鬼神の更夜4
サヨはヒメちゃんが消えるのを見届けた後、千夜、逢夜に視線を移した。
「ねぇ、これからどうする? 術が解けたんだよね?」
「ああ、術を解いてもらった故、更夜を探し、凍夜と決着を付ける」
千夜が立ち上がり、逢夜も立ち上がった。
「……お姉様、行きましょう。高天原が動いています」
「……そうだな。プラズマ殿、栄次殿、リカさん、アヤさん……ありがとう。望月家は戦いに向かう」
千夜の強い瞳を見たプラズマは目を伏せた。千夜は望月家を守り、犠牲になるつもりだと直感で感じ取ったのだ。
……あの目を知ってる。
傷ついても進む、覚悟の目だ。
プラズマは特攻で死んだ仲間を沢山見てきている。だから、すぐにわかった。
「あたしも千夜サン、逢夜サンと行くわ! じゃ~ね~」
サヨが声とは逆に顔を引き締めて千夜の元へ歩きだす。
「……サヨ、お前は希望だ。K……望月家に平和を」
「うん」
「ま、待て!」
千夜、逢夜、サヨが廊下に出る寸前、プラズマが声を上げた。
「どうした、プラズマ殿」
「しっ……死に急ぐな。望月家長の魂よ、どうか……気持ちを穏やかに……死に急ぎませんよう……」
プラズマは人間霊に語りかけるように言った。人間の霊魂は様々なモノを持っていることが多く、守護霊であったり、更夜のように鬼神になっていたりなど神格化している事もある。かの有名な菅原道真などもこれにあたる。
人間の魂は怖いのである。
「死に急ぎはしない。望月家の問題は家が解決する。私はそのためにも死ぬことはできない」
「……わかった。俺も……行く。力になれるかはわからないが……」
プラズマは望月家を後回しにすることがやはりできず、望月家を守るために動くことにした。
「俺も、行く。プラズマの判断に従う」
栄次も立ち上がり、アヤ達は動揺した。
「わ、私も……」
アヤやリカまで手を上げ始めたので、プラズマが深呼吸をして口を開く。
「アヤ、リカ、ルナはルルと待機だ。リカは特に今回の件関係なく、高天原から狙われている。ルナは未来見をしながらどうなるのかをアヤやリカへ伝え、場合によっては逃げるんだ。
ルル、すまない。ハッキリ言うと、高天原東のあんたはやや疑っている。だが、今までマガツヒが入り込まないように抑えてくれていたことは知っている。俺らがあんたを信用できるよう、これからも頼む」
「えっ……う、うん」
ルルはプラズマの言葉に動揺しつつ、頷いた。
「本当は行きたくないんだ。だがな、神力が一番高いのは俺。更夜がマガツヒに影響を受けたとして、抑えられるのはたぶん、栄次しかいない。逢夜、悪いがあんたじゃ負ける。更夜はタケミカヅチを追い詰めた男だ」
プラズマは霊的武器の確認をしつつ、逢夜に言う。
「ああ、わかってるさ。お前、ルルのことを考えてくれたんだろ? 俺は隠してない」
逢夜はルルを優しげな瞳で見つつ、プラズマに答えた。
「……戦は……残されたひとが辛いんだ。血気盛んな望月家、覚えておけ。オオマガツヒはヒトを変える。望月凍夜はそんなのを取り込んでも変わらない。普通のヒトではないことを自覚してくれ。そして身体を大事にするんだ。霊は死ぬことはないはずだが、魂が負に染まるから余計に幸せになれない」
「忠告感謝します。肝に命じる。では、向かう」
千夜はその場から静かに消えていった。
「お姉様は霊だから、弐を自由に動けるんだな……。俺は神だからなあ……。サヨ、連れてってくれ」
逢夜が言い、サヨが頷く。
「はいはーい。おサムライさんと、プラズマくんと、逢夜サンを連れて望月凍夜を探せばオッケーってことね?」
「ああ、そういうことだ」
逢夜がプラズマと栄次を仰ぐ。
「……向かおうか」
「気をつけて……」
アヤが小さく言葉を発し、リカとルナは不安げにサヨ達の背を見つめていた。




