黄泉へ返せ5
リカが立っていたのは毎回たどり着く海の世界。夕陽に照らされた海の世界だ。ただ、太陽はない。なぜ、橙に空が見えるのか、よくわからない。
「えーと……あそこの社に……」
「あら、はじめまして」
リカが海に浮かぶ小さな社に向かい、泳ぎに行こうとした刹那、聞いたことのない女性の声がした。
「誰!」
リカは辺りを見回し、警戒する。
「ここよ」
声が聞こえたと思ったら肩をつつかれていた。リカは振り返り、声をかけてきた女の顔を初めて見た。
「……えーと、どなたです?」
「ああ、わたくしはアマテラスですわ。スサノオとツクヨミには会ったようですわね?」
「あっ、アマテラスさん!?」
紫の長い髪に太陽の冠をかぶる優しそうな女性、アマテラスは軽く微笑んだ。
「……ええと、私以外の時神を消そうとしている男と、傍観している男ですね」
リカは油断せずに答える。
「スサノオは英雄なのか破壊なのか難しいですけれど、ツクヨミは海神同様、見守る役目でございますから」
アマテラスは優しそうな顔でリカを見ていた。彼女からは負のものをまるで感じない。
「今回はわたくしがこちらに現れましたけども、わたくしは普段、こちらにはいませんので、長くは存在できないのですが、マガツヒが出てきたということで、頑張って出てきてみました。もう存在が危ういので、黄泉を開く力をあなたにあげましょうか。そんなに渡せないんですけども」
アマテラスはリカが何かを言う前に電子数字の波をリカに入れた。
「えっ?」
「黄泉を開くキッカケにはなるでしょう……」
アマテラスはそれだけ言うと、煙のように消えてしまった。
「……な、何だったの……?」
リカは動揺しつつ、夕焼けの海を眺める。小さな社が不気味な雰囲気で海に浮いていた。
「……三回目かな……、四回目かな……。……行くか」
リカは覚悟を決め、海へ飛び込み、社まで泳いだ。社は人が入れる大きさではなく、小さな鳥居を掴んでリカは流されないようにしてから、オモチャのような大きさの扉を開く。
電子数字が飛び出し、リカは社に吸い込まれた。
リカはひとり、ワールドシステムに入った。電子数字があたりをまわっているだけの黒い世界。
電子数字は黄緑色に光って常に動いており、電子世界にいるみたいだ。
「……またここだ。マナさん! いるんでしょ! 出てきて!」
リカは叫び、マナを呼び出す。
マナはアマノミナカヌシ。
世界を創った神だ。
このワールドシステムにも簡単に入れるはずである。
「あ、リカちゃん。こんにちは」
リカが叫んだ時、マナの声がし、ホログラムのようにマナが現れた。
「黄泉を塞いでるんだよね?」
「まあ、そうかしらね」
「今回は何をしようとしたの?」
リカは油断しないようにマナを見据える。
「壱の世界の他、伍の世界にも神の認識を入れられるか、繋がっている弐の世界で実験しただけ。私は世界の破壊も世界の統合も目標だ」
「よくわからないけど、いますぐ黄泉を開いてほしい」
リカが言うが、マナは笑った。
「ああ、そう。オモイカネ……。彼女だけは私に気づいている……か。よくやるね。天御柱を連れてくるなんて。イザナミ、イザナギの真ん中に位置する柱……。イザナミを呼び出し、黄泉を開こうとしてる」
マナはリカに近づいてきた。
「戦うの? また」
リカが警戒し、神力を放出するが、マナは目を細め、立ち止まった。
「今回は……あなたのその邪魔な神力をいただくメリットがない」
マナはリカを真っ直ぐ見つめ、そう答えた。リカは壱と伍を離すというデータを持つ。だがリカはそれに逆らっており、壱と伍を両方守ろうとしていた。マナは逆に壱と伍を統合するというデータを持つが、世界を壊そうとしている。マナはリカとは反対であり、リカの力が邪魔だ。
だから前回、そのデータを奪おうとしたのだが、今回は奪いに来ない。
「……?」
「わからないかな?」
「マナさんは私より頭がいい。何か私にとってマイナスなことがあるんだよね?」
「あはは! そのままオオマガツヒを黄泉へ帰しなさい。アマテラスからデータをもらったんでしょう? 時神未来神によろしく」
「……プラズマさん?」
「時神のデータが狂っていく……。今回、また記憶を思い出した……かな。そのまま、データをあの時代に戻してやる」
マナはワールドシステムに挑むようにつぶやくと、そのまま消えていった。
「……?」
リカは拍子抜けしたまま、呆然とその場に立ち尽くしていた。