表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
174/316

夜の一族に光は6

 幼い千夜は紐で吊り下げられ、木の枝で打たれ、凍夜に焼いた鉄を当てられ、悲鳴を上げる。泣き叫ぶ。


 誰も助けに来ない。

 誰も女であることを許してくれない。

 失神できず、ぼやける視界の先で凍夜が笑っていた。


 ……もう、嫌だ。


 必死で男にならなくては。


 ……体に消えない傷が残ってしまう。傷が残ったらどうしよう……。


 ……どうしよう。


 「千夜はあの後、術にかかった。悲しい選択をせざる得なかったのだ。傷は……まだ痛むか? 古傷は疼くものだ」


 栄次はほぼ初対面であるのだが、昔から知っているかのような会話を千夜にしていた。


 「私はあなたを深くは知らないのだが、過去神は怖いな。ご心配、感謝する。傷は残ったものもあるが、夫は気にせず、私を受け入れてくれた。私は……幸せだったよ。あの人は私を守ってくれる。今もそばに」


 「そうだな。俺は千夜の幼少から知っているからか、悲しくなっていた。俺はな、体に傷のあるなしではないと思う。ヒトは気持ちが第一だ。だが……ない方がもちろん、良いよな」


 栄次がせつなげに千夜を見た。


 「……まあ、その通りだな。あなたが落ち込む必要はない。ありがとう。あなたがそう言ってくれると、私の心も軽くなる」


 千夜はさりげなく、栄次の気持ちを持ち上げた。


 「すまない。初対面で言うことではなかった。偉そうに語り、申し訳ない」


 「そんなことはない。心は軽くなったのだ。だからありがたい。あなたは私の旦那様に似ている。そのお優しい気質を大事にこれからも我が子孫達を頼む」


 千夜は柔らかく微笑んだ。


 「わかり申した。あなたはできたお方だ。俺はあなたを尊敬している」

 「ありがとうございます。栄次殿」

 二人はなぜか堅苦しく挨拶を交わした。逢夜は静かに見守った後、口を挟んだ。


 「ここから、出られますか?」


 「ああ、今、サヨに連絡をとっているようだ。少々待て」

 「わかりました」

 千夜に言われ、逢夜はまた口を閉ざした。


※※


 一方、プラズマは黒い砂漠に赤い空の世界に落とされていた。


 「サヨ! どうした!?」

 サヨに向かい叫ぶがサヨの姿は見えない。プラズマは勢いよく砂の山に落ちた。


 「げほ……砂が口に……。真っ黒な砂漠……なんて不気味な……」

 プラズマは何もない砂漠をとりあえず歩き始める。


 「サヨに何かあったのか」

 疑問を抱えながら歩くと突然、銀髪の少女が襲いかかってきた。


 「ぐっ! あっぶねっ!」

 銀髪の少女の小刀がプラズマの鼻寸前を通りすぎていった。


 「なんだ!? じゃない、誰だ?」

 「……」

 着物を着た銀髪の少女は何も話さない。

 少女は黒い砂を巻き上げ、それを神力としてまとめてプラズマに攻撃を始めた。


 「オイ! 戦う気はない!」

 プラズマが声をかけるが、少女は反応をしない。少女は戸惑うプラズマに針のような神力を飛ばす。プラズマは結界を張って防いだが、始めの方で何回かかすり、傷をつけられた。


 「……いてぇ……」

 プラズマが仕方なく霊的武器銃を取り出し構える。


 「悲しい霊だ。すごく悲しい気持ちを感じる」


 プラズマは銃を取り出したが、撃てずにいた。少女は無反応、無表情で操り人形のようにプラズマを襲う。針のような神力は次々とプラズマの体を突き刺していく。


 「……いっ、つぅ……」


 プラズマはそれほど結界が上手くないため、攻撃がすり抜けてくる。おそらく、オオマガツヒの遥か高い神力の一部だ。プラズマでもしっかりは防げない。


 「やっ、やるしかないのか。あの子は女の子なんだぞ……。だが、このままだと俺がやられる!」

 プラズマは攻撃的な神力に自分の神力をぶつけ、とりあえず相殺させていく。


 「……あんたが……誰か知らないが……」

 プラズマは息を吐くと光線銃を構えた。少女を射貫き、位置を予測する。


 「ごめんな」

 プラズマは目をそらしてから、目を瞑った。

 目を頼りにしなくても、どこに少女が来るかわかる。


 「俺は……暴力が嫌いなんだ」

 小さくつぶやき、プラズマは引き金を引いた。プラズマの神力が矢のように少女を貫通する。

挿絵(By みてみん)

 少女はプラズマを見て、初めて言葉を発した。


 「わた……し、華夜(はなや)……。助け……千夜お姉様に……あやまり……」


 切れ切れに言葉を発した少女は黒い霧に包まれて消えた。


 「……後悔の強い……魂。千夜にあやまりたかったのか。わかったよ。名前覚えたし、次、連れてくる。痛かっただろ、ごめんな……」

 プラズマはアヤの世界から消えた霊に向かい、どこにともなく返答をした。


 余韻が残る中、黒い砂漠が消えていき、赤い空もなくなっていった。彼女がアヤの世界に入り込んだ魂だったようだ。


 オオマガツヒは勢力を拡大していく……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 栄次もプラズマも優しいんだよねぇ(ノД`) まだまだ油断できない。
[一言] 千夜、あまりに監禁されたり傷ついたせいで自然な笑顔ができなくなってしまっているのか、と思うと、なんとも悲しくなりますね…。なんとかこのまま自然な笑顔ができるようになればいいのですが…。そして…
2022/09/26 19:55 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ