黄泉へ返せ4
アヤは海神のメグを呼び出す。
壱に住む神々を連れて弐の世界を渡れる『K』のメグを呼び、アヤを戦地へ連れていき、時間を巻き戻して怪我の治療をするのがひとつ。
二つ目はワールドシステムの鍵であるメグにワールドシステムを開いてもらい、リカがマナに会って黄泉を開くよう交渉する。
「……私はひとりでマナさんに会うよ」
リカはそう言った。
「……危険じゃないかしら……」
アヤが心配し、リカは頷く。
「でも、私しか行けないから。ルルさんは逢夜さんがいるし、ルナは連れていけないし」
「……私は……たぶん、そのワールドシステムには入れないよ」
ルルは目を伏せた。
「ルルさんは元々入れないんだ……」
「私は壱の世界のための神だもの。ワールドシステムに対応してない。たぶんね」
ルルが答えた時、ツインテール、青い髪のメグが現れた。
「アヤ、呼んだかな? あなた達が弐の世界に居続けるのはあまりよくない。壱がおかしくなる」
「わかってるわよ。『K』のあなたに頼み事があるの」
アヤがメグを見据える。
「ん? なにかな? 私はワイズ軍だから、余計な事をしないように言いつけられている。今は天御柱が太陽神サキとマガツヒを抑えているはず」
「そう、それで話があるのよ。マガツヒを黄泉へ入れられないトラブルが発生中なの。黄泉を開きたいから、リカをワールドシステムに入れてくれないかしら?」
アヤが交渉に入った。
「あのね、私はあなた達のお仲間の望月サヨに『排除』されてて、ワイズが私を再びこちらに入れてくれたの。つまり、ワイズは私の事も監視している。この会話も筒抜けだよ」
メグは一度、サヨに『K』の力で『排除』されている。弐の世界に入ってこれたのはワイズがメグの『排除』をハッキングで解いたからだった。
つまり、ワイズに隠れて動くことはもうすでに不可能である。
「はじめまして。私は東のワイズ軍の厄除け神、ルルです。メグ、私が思うに、ワイズは黄泉を開くことを否定しないと思うよ。だって、ワイズ軍のみーくん(天御柱神)はマガツヒを黄泉へ返すためにいる。返したいのにブロックされてるの。だから、ブロックを解除しないと」
ルルがメグに自己紹介をし、状況を説明する。
ルルは普段、弐の世界には行けないので、弐から出ないメグには会えない。
壱の神は弐の世界にはなかなか入れない。時神はサヨの世界のみ、自由に入れるようにリカが現れてからデータ改変されたが、なぜ、アヤがメグと初めから友達なのか、謎はありそうだ。
「……そう、ワイズの予想はリカがマナに会いに行くという予想か」
メグのつぶやきにリカの眉が上がる。
「そうか。やっぱり、ここまで予想済みか。私とマナさんを戦わせて、私を消すつもりか。マナさんの目的はなにかわからないけど、マナさんが破壊システムであることは間違いない。ワイズはマナさんを邪魔者扱いをしているから、相討ちを狙ってるのかな?」
「……相討ち……よくないね」
リカの言葉にメグが眉を寄せた。メグは『K』でもある。あまり、心配させるようなことを言うと、動いてくれなくなる可能性も出てくる。
「相討ちじゃなくて、交渉してくるから、ワールドシステムを開けてくれないかな? 前回の時にアヤの血とワダツミの『矛』が必要だと言われたから」
「……これかな?」
メグは幾何学模様の矛を出し、リカに見せる。
「それ!」
リカが深く頷き、アヤが横で顔をしかめながら指の先を切った。
血は畳に落ち、メグが出した矛でワールドシステムが起動する。
初めての状況にルナとルルは身を寄せあって怯え、動揺の声を上げた。
「な、なにこれ!」
「ルナちゃん、ちょっと離れとこ! これがワールドシステム?」
ルルがルナを落ち着かせつつ、リカを見る。
「うん。そうだよ。大丈夫。マナさんを説得しにいくだけだから」
リカは顔を引き締め、現れた五芒星の陣に入り、消えていった。
「……それで、他はない?」
心配そうな顔をしているアヤにメグはあまり感情なく尋ねた。
「後は私をサキ達がいるところまで連れていって。皆の傷を巻き戻しに行くわ。大怪我をしている人もいるの」
「それは大変だね。今すぐ連れて行こう。ルルやルナは?」
メグの問いにアヤは悩みながら答える。
「行かない方がいいわよね?」
「アヤ、役に立つかもだから、私もみーくんのお手伝いしたい。一緒に行きたい。でも、ルナが」
「ルナも行く! おじいちゃんを助けにいく!」
ルナが頬を膨らませて、なぜか怒っている。おそらく、蚊帳の外に置かれたとどこか考えていたのだろう。彼女は危険な状況を何も知らない。いつも更夜に、サヨに、時神達に守られていた。
ルルは迷っていた。
連れていって危険にならないだろうかと。
彼女も逢夜や更夜のように気づいたら突っ走っている性格のようだ。
「……ルナちゃん。ここで待っていようって言いたいところだけど……もしかすると、あなたの力もかなり強力かもしれない」
「さあ! 行こう!」
ルナはもう行く気満々でルルの言葉を聞いていない。
「時間の巻き戻しができる力を持っているのよね、ルナは。だけれど、私みたいな力じゃない。ルナは周りの時間を巻き戻してしまうわ。過去に戻ってしまう。戻るのは『K』と特殊な時神だけ」
アヤは悩みながら答え、ルルは頷く。
「黄泉を開く手助けが何かできるかもしれなくて……」
「私は迷っているわ。ルナは更夜が大切にしている娘。あのひとが必死で守っている娘。望月凍夜に触れさせていいのか……」
アヤが唸り、ルナは跳び跳ねる。
「ねー! 大丈夫だよ! いく!」
ルナは子供特有の一度決めたらさがらない気持ちが出ており、もう言うことを聞かない。
「……連れていきましょう。彼女の生はここからずっと続く。知らなくていいことなんてほとんどなくなる。彼女は過去、未来、全てが見えるわ」
アヤがそう言い、ルルは複雑な表情のまま、アヤに従った。
「わかったよ。と、いうことで、海神のメグ。私とアヤとルナをマガツヒがいる世界まで連れていって」
ルルに言われてメグは少し考えた後、「わかった」と答えてから、外へと促した。
メグについて行き、屋敷の外へ出たアヤ達はメグの『K』の力により浮かせられると、サヨの世界から消えていった。