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心の行く先は3

 アヤは更夜の妻ハル、娘の静夜、千夜の息子明夜、逢夜の妻ルル、ルナと共に更夜達がいるであろう世界へと入った。


 「来たか。俊也は元の世界に帰ったか?」

 明夜と静夜を見つけた逢夜はまず、そう尋ねてきた。


 「ああ、そうですねぇ。無事に帰りやしたよ」

 明夜が答え、静夜は心配そうに逢夜を仰いだ。


 「あの……」

 「望月凍夜は消滅した。オオマガツヒは黄泉へ帰ったぜ。だが……」

 「……お父様は……」

 静夜は悲しげな顔でうつ向いた。


 「更夜はまだ、凍夜が中にいる。術がとけていない」

 「……それならば、皆でときましょう。私や静夜にもまだ、あの人がいるはず」

 ハルが答え、静夜が同意する。


 「そうしましょう。お母様」

 お母様と呼ばれた少女を視界に入れた逢夜は、彼女が更夜の妻であることを思い出した。


 「……あんたは……おはるか」

 「はい、そうですよ」

 「まず、謝罪しなければならねぇことが……」


 「……あなたは本当にお顔が更夜様にそっくりですね。逢夜様、謝罪はいりません。あの時(戦国)、あなたが私達の事を凍夜様に話していようがいまいが、結末は同じです」

 ハルは微笑んで逢夜にそう言った。


 「そうか……なんて言ったらいいのか……」

 「何も言わないでくださいませ」

 ハルの言葉に逢夜ははにかむと口を閉ざした。

 逢夜は次にルルに目を向ける。


 「ルル、大丈夫か? お前まで来るこたぁ、なかったんだ」

 「逢夜……ケガしてるよ! 私、心配で……」

 ルルは逢夜に抱きつき、声を震わせた。


 「ワリィ……心配かけた。……ああ、えー……うん、やっぱり戦は良くないな……。平和に暮らしたいもんだ」


 「逢夜……やっぱり送り出したくなかった……」

 ルルを優しく抱きしめた逢夜は声のかけ方に悩み、とりあえず横にいた夢夜を横目に見る。


 夢夜は目の前にいる息子に驚いていた。


 「お前は明夜か!」 

 逢夜の横で夢夜が声をあげた。


 「ああ、お久しぶりですねぇ。お父様。変わっていらっしゃらない」

 「……お前の血筋は今でもしっかり生き残っているようだ。望月サヨと……」

 夢夜はアヤにくっつくように立っていたルナを見る。


 「望月ルナ」

 名前を呼ばれたルナは肩をびくつかせ、驚いた。

 ルナは誰が誰だがもうわかっていない。


 「小さな神様か。よしよし」

 夢夜はルナの頭を優しく撫でた。撫で方が千夜に似ており、ルナは不思議そうに夢夜を仰ぐ。


 「ばあばに似てる……」


 「ん? ああ、千夜か。……お前のばあばはな、頭を撫でられたり、抱きしめてもらえた事が子供の時になかったんだ。だから、俺が教えてあげたんだよ。千夜は……優しい顔をしていたなあ……。ルナちゃんにも優しくしてくれているんだな」


 夢夜はルナの頭を撫でながら、千夜との思い出を少し思い出した。


 「そういやあ、あっしは母様を知りやせん。母様に会いたい……。こんな年になりやしたが、頭を撫でてもらいたい……」

 「明夜……、今、千夜は」

 夢夜は言いにくそうにうつ向いた。それを見たルナが元気よく答える。


 「あのね! ばあばがケガしちゃってるけど、アヤが元に戻せる! だから大丈夫だよ!」

 「ええ。時間を巻き戻しましょう」

 アヤが頷き、太陽神サキがアヤに気がついた。


 「あ! アヤが来た! え? どうやってきたんだい? あ、ハルちゃんも一緒なのかい? 大丈夫だったかい?」

 サキは次から次へと表情を変える。表情はすべて心配している顔だ。


 「今、あっちで皆動けなくなってるんだよ。アヤ、ちょっと来ておくれ」


 「サキ! あなたも腕動いてないじゃない! 折れてるの?」

 「ま、まあ……」

 サキは言葉を濁しつつ、アヤを連れて、みーくんが立つ場所まで案内した。アヤにルナ達もついていく。


 「今、こんな状態なんだよ。親族さん達」

 サキは意識を戻さない更夜と千夜、動けない栄次、プラズマを見せる。


 「アヤ? なんでアヤが……」


 プラズマは弐の世界でうまく未来見ができないようだ。アヤが来ることが予想できなかった。


 「そんなことはいいわ。プラズマ。ケガを治しましょう。千夜さんと更夜、栄次が特に酷いわね。サヨ、スズ、大丈夫だから」

 アヤは更夜の手を握り、座り込んでいたスズとサヨに優しく言った。


 アヤが時間の鎖を出し、全員の体の時間を凍夜と戦う前に戻す。


 千夜が目覚め、栄次、プラズマの傷、サキの傷、サヨの傷、スズ、夢夜、逢夜までも傷が塞がり、全員元に戻った。この的確な時間操作はアヤ以外にはできない。


 「……っ! 夢夜様ッ!」

 千夜は夢夜を視界に入れ、涙ぐんだ。


 「ルナも……危ない故、ここには……」

 「ばあば、それよりね、ばあばのこどもがいるよ?」

 ルナがよくわかっていない顔で明夜を紹介した。


 「……もしかして……明っ……」

 「実際に会うと恥ずかしいもんですねぇ……。はい。明夜ですよ。母様」

 明夜は照れながら、想像よりも数倍小さかった母に目線を合わせた。


 「こんなに大きくなって……。私はお前を育てられていない……。息子と呼んでいいのか、わからぬ……」


 「呼んでくださいませ。母様。会ったことはございませんでしたが、尊敬しておりました」

 明夜が優しく微笑む。


 「お前はよく、望月を立て直してくれた……。私は……誇りに思っている」

 千夜の言葉にルナが反応した。


 「ねぇ! このひとはばあばにイイコ、イイコしてもらいたいんだって! 誇りに思ってるって褒めてるよね?」


 ルナの純粋な言葉に明夜は苦笑いを浮かべた。


 「ルナちゃん、この年齢でそれはな、ちょいとな……」


 「イイコイイコしてもらいに来たんじゃないの?」

 ルナは過去が見える。明夜の会話も筒抜けであった。


 「……ルナちゃん、あんまりあっしをいじめないで……」

 「明夜、こちらにおいで」

 千夜は優しい笑顔で、少し離れ始めていた明夜を呼ぶ。


 「……母さま」

 「おいで」

 千夜の柔らかい声で明夜の目に涙が浮かんだ。


 「母さま……」

 明夜は自分よりも体が小さな母にすがるように抱きついた。

 千夜も目に涙を浮かべ、明夜を抱きしめる。


 「いままで……ひとりで……頑張ったんだよ……母様……」

 明夜の魂年齢が若くなる。

 外見が少年に変わった。


 凍夜と夢夜が相討ちし、ひとりになった幼い明夜。


 寂しさは女々しく泣くなと自分を叱り、むなしさは望月を立て直すことでまぎらわしていた。


 「知っていたよ、明夜。死んじゃってごめんな……。本当にごめんな……」

 千夜は優しく息子を抱きしめる。それを見た夢夜が包み込むように妻と息子を抱き寄せた。


 「……やっと家族が揃ったな」

 すべての過去が見える栄次は少しだけ涙ぐみ、家族三人だけ残し、少し離れようと皆に伝えた。


 なぜか更夜だけは目覚めない。

 傷は治っている。

 しかし、意識が戻らない。


 「……サヨ、スズ、少し更夜を動かす」

 更夜に寄り添っていたサヨとスズは栄次の言葉で離れた。栄次は更夜を抱え、少し離れた場所におろした。


 皆が集まり、更夜を覗き込む。


 「おかしいわね……。傷は巻き戻せたはず」

 アヤが困惑しながらサヨを仰ぐ。


 「……凍夜がまだ、おじいちゃんの中にいるんだよ。術をといてない。凍夜が消えて、きっとおじいちゃんは何もかも嫌になっちゃったんだ。だから、戻ってこない。おサムライさんがおじいちゃんに最初に会った時、おサムライさんとおじいちゃんは黄泉に入る寸前だった。おじいちゃんはたぶん、自分の世界に閉じ籠ってる」


 サヨはハルと静夜に目を向けた。


 「……なるほど。では、助けに行かなければ……」

 ハルは弱々しく倒れている更夜をせつなげに見つめながらそう言った。


 「おじいちゃんの呪縛を解くには歴史神を連れて来なければならないよね?」


 千夜や逢夜の術を解いた時に、歴史神が歴史を繋いで過去に入った。サヨは歴史神ヒメちゃんを呼ぼうと思ったが、それに対し、ハルが口を開く。


 「問題ないわ。更夜様のトラウマは私が殺されたところ。静夜を人質にとられたところ……。子供の時のむなしさ……。全部、わかる。だから、このまま、更夜様の心を私達の力で開き、中に入り込んだマガツヒごと、凍夜を消滅させましょう」


 ハルがそう言い、スズは目を伏せる。


 「……ハルさんはすごいな……。あたし……」


 「スズちゃん、あなたも一緒に来て。たぶん、更夜様の辛い過去を追体験してしまうけれど、あなたはもう一度、更夜様をわかった上で、殺される記憶部分で更夜様を救うの」


 「え……?」

 ハルの言葉にスズは顔を上げた。


 「今回はそれぞれ対象の記憶に入っておじいちゃんを救うってことか。おじいちゃんは苦しかった時代が長すぎた。苦しいまま死んだ。だから、凍夜への苦しみも悲しみも恨みも一番消えていない」


 サヨの言葉にハルは頷いた。


 「ルナが使えそうだね」

 ルルが戸惑っているルナに目を向けた。


 「え? ルナ? ルナ、なんかできるかな?」


 「更夜さんの時間をうまく巻き戻して、静夜さん、サヨの『K』の力で更夜さんの心の世界を固定する」

 ルルが答え、みーくんが唸る。


 「あんま、ワイズが不利になるように動きたくはねぇんだが、まあ、あんたらがコイツの厄を外に出してくれたら、厄除けのルルと俺が厄を黄泉へ返そう。さっき、黄泉が開いたんだ。次も開くだろ、たぶん。太陽神サキ、黄泉を開く準備すんぞ。俺達も時神も、弐の世界に長くいちゃあいけねぇしな」


 「みーくん、さっきいたイザナミって神、襲ってきたりはしないよねぇ……」


 「……。イザナミねぇ……。まあ、考えてもしょうがない。黄泉のパスワードが変わってる。また、時間がかかりそうだぜ」


 みーくんはサキを連れて再び黄泉を開く準備を始めた。


 「ルナ、頑張ろ」

 突然に決まり、動揺しているルナの背を撫で、サヨは小さなルナを落ち着かせる。


 「ルナは……力をうまく使えない。おじいちゃんを怒らせちゃったんだ。ルナは……できないよ」

 今にも泣きそうなルナにプラズマは目線を合わせてから、肩に手置いた。


 「ルナ、いるのは霊と、太陽神と、『K 』だ。栄次も更夜の記憶に入る。ルナの役目は重い。だが、それを予想した上で来たはずだ。俺は未来神だからわかる。未来が見えたからついてきたんだろう? しっかりしろ。あんたならできるさ」


 「……プラズマ……」

 ルナはさらに不安そうにプラズマを仰いだ。


 「ルナ、いけ。大丈夫だ」

 プラズマに強制的に背中を押されたルナは突発的に神力を解放させた。


 「まだ、ちょっとわかんないけど、始まった! えーと……」

 サヨは横に立つ静夜に目を向けた。


 「私は望月静夜。望月更夜の娘です。サヨさん」

 静夜はサヨに笑いかけた。


 「……おじいちゃんのっ……娘」

 辺りが白い光に包まれる。


 「アヤ! ルナの補助だ! 時計を安定させろ!」

 「わかったわ」

 プラズマの鋭い声が聞こえ、アヤの冷静な声が響く。


 「スズ、入るぞ。今度こそ、更夜を救う」

 「……栄次」

 栄次はスズの手を握り、優しげに微笑むと、白い光に飲み込まれていった。


 「静ちゃん、行ってきます」

 「……お母様、わたくしも後程……」

 ハルも白い光に包まれ消えた。


 サヨは白い光の中、うずくまって泣いている更夜を見つけた。


 入るか迷っていたサヨだったが、顔を引き締め、更夜の元へ歩きだした。


 光が消える。

 横たわったままの更夜。


 先程と何も変わっていないように見えるが、砂漠の世界にはプラズマとルナ、アヤしか残っていなかった。


 「ルナ、神力を安定させろ! アヤが時間を保つ! だから大丈夫だ。ルナがやらないと、皆、更夜の世界から帰れなくなる」

 プラズマはルナの状態を保たせるよう、声掛けを始めた。


 「プラズマ、時間は固定できているわ。ルナ、神力を落として」

 アヤが冷静にプラズマに答え、ルナに言う。


 「……っ」

 ルナは目に涙を浮かべながら、神力を落とした。


 「ちょっと落としすぎね。少し上げて」

 「わ、わかんない! わかんないよぅ!」

 ルナが焦りを見せたので、プラズマがルナの肩に手を置き、神力を流す。


 「俺の神力に合わせろ。力を出しすぎると戻りすぎる。俺は未来神だから過去のことはわからない。だが、ルナの神力の度合いはわかる。今のは出しすぎだ」


 「……アヤ、プラズマ……」

 ルナが泣きそうな顔をしているので、アヤとプラズマはルナを落ち着かせる。


 「大丈夫よ。ひとりでやれと言ってるわけじゃないのだからね」

 「いまんとこ、安定してる。大丈夫だ。このまま行くぞ」

 アヤとプラズマにそう言われたルナは更夜の下に展開していた時計の陣を心配そうに見つめた。 

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― 新着の感想 ―
[一言] ルナちゃんたち、何だか大変そうですが大丈夫でしょうか…それにしても更夜、相当苦しんだのですね…そのせいで抜けられなくなってしまっている…仲間以上に、彼自身がつらそうです…
2023/02/12 09:26 退会済み
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