夜の一族に光は3
全員がサヨの世界に入った。
サヨが戻った時には、千夜がルナの人形遊びに付き合っていたところだった。ルナもスズと更夜が消えて、不安で無理に遊んでいるように見える。
「ああ、帰ってきたか。ずいぶんかかったな」
千夜がおだやかに言い、逢夜が説明をする。
「はい、私の術を解いてもらっておりました。そのままお姉様の術も解きたいところなんですが、それどころではない状況になりまして……」
逢夜は代表して先程のことを話した。
「なるほど」
「では、どうするのだ?」
千夜は頷き、栄次はプラズマに視線を向ける。
「ああ、アヤを先になんとかしないといけなくなった……が、まずはサヨの世界を守るため、ルルに結界を張ってもらう」
プラズマがルルにお願いをし、ルルはサヨの世界に厄除け結界を張る。
「ん~、しかし、西の剣王軍のワシと東のワイズ軍の留女厄神ルルがいるとなると……ちと怖いのう」
ヒメちゃんは困惑した顔を向けた。
「うーん、思ったんだけどー、今から千夜サンの術解けるよ。あたしは世界を探して広げる、ヒメちゃんは記憶を固定する、おサムライさんと逢夜サンが千夜サンの世界に入るわけでしょ? あたし、千夜サンの世界には入れないけどー、さっきで慣れたから門開いたまま動けるよ」
サヨがそんなことを言い、プラズマは即座にやることを決める。
「わかった。それができるなら、俺をアヤの世界に連れていってくれ。千夜はここでルナを守っていてほしい」
「わかった。それが最適ならば従う」
千夜はルナと遊びながら答えた。
「プラズマ、アヤの世界にいるのはオオマガツヒの一部だろう? なんとかなるのか?」
栄次が尋ね、プラズマは珍しく真剣な顔で口を開いた。
「未来を見た。アヤに入りこもうとしているのはヒトの魂……負の感情に支配された望月家の子供のうちの誰かだ。そして……」
プラズマは一度言葉を切り、続ける。
「動揺すんなよ、取り乱すなよ。スズは望月凍夜から酷い暴行をうけたようだが、俺は今、それは切り捨てるつもりだ。時神が狂う方がマズイ」
時神達はプラズマの冷たさに驚いたが、最初にプラズマが言った忠告により、押しとどまった。
栄次はひとり、悲しそうに口を開く。
「弐に入ってから過去も見えた。凍夜は負の感情集めにスズのトラウマを再現したようだ……。生前、更夜にやられたことをそのままやっている。スズは怪我をし、泣き叫んでいるのだ……。すぐに助けに行くべきでは……。見ていられない。かわいそうだ」
栄次はスズの状態を把握し、プラズマを見る。しかし、プラズマは首を横に振った。
「感情に流されるな、栄次。まずは千夜を解放し、戦力を増やす。サヨは千夜の心の世界を見つけてから、俺を連れてアヤの世界へ入る。今すぐ動いてくれ。時間がない」
プラズマがそう言ったので、ヒメちゃんは歴史の検索を始め、サヨは千夜の心の世界を開く。
「私はどうすれば良い?」
千夜は冷静にサヨに目を向けた。
「なんもしなくていいよ。そのままで」
「わかった。よろしく頼む」
千夜はサヨに確認をとると、逢夜と栄次に頭を下げた。
「プラズマ……」
いつの間にかルナがプラズマの元に来ており、怪我をし寝かされているリカや、プラズマの側で震えているアヤを見つつ、不安そうにプラズマを仰いでいた。
「ルナ、大丈夫だ。過去見と未来見を使って俺達が何をするのか、見ていってくれ。ルナは能力を使おうとしなければ過去も未来も見えないんだろ? 怖くなったら力を遮断するんだ」
プラズマはルナの頭を優しく撫で、軽く抱きしめて落ち着かせた。
「記憶を繋いだぞい」
ヒメちゃんがそう言い、栄次が千夜の心の世界に向かい歩きだす。後ろから逢夜もついてくる。
「逢夜、気をつけて」
ルルが慌てて声をかけ、逢夜は「ああ」と短く答えた。
「栄次さんもお気をつけて」
逢夜により、いつの間にか布団に寝かされたリカは栄次に小さく言葉を発した。
「すぐ戻る」
栄次はリカを安心させるように言葉を選んで言った。
「じゃ、開いたからあたしはプラズマくんと行くわ。で、アヤは平気なわけ?」
サヨは栄次、逢夜が千夜の世界に入るのを見届け、アヤに目を向ける。
「……わからないわ。ただ、震えが止まらないの。大きな不安に押し潰されそう」
「ヤバそうだね」
「大丈夫だよ。私がここでアヤの肉体を厄から守るから」
ルルがアヤの背中を撫で、プラズマはサヨに目配せをした。
「サヨ、行こう。本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。歴史を繋いでるのはヒメちゃんだし。ヒメちゃん、共有お願い」
サヨはヒメちゃんに手を合わせる。
「わかったのじゃ。映像共有するぞい。必要あったら指示を出すからの。遠くても大丈夫なはずじゃ」
ヒメちゃんは当たり前に言ったが、共有が何かよくわからない。
「共有ってなんかの能力か?」
「いやあ、サヨに神力があるようでの、それを使った画面共有のことじゃ」
「ネット回線みてぇだな……」
プラズマが眉を寄せたが、サヨが急かしたため、口を閉ざした。
「アヤ、今からあんたの心にサヨと入るから、俺達を拒否しないでくれよ」
「ええ……受け入れるわ。ありがとう……」
アヤを残し、サヨとプラズマは屋敷から出ていった。