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心の行く先は2

 更夜の娘、静夜は母のハルと千夜の息子明夜を連れ、更夜がいる世界へ進む。


 俊也はとりあえず大丈夫そうだ。壱の世界の住人は壱の人間が助けてくれるはずだ。霊は夢としての助言しかできない。


 まずはサヨに兄を取り戻したことを伝えるのが先か。


 三人は更夜がいる世界の上空で立ち止まった。宇宙空間にネガフィルムが絡まっている世界の一つだ。


 「……凍夜の力を感じない気がするねぇ……どうなってやがるんだか」

 明夜がつぶやき、ハルが答える。


 「太陽神の連絡でわかったのですが、望月凍夜は消えたようですね。しかし……」

 ハルは不思議な力を感じていた。望月凍夜がいなくなったのに、世界の雰囲気が変わらない。


 「……更夜様の神力がかなり不安定です」

 「お父様が心配ですね。お母様、行きましょう」

 ハルと静夜が話していた時、青い髪のツインテールの少女が三人の少女を連れ、こちらに飛んで来るのが見えた。


 「……!」

 静夜は青い髪の少女の後ろにいた茶色の髪の少女を見て、息を飲んだ。その少女はハルに似ていた。


 「あや!」

 静夜が叫び、茶色の髪の少女が怯えながら振り向く。


 「あや……よね?」

 メグに連れられたアヤは突然に名前を呼ばれ、固まった。


 「……え?」

 「会えて良かった! こちらの世界にいたのね! もう消えてしまったかと……」

 静夜がアヤに近づき、アヤはさらに困惑した。


 「わた……私は元々、壱の世界の時神で……」

 「……え?」

 静夜は不思議そうにアヤを見た。アヤは静夜を困った顔で見つめる。


 「この声の響き……もしかして……お母様……」

 アヤは何か遠い記憶を思い出そうとしていた。しかし、何も思い出せない。

 代わりに赤子を抱いている知らない自分が頭に浮かぶ。


 そしてその横には年老いた静夜が微笑んでいた。


 「……えど、じだい……海碧丸(かいへきまる)。前の私の……息子」


 「……前の? 海ちゃんはあなたの息子で私の孫よ。彼ももう、この弐の世界にはいないでしょうけど、もう一度、会いたいわね」


 静夜が言う孫の話はアヤにはわからなかった。そもそもアヤはなぜ、こんな言葉が出たのかの理解もできていない。


 ……海碧丸って誰よ……。

 前の私ってなによ……。


 前に立つ銀髪のこの人をなんで母だと思ったのだろうか。

 アヤには何にもわからない。


 「ねぇねぇ!」

 横にいたルナがなんだか騒がしくなってきたので、アヤは世界に入る準備をし、静夜達を見る。

 「あなた達、更夜と関係がありそうね? できれば一緒に……」

 アヤの発言に静夜は頷く。


 「あなたはお祖父(おじい)様を知らないのね。そうよ。更夜様は私のお父様。私の隣にいらっしゃるのはお母様。あなたのお祖母(おばあ)様。そして、更夜様のお姉様の息子様、明夜様よ」


 「……そ、そうなの」

 アヤが戸惑っていたため、静夜の隣にいたハルが優しく静夜の肩を叩く。


 「静ちゃん。あやちゃんは確かにあなたの娘だけど、この子はあやちゃんではないわ。時神現代神アヤ。時神現代神になるまでに何回も同じ外見で生まれ変わってるようね。アマテラス様の力がそう言ってる。不思議だわ」


 「……そうですか。あやじゃないんだ……。そうですか」

 ハルの言葉に落ち込んでいた静夜を見、アヤはなんと声をかけるか考えた。


 「あ、あの……ごめんなさい。で、ですが……昔に優しく呼んでもらった記憶は残ってまして、私はそこから自分の名前を『アヤ』と変えたんです……。今も不思議とお母様とわかりましたし……」


 「そう。不思議ね……」

 静夜はアヤに優しく微笑んだ。


 アヤは懐かしさをなぜか抱き、少しだけ涙ぐんだ。知らないのに、あたたかい感じだけは感じる。


 「やっぱり、お母様なのね。私の……。ずっと実は探していたの」

 「そうなの……」

 静夜は柔らかい笑顔でアヤの背中をそっと撫でた。


 「私はずっとあなたの味方よ。あなたの心の中にもいるからね。さ、今は更夜様を助けに行きましょう」

 静夜はアヤの胸の真ん中を指で軽くつつくと、仲間を見回した。


 「お嬢さん、それでいいんですかい?」

 明夜が尋ね、静夜は口もとを緩めた。


 「はい。あやちゃんは息子もできて、幸せに亡くなったのでしょう。こうして転生していたのには驚きましたが、今のアヤちゃんも幸せそうなので。お友達が多くて」


 「そうですかい」

 明夜は柔らかく答えると、静夜を更夜がいる世界へ促した。


 それを見たメグは話がいまいち理解できていないまま、アヤとルナとルルを送り出し、「中にサヨがいる。私はもう必要ない」とさっさと去っていった。


※※


 サヨはいままで抑えていた感情を爆発させていた。


 「なんで……あいつは……」

 いまだに元の世界に戻らない、この世界。黒い砂漠の世界。


 サヨは砂を握りしめ、唇をかみしめる。

 和解も何もできなかった。

 こちらの気持ちも全くわかってもらえなかった。


 虚無感がサヨを苦しめる。


 「……なんで、残った方が苦しむんだろ……。なんでまともに生きているあたし達がこんな……」

 「サヨ……。たぶんな、俺達のこの気持ちが凍夜をこの世界に留めていた」

 更夜の兄、逢夜はサヨの背中を優しく撫でる。


 「ありがとう」

 逢夜はサヨに一言、お礼を言った。この言葉以外思い付かなかった。

 それを見た千夜の夫、夢夜は、少し考えてからサヨに言葉をかける。


 「おそらく、凍夜は新しい魂としてまた、女の腹に宿る。今度は感情あふれる生活をしていくはずだ。凍夜はもういないが……新しくなった魂はどこかにいるかもしれない。だから、もう終わったんだ。望月家は解放され、この世界にとらわれていた凍夜を解放し、救った。皆を救ったんだ」


 「……そうとらえるしかないか」

 サヨは涙を拭き、立ち上がる。


 「あたしは望月を救った」


 「そうだ。……だが、この世界だけ砂漠のままだな。厄を溜め込んでいるヤツがまだいるのか」

 夢夜のつぶやきにサヨは息を吐き、真っ直ぐ更夜がいる場所を見る。


 「おじいちゃんだ」

 逢夜、夢夜はせつなげに目を伏せた。


 「おじいちゃんを、まだ、救っていない……」

 サヨは逢夜、夢夜を置き、歩きだした。

 「おじいちゃんを助けなきゃ」

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