夜の一族に光は6
幼い千夜は紐で吊り下げられ、木の枝で打たれ、凍夜に焼いた鉄を当てられ、悲鳴を上げる。泣き叫ぶ。
誰も助けに来ない。
誰も女であることを許してくれない。
失神できず、ぼやける視界の先で凍夜が笑っていた。
……もう、嫌だ。
必死で男にならなくては。
……体に消えない傷が残ってしまう。傷が残ったらどうしよう……。
……どうしよう。
「千夜はあの後、術にかかった。悲しい選択をせざる得なかったのだ。傷は……まだ痛むか? 古傷は疼くものだ」
栄次はほぼ初対面であるのだが、昔から知っているかのような会話を千夜にしていた。
「私はあなたを深くは知らないのだが、過去神は怖いな。ご心配、感謝する。傷は残ったものもあるが、夫は気にせず、私を受け入れてくれた。私は……幸せだったよ。あの人は私を守ってくれる。今もそばに」
「そうだな。俺は千夜の幼少から知っているからか、悲しくなっていた。俺はな、体に傷のあるなしではないと思う。ヒトは気持ちが第一だ。だが……ない方がもちろん、良いよな」
栄次がせつなげに千夜を見た。
「……まあ、その通りだな。あなたが落ち込む必要はない。ありがとう。あなたがそう言ってくれると、私の心も軽くなる」
千夜はさりげなく、栄次の気持ちを持ち上げた。
「すまない。初対面で言うことではなかった。偉そうに語り、申し訳ない」
「そんなことはない。心は軽くなったのだ。だからありがたい。あなたは私の旦那様に似ている。そのお優しい気質を大事にこれからも我が子孫達を頼む」
千夜は柔らかく微笑んだ。
「わかり申した。あなたはできたお方だ。俺はあなたを尊敬している」
「ありがとうございます。栄次殿」
二人はなぜか堅苦しく挨拶を交わした。逢夜は静かに見守った後、口を挟んだ。
「ここから、出られますか?」
「ああ、今、サヨに連絡をとっているようだ。少々待て」
「わかりました」
千夜に言われ、逢夜はまた口を閉ざした。
※※
一方、プラズマは黒い砂漠に赤い空の世界に落とされていた。
「サヨ! どうした!?」
サヨに向かい叫ぶがサヨの姿は見えない。プラズマは勢いよく砂の山に落ちた。
「げほ……砂が口に……。真っ黒な砂漠……なんて不気味な……」
プラズマは何もない砂漠をとりあえず歩き始める。
「サヨに何かあったのか」
疑問を抱えながら歩くと突然、銀髪の少女が襲いかかってきた。
「ぐっ! あっぶねっ!」
銀髪の少女の小刀がプラズマの鼻寸前を通りすぎていった。
「なんだ!? じゃない、誰だ?」
「……」
着物を着た銀髪の少女は何も話さない。
少女は黒い砂を巻き上げ、それを神力としてまとめてプラズマに攻撃を始めた。
「オイ! 戦う気はない!」
プラズマが声をかけるが、少女は反応をしない。少女は戸惑うプラズマに針のような神力を飛ばす。プラズマは結界を張って防いだが、始めの方で何回かかすり、傷をつけられた。
「……いてぇ……」
プラズマが仕方なく霊的武器銃を取り出し構える。
「悲しい霊だ。すごく悲しい気持ちを感じる」
プラズマは銃を取り出したが、撃てずにいた。少女は無反応、無表情で操り人形のようにプラズマを襲う。針のような神力は次々とプラズマの体を突き刺していく。
「……いっ、つぅ……」
プラズマはそれほど結界が上手くないため、攻撃がすり抜けてくる。おそらく、オオマガツヒの遥か高い神力の一部だ。プラズマでもしっかりは防げない。
「やっ、やるしかないのか。あの子は女の子なんだぞ……。だが、このままだと俺がやられる!」
プラズマは攻撃的な神力に自分の神力をぶつけ、とりあえず相殺させていく。
「……あんたが……誰か知らないが……」
プラズマは息を吐くと光線銃を構えた。少女を射貫き、位置を予測する。
「ごめんな」
プラズマは目をそらしてから、目を瞑った。
目を頼りにしなくても、どこに少女が来るかわかる。
「俺は……暴力が嫌いなんだ」
小さくつぶやき、プラズマは引き金を引いた。プラズマの神力が矢のように少女を貫通する。
少女はプラズマを見て、初めて言葉を発した。
「わた……し、華夜……。助け……千夜お姉様に……あやまり……」
切れ切れに言葉を発した少女は黒い霧に包まれて消えた。
「……後悔の強い……魂。千夜にあやまりたかったのか。わかったよ。名前覚えたし、次、連れてくる。痛かっただろ、ごめんな……」
プラズマはアヤの世界から消えた霊に向かい、どこにともなく返答をした。
余韻が残る中、黒い砂漠が消えていき、赤い空もなくなっていった。彼女がアヤの世界に入り込んだ魂だったようだ。
オオマガツヒは勢力を拡大していく……。