闇の中に光を2
「通してっ!」
サヨは先に行かせてくれない天御柱神をすり抜けようとするが失敗し、代わりにプラズマが切り刻まれる。
「……刃物みたいだ……」
プラズマがなんとか耐え、小さく呟いた。
「で? 騒いでんけど、マガツヒがなんだって?」
天御柱神は小さな竜巻を発生させ、プラズマを襲う。
プラズマは神力で弾くが、やはり切り刻まれた。
「俺の神力を防げもしねぇのに、アイツに勝つつもりなの? 節度をわきまえろよ、紅雷王。お前がこんなにバカだとは思わなかったぜ?」
天御柱神は困惑気味に笑い、プラズマに威圧をかけた。
プラズマは威圧を受け流し、神力を高める。
「バカな事はわかってんだ。時間がない。通してくれ」
「通せねぇよ。お前らが死ぬだろうが」
「通してくれ!」
プラズマが叫んだ刹那、アマテラスの神力が一瞬表に出た。
「お前、本当はこんな程度の神力じゃねぇだろ。『引っ張られるのを抑えてる』のか?」
天御柱神に意味深な事を言われたプラズマはわずかに目を見開いた。
「……俺は知らない」
「ああー、俺も同じだぜ? 昔の凶悪な神力を抑えてる。お前は……たぶん、俺を負けさせる力を持っている。すべての母の力はな、強いんだ」
「……?」
天御柱神の発言にプラズマは眉を上げる。
「その力使うと、『お前がどうなるかわからない』んだろ? まあ、いいや。で? どうすんの? このままやんの?」
「……」
血が滴る音がやたらと大きく聞こえる。
「プラズマくん……」
体を震わせているプラズマにサヨが気がつき、慌てて駆け寄った。
「サヨ……」
「もう……いいよ。酷い怪我になっちゃう」
サヨは争いが嫌いだ。
彼女は誰も恨んではいけない『K』であるからだ。
「プラズマくん! もういいよ……ねぇ!」
サヨは咄嗟にプラズマの安全を確保しようと動いた。
この戦いを諦めようとした。
プラズマはなんとか体を起こし、叫ぶ。
「いいわけないだろう。何のためにここまで来た!」
「だってこのままじゃ、あたしが通り抜けを失敗するたびにプラズマくんが傷つくじゃん!」
「俺の心配なんて今、してる場合じゃない!」
サヨにプラズマは鋭く言ったが、すぐにサヨが持つ気質に気がつき、うなだれた。
「あんたは平和を守る『K』だ。こんなこと、言うべきではなかった。ごめんな」
「プラズマ……くん」
サヨがどうすればいいか迷っていると、プラズマが小さく言葉を漏らし始めた。
「……頭を下げるんだ、サヨ。頭を下げるんだ。俺は勝てない。頭を下げてお願いするんだ」
プラズマの言葉に天御柱神の眉が上がる。
プラズマは目に涙を浮かべ、情けなく泣きながら砂漠に頭をつけた。
「お願いします。約束をしてしまったのです。どうか、死に急ぐ魂をお救いくださいませ。お願い申し上げます。どうか、先へ進む許可を……」
プラズマは悔しかったのではない。千夜を待っている儚い魂、華夜を救ってあげられないことを悲しんでいるのだ。
「時神の頂点に立つ男が泣きながら土下座か。お前のその慈悲深い心、アマテラスにそっくりだな。残念だが、今回は世界の危機だ。早く動かないと手遅れになる」
「……そうか。なら、やはり力ずくで行くしかないんだな。お前は俺の力を削ぎたいんだろ? リカを殺そうと動くんだろうが」
「ワイズについては俺は言わないぜ。東を罪に落とすような発言、よろしくないな」
天御柱神は特に何の感情もなく答えた。
「そうかよ。わかったよ。……サヨ、走って天御柱を抜けろ」
プラズマはサヨにそう命じたが、サヨは戸惑った。
「だってっ! 抜けられなかったじゃん! ……!」
サヨが叫んだ刹那、プラズマの神力がはね上がる。髪が伸び、霊的着物に変わった。
「……行け」
プラズマに言われ、サヨは唾を飲み込むと走り出した。
「おい、待てっ……」
サヨを無傷で追い返そうとした天御柱神の頬に神力の矢がかすった。燃えるように熱い神力の矢。
「アマテラスの……」
天御柱神はつぶやきつつ、さらにサヨを追う。しかし、サヨと天御柱神の間に神力の炎が燃え上がり、怯んだ天御柱神の後ろから神力の槍が多数襲った。
「ちっ!」
天御柱神が初めて苛立ちを見せ、プラズマを睨んだ。
プラズマは静かな表情で的確に天御柱神を襲う。いままでにない集中力、命中率で、なぜか燃えるような炎の神力。
サヨはなんだかわからないまま、天御柱神を抜け、とにかく走った。
「アマテラスの神力、混ざってんぞ。なんだ、一度、神力を低下させたことがあるのか?」
天御柱神はプラズマの頭に太陽の冠がノイズ混じりに現れたり消えたりするのを眺め、言う。
「……」
プラズマは何も答えず、片腕を持ち上げ、天御柱神の後ろに神力の槍を出現させた。アマテラスの力は安定しないのか、槍は元の神力に、消えかかりながらアマテラスの神力が乗っかっているみたいだった。
天御柱神は未来見をしてくるプラズマの攻撃をうまく避けられず、苦手なアマテラスの神力に体を焼かれる。
「あー、あっちぃ。真逆の神力。やっぱアマテラスの力は苦手だぜ。サキと同系統か」
プラズマはさらに神力の鏡を出現させ、槍を鏡で弾き、天御柱神を動けなくさせた。
「鏡か。さらにアマテラスだな。アマテラスの力にしちゃあ、好戦的だ。鏡で弾く槍の動きまで予想できるのか」
天御柱神はさらに体を焼かれなから槍を避ける。プラズマは本気を出すと、ほとんど避けられない攻撃を出す。未来を予想した上で計算し、優れた命中率で敵を逃がさない。
ただ、この神力は安定しない。
「……」
プラズマの頬に冷や汗が流れた。自分とは違う何かが中を這っているような感覚があった。
……やっぱり俺には別の神格がある。太陽神なのか?
「いやあ、痛いねー。体が焼けてるぜ」
「まだやんのか?」
「……何言ってやがる。お前、もうギリギリだろ?」
天御柱神がプラズマを眺め、鼻で笑う。
「まだいける」
「死ぬ気か?」
「死ぬ気だったらどうする?」
プラズマの言葉に天御柱神は苦笑いを向けた。
「死ぬわけにはいかないんだろ? お前。俺を脅すつもりなのか? お前に死んでもらっちゃ困るんだ。俺が殺したとなったら大問題だよ」
「だろうな。だから言ったんだよ」
プラズマの日に燃える橙の瞳を見た天御柱神は頭をかいた。
「お前、マジでやりそうだよな。そんな優しい脅し、怖いぜ」
「……手を退けよ。天御柱神。この神力の出し方、覚えたぞ」
「……さっきまで敬語で土下座してたヤツとは思えないな。なんだ、お前、演技か?」
「演技じゃない。悲しい気持ちになっただけだ」
プラズマが真偽不明のまま、そう言い、天御柱神はため息をついた。
「まあ、じゃあ、『K』もいなくなっちまったし、時神は見逃してやる。ただ、時間が来たらマガツヒを黄泉に返すから、それまでに動くなら動け。お前の『正』の力を信じる。『正』の力を持った者は他にも動いているから、対立はやめろよ」
天御柱神は軽く笑うと黒い砂漠に堂々とあぐらをかいて座った。
「さっさと行け」
「……ありがとうございます」
プラズマは丁寧にお辞儀をすると天御柱神の横を走り、サヨを追った。
「……ワイズ、紅雷王は消した記憶を思い出しそうだ。よろしくないぜ。戦うのは危険と判断し、手を退いた。伍の世界の統合時代を思い出すのはまずいだろ?」
天御柱神はワイズに神力を飛ばすと、アマテラスの力が漂うプラズマの背を黙って見据えていた。