悲深いのは知っているが、ワイズ軍の天御柱の仕事を遮り、攻撃を仕掛けたのだぞ」


 栄次の言葉にプラズマは拳を握りしめた。


 「わかっている! だが、これ以上、ワイズが有利になれば、俺はリカを守れない! 今回は傍観していれば良かった事で更夜を救うことに集中すりゃあ良かったんだよ!」


 プラズマが怒り、アヤの肩が跳ね、栄次はプラズマを落ち着かせる。


 「プラズマ、アヤにはあたるな。アヤはお前のイラつきに怯えている。彼女は荒々しい雰囲気が苦手だ」


 「……アヤ、ごめんな。今回は……負け戦なんだよ……。気が立っていた。俺は、なるべく弱みを握られないよう、ワイズと交渉してくる。栄次は……リカを見つけ、報告、他のメンバーは休ませる」


 プラズマは再び冷静に戻り、栄次に指示を出した。


 「……お前、ひとりで大丈夫か?」

 「……大丈夫だ」

 プラズマは荒々しい雰囲気を纏わせたまま、ワイズに会わせるようみーくんに交渉をした。


 「ああ、紅雷王、ワイズに喧嘩を売るのか? 俺は正しい証言をするぜ? ルルと逢夜も会議に出させる。健闘を祈るぜ」

 ワイズの側近、天御柱神、みーくんは軽く笑い、太陽神サキに目を向けた。


 「お前、会議に出るつもりな顔してるが、呼ばれてないからな。だいたい今回は会議じゃねぇ。時神と東の交渉だ」

 「あー、そうかい……」

 サキは頭を抱えて答えた。


 「まあ、もろもろで戦ってやるよ。俺は守護の約束をかわしたサキを傷つけちまったし、それを治したのはアヤだ」


 「みーくんなら安心かな」

 サキはそうつぶやき、ハルを呼ぼうとしてやめた。ハルの娘の静夜が『K』なため、皆を運べるから呼ぼうとしていたが、いつの間にか切ない顔でサヨが立っていたからだ。


 「あ、あのさ、今、おじいちゃんはさ、家族に会えたことを喜んでる。だから、あたしが送るよ。壱の世界の扉を出すね」


 サヨはさっさと扉を開き、「どうぞ」と促した。


 「ありがと! サヨ」

 サキだけが明るく言い、みーくんがルルと逢夜を小さく呼び出し、ついてくるよう指示を出す。

 二人はなんの話かわかり、眉を寄せつつ、壱へ入った。


 最後に扉をくぐろうとしたプラズマがサヨに声をかける。


 「サヨ、今回は俺の決断だから、気にするなよ」

 「プラズマくん……」

 プラズマが去り、サヨは目を泳がせ、どうするか考え、息を吐いた。


 ……あたしもこっそりついていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点]  「黄泉へ連れ込まれなくて良かったぜ……。あの空間は異常だ。おそらく、俺達の古いデータ、古い世界もあそこにある……。黄泉はパソコンでいうところのトラッシュボックスだろ、たぶん」 ゴミ箱フ…
2023/02/21 11:56 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ