選択肢5
「はっ!」
リカは目を開けた。あたりを確認すると、何回も来ているあの芝生の公園だった。
いままでの内容は頭に入っている。
なんとなくわかっている状況は、『運命』と言われている回避できない状態があるということ。
例えばリカがマナに「こちらの世界へ飛ばされる」というのは、必ず組み込まれている。
そしてワダツミのメグに会う。
ここは仕方がないとして、このループを抜け出すにはやってはいけないことがある。
それは、「サキに会わないこと」。もしかすると、アヤに会うのも危険なのかもしれない。
「さあ、どうしようか」
リカはすばやく立ち上がると考える。ふと、視界に茶色の髪にピンクのシャツが映った。
「……アヤだ」
リカは遠くでこちらを見ている少女を見据える。
……今回は会わずに逃げてみよう。
アヤがこちらに寄ってくる前にリカは走り出した。なるべく、木の影に隠れながらアヤに追跡されないように動く。
「はあはあ……」
リカは息を上げながら公園から出た。心臓はバクバクと早鐘を打っている。そのまま歩道を情けない顔で走った。
……どこに……商店街があった?
リカは知らない住宅地へと入っていた。
……あの時の場所じゃない。場所がわからない……。
アヤから逃げてもどうしたら良いのかわからない。
「確か……たしか……」
リカは何もわからない頭でいままでを思い出す。
しかし、わからない場所なので、何も出てこなかった。
……戻る?
リカが怯えた顔で震えていると、目の前に影ができた。リカはギョッとしつつ、後ろを振り返る。
「……ひぃ」
「おい、どうした? 挙動不審だな」
すぐ後ろにサムライが立っていた。総髪に緑の着物、黒い袴の眼光鋭い青年。
「あ……えーと……栄次さん?」
「!?」
サムライの男はわずかに眉を上げた。
「……会ったことは……あるか?」
「えー……うーん」
リカはなんと言うか迷った。
「直接は会ってないと言うか……今のあなたには会ってないと言いますか……」
リカが意味不明な言葉を話すので、栄次は眉を寄せていた。
……で、ですよねー……。
「俺は時代を超えてここに来たようだ。ここは俺からすると未来。お前もそんな感じなのか?」
「……私は別世界から来た……みたい……です」
リカは怯えつつ、睨んでいるように見えるサムライを見上げる。
……この人、よく見るとめちゃ怖い……。
「何を怯えている? あ、そうか……。睨んでいたか……すまぬ。癖だ」
栄次は眉間のしわを緩めた。
……あんまり変わらないんですけど。
リカはこの言葉をとりあえず飲み込み、栄次にひとつだけ確認をとる。
「今、時神アヤに会おうとか思っていますか?」
「アヤ……。ああ、俺が来てしまったのなら他の時神もいるだろうからな。合流するつもりだった」
それを聞いたリカは顔を青くすると、栄次から遠ざかり、走り出した。
「ダメだ。きっとアヤに会う運命になる!」
「待て!」
リカが逃げていると栄次がすぐに追い付いてきた。リカは全力で走っているが、栄次は余裕で話かけてくる。
「どうした? 放っておけぬ故、話してくれないか?」
「それっ……それより、どんな脚力してるんですか!? 帯刀してますよね?」
回り込まれたリカは仕方なく立ち止まった。呼吸を落ち着かせ、汗を拭う。
「……そんなに怯えなくても良い。理由を話してほしい。俺達がこちらに来てしまったのと関係があるかもしれぬ故」
栄次は息切れすらせずに、リカを見ていた。
「……私は……時神アヤに会ってはいけない。そして、その奥にいる、太陽神サキにはもっと出会ってはいけないの」
「……詳しく頼む」
リカは困惑しながら、いままでの事を話した。信じてくれるかわからず、自信はない。
まずはリカがこちらの世界に存在していなかった話から始めた。
それから、ループしている話をする。
「なるほど」
一通り聞いた栄次は気難しい顔で頷いた。
「あの、信じてくれるんですかね?」
リカは反応の薄い栄次を訝しげに見上げた。
「信じるしかなかろう。……協力する。まずは……お前、名は?」
「……リカ……です」
名を問われ、リカは震える声で小さくつぶやいた。
「リカだな。リカはいままでの内容をやらないように動く必要がある」
「そ、そうです……」
「ただの確認だ。怯えるな。……ならば、リカがなんなのか調べる必要がありそうだ」
「は、はあ……」
リカは抜けた返事しかできなかった。栄次はリカを疑っていない。こんなわけのわからない話を突然聞かされて、警戒をしないのか。
「ならば、神々の歴史の管理をしている『ナオ』に、リカが神なのかどうかを聞きに行こう」
「……ナオ……」
リカはひっかかりを感じた。名前をどこかで聞いたことがある。
……そうだ!
前回、サキの話が出た時に、一緒にあがった名前だ!
これは、どうなのだろうか?
正解か不正解か。
「心配するな。お前を連れ去って酷いことをしようとしているわけではない。ナオという少女に相談するだけだ」
リカの戸惑い方が異常だったためか、栄次は心配そうに言った。
「あ、だ、大丈夫です。とりあえず、会ってみます」
リカは唾を飲み込むと、息を吐いてから結論を出した。
……会わないと進まないかもしれない。