鬼神の更夜2
サヨは再び、アヤの世界を見つけた。
「あれ? なんか思っていたのと違う? オオマガツヒが入り込んだんじゃないの?」
サヨはテレビ画面のように二次元に映るアヤの世界を眺めながら首を傾げた。アヤの世界は小川が流れる花畑の世界に時計が沢山置いてある独特な世界だった。
サヨはよくわからないまま、世界に入り込む。
色鮮やかな花が咲く中を進むと、大の字で倒れているプラズマを見つけた。
「えー……生きてる? 投げ捨てた時に変なとこ打った?」
「サヨ! どこ行ってたんだ!? なんかあったのか?」
プラズマが慌てて起き上がり、サヨの怪我の有無を確認する。
「プラズマくん、あたし、大丈夫! プラズマくんこそなんかあった?」
サヨはやや後退りをしながらプラズマを見上げ、プラズマは顔を元に戻して頭をかいた。
「あー、アヤの世界に悲しい魂がいたんだよ。望月 華夜さんっていう女の子。その女の子の魂を追い出したら、アヤの世界が元に戻ってさ、怪我してたはずの俺もなんか回復したんだよ」
「オオマガツヒに取り込まれた魂……。望月華夜……おじいちゃんの異母兄弟かもしれない。きっと彼女も凍夜に酷いことをされて、すごく傷ついているはず。あたしだってさ、酷いことを言われてすごく傷ついたんだ。恨んじゃダメだってわかってんだけど……」
サヨは拳を握りしめた。
「……ああ、恨んだらダメだ。個人の復讐心じゃない。苦しい望月家を救う目的であんたは動かないといけない。サヨ、あんた、辛いだろ」
プラズマに問われ、サヨは目を伏せる。
「……まあね。生きた人間の魂……お兄ちゃんがさらわれた事と、オオマガツヒの精神破壊行動で、たぶん高天原も動いてくる。だから、あたしは望月を救う気持ち以外は持たないようにしてる。その他のことは、あんたがやってくれんでしょ? プラズマくん」
サヨの鋭く美しい青い瞳を見ながらプラズマはため息をついた。
「俺と交渉する気か。俺は時神を守る事を優先する。更夜とアヤとルナが巻き込まれているとなると、俺も動くことになりそうだ。あと、栄次……あの男が俺は一番心配なんだ」
「……じゃあ、あたしが死んでも別にいいわけだ?」
サヨの発言にプラズマは眉を上げた後、冷静に口を開く。
「論点をずらすな」
「……ずらしてないよ? 時神しか守らないんでしょ? ねぇ? あたし、時神じゃないし、千夜サンも逢夜サンも時神じゃないもんね!!」
笑っていたサヨが余裕のない顔を突然浮かべ、プラズマを仰いだ。
「……不安なんだな。怖いよな。オオマガツヒはそういう神だ」
「……あんたには頼れない……そういうことなんだね」
サヨは目に涙を浮かべ、拳をさらに握りしめた。
「……泣くなよ。俺もできることをするから。俺はあんたが傷ついてほしくないし、泣いてほしくないし、苦しんでもほしくない。笑っていてほしいんだよ。皆……笑っていてほしい」
「……プラズマくん、困らせてごめんね」
サヨは涙を拭いてあやまった。
「……サヨ、敵がでかすぎるんだ。オオマガツヒは……俺なんか足元にも及ばない。望月家だけでなんとかするのは不可能なんだよ。はっきり守ると言えないのは、俺も自信がないからだ」
「……うん。だよね」
サヨの涙を見て、プラズマはハンカチを差し出す。
「やれることはやるさ。千年級の神になっちまったんだからな、俺。元はまだ十七。あんたと同じなんだよ。さっき、なんかあったんだろ? 隠さずに言えよ」
プラズマに問われ、サヨは素直に言った。
「海神のメグに襲われた。……レベルの高い神が動いていることを知ったから、怖くなっただけ」
「なんだと! 怪我は!? 怪我したんじゃねぇか?」
プラズマが慌てて尋ね、サヨは少し笑ってしまった。
「してないよ。うまくまいた。……あたし、なに言ってたんだろうね? あんたがあたし達を助けないわけがない。あんたは、簡単に切り捨てられるヤツじゃない」
「……あんまり男をからかうなよ。男は繊細なんだ」
「プラズマくん、ありがとう。行こうか。アヤの世界は大丈夫そうだから」
「……無理すんな。引き際も大事なんだ。サヨ……。あんただけが背負う必要もない。俺はな、あんたらを完全に守ってやるなんてデカい事は言えない。……あえて言わなかったが、俺はアレには勝てないんだ、間違いなくな」
「……うん。そうだね」
サヨは小さく言葉を漏らすと、プラズマを連れてアヤの世界から去っていった。
※※
一方、高天原東、城の最上部でサングラスをかけた幼女、オモイカネ、ワイズが赤色に輝く月を見上げていた。
「オイオイ、ずいぶん月がおかしいじゃねぇかYO。赤い月……血のような月だNA 」
「オオマガツヒだ」
円形の障子窓から月を眺めるワイズの後ろから、赤い鬼のお面をした橙の髪の青年が答えた。
「オオマガツヒが出てきた。なぜだか知らねーが」
鬼のお面の青年が冷静に答え、それを聞いたワイズはゆっくりと三角形のサングラスを外す。
月のデータを読み取りながらワイズはつぶやいた。
「ああ、そうかYO。またアイツか。アマノミナカヌシ、マナ……。あのクソ女郎が。また私に喧嘩を売るか、上等だYO」
ワイズは座ったまま、鬼の面の青年にオオマガツヒの排除を命じた。