夜の一族に光は4
プラズマとサヨはアヤの世界へと向かった。サヨがいなければプラズマは弐を自由に動けない。
アヤの世界を見つけられるのも「K」であるサヨだけだ。
「アヤの世界は?」
宇宙空間を飛び回るサヨに勝手に引っ張られるプラズマは、どれがどの世界かわからず、とりあえずサヨに尋ねる。
弐の世界は生き物分の心の世界がネガフィルムとなり螺旋のように連なっている世界。しかも、変動し、同じところに同じ世界がない。
故に「K」以外は迷い、肉体に魂が戻れず、壱に帰れなくなる。
プラズマはどの世界がどうなっているのかさっぱりわからない。
サヨが頼りだ。
「アヤの世界はここだね」
しばらく宇宙空間を飛び回ったサヨは螺旋状に絡まるネガフィルムの一つで止まった。
「なんか、禍々しいな……」
アヤの世界は黒い砂漠に赤い空の不気味な世界だった。おそらく、元々はこうではなかったはずだ。オオマガツヒの影響か。
「弐の世界の管理者権限システムにアクセス……『排除』」
世界に入ろうとした刹那、横から声が聞こえた。サヨは咄嗟にプラズマをアヤの世界に叩き落とし、カエルのぬいぐるみ『ごぼう』を出現させると『排除』を向けさせた。
「あっぶなっ! 誰? 『K』?」
『排除』が当たったごほうは弐の世界から排除され、サヨは冷や汗をかきながら目の前に立つ少女を見据える。
「私はメグ。ワダツミのメグ。弐の世界が緊急事態だ。オオマガツヒを『黄泉』に帰さないといけない。あなた達は我々の邪魔だ」
青い髪のツインテールの少女、ワダツミのメグはサヨを表情なく見つめながら言った。
「ああ、なるほど……望月家の問題は関係ないと」
「関係はない。我々に任せれば被害は最小限」
メグの言葉にサヨは軽く笑った。
「あっそ。じゃあ敵だわ。弐の世界管理者権限システムにアクセス『排除』!」
サヨはメグを逆に弐の世界から排除しようとした。
しかし……
「『拒否』」
メグはサヨの雷のような光を水流のような結界で受け流した。
『排除』のプログラムを『拒否』に書き換えたのだ。
「『排除』!」
「『拒否』」
「『排除』!」
「『拒否』」
何度やっても、『排除』が『拒否』に書き変わる。
「ウソ……『排除』できない」
サヨは困惑しながら、メグを追い出す方法を考える。
メグは多数水流を発生させ、神力と「K」の力でサヨを弐から追放しようとしていた。
オオマガツヒと戦う中で、平和のシステム「K」であるサヨを守るために、メグはサヨを『排除』しようとしているようだ。
ただ、今は余計なお世話である。
「あたしらが望月の無念を晴らす! だから、邪魔しないでよ」
「関係ない。気絶してもらって、『排除』しよう。痛くないから素直に当たってほしい」
睨み付けているサヨを見つつ、メグは水流のような神力をうねらせ、サヨに攻撃してきた。
本神に攻撃の気持ちがないため、『K』として消滅はしない。
「神はいいよね……。神力が武器になるんだから!」
サヨはカエルぬいぐるみ『ごぼう二号』を出現させ、神力を弾きながら避ける。
「……あなたにも神力があるようだが? 私の水を弾いてる……」
「……っ。やっぱ、あたしもなんかあんのか」
サヨは『排除』を使うため、隙を探す。メグは感情が表に出ない神で、冷静で落ち着いている。
メグに『排除』を使うのはなかなか難しそうだ。
サヨは攻撃的になったり、武器を使うと平和システム「K」に矛盾ができ、消滅してしまう。更夜はそれを心配し、刀を無断で使用したサヨを厳しく叱った。
……そうか。あたしも戦う気持ちじゃない方がいいんだ!
つまり、「メグが危険になる」から『排除』で守る。この気持ちである。
「ただ、並みの精神力だと怒りの感情が出ちゃう」
水流を避けながらサヨはメグをどうするか考えた。
メグを『拒否』が使えないような状態にするのが大事だと気がつく。
……あの子に近づいて、口を塞ぐ!
至近距離になるため、サヨが負ける可能性もあるが、迷っていられない。
「ごぼうちゃん! 弾け!」
サヨは目の前に迫る水流をごぼう二号で弾く。強行突破である。
徐々に近づき、背後をとるのが目標だ。
……おじいちゃんが言ってた……。
視界から外れるのがいいと。
そこにいると思わせて、実はいない。
「……ここだ!」
水流が鞭のように目の前に迫る。メグ側からサヨが見えなくなった。
サヨはごぼう二号で弾かず、身体を低くしながら脇にそれて、脇から来た龍のようにうねる水流の間をギリギリで避け、メグに近づく。
「……あっぶねっ……」
メグは一発目の水流で当たったと思っているらしい。
一瞬の隙にサヨは横からメグに近づき、腕を取り、口を塞いで叫んだ。
「『排除』!!」
「……っ!?」
メグは目を見開いたが、何もできずに弐の世界から消えていった。
「ごめんね……」
サヨは消え去ったメグに一言あやまっておいた。
「あの子、本気じゃなかったよね」
サヨは静かになった宇宙空間でぼんやりつぶやきながら、変動で消えたアヤの世界を探しに向かった。