表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
170/316

夜の一族に光は2

 「戻ったぞ。方針を決めた」

 プラズマが部屋に入るなり言った。


 「戻ってきたな」

 救急箱を片付けている逢夜にプラズマはこれからの進み方を話す。


 「まあ、そうなるわな。じゃあ、さっそく戻ろう。サヨ」

 逢夜はプラズマの言葉にさっさと同意し、サヨを呼んだ。


 「逢夜サン、決断はやっ! ハイハーイ、弐の世界の門、開きまぁす」

 サヨはすぐに門を出し、入るように促した。


 「じゃあ、ワシは先にいくぞい」

 ヒメちゃんが一番に門をくぐる。


 「リカ、弐でとりあえず、休め」

 栄次はリカを優しくゆっくり抱きかかえ、負担なく歩きだす。


 「痛くないか?」

 「……はい、大丈夫です。ありがとうございます。千夜さんを助けたかったですが、仕方ないです」

 リカは落ち込み、栄次は息を吐いて続けた。


 「俺がなんとかする」

 「……過去が見えるって辛いですね。初めてこんな気持ちになりました」

 リカの言葉を聞きながら、栄次は弐の門をくぐる。


 「人に同情的になってしまう。どうにかして助けたいと思ってしまう……。俺は昔からそうだ」


 「わかりますよ。栄次さん。私はちゃんと栄次さんの相談は聞きますので、私で良ければ辛い気持ちを吐き出しても……」

 リカは心配そうに栄次を見た。


 栄次の「過去見」がどういうものかわかり、リカは栄次の気持ちを少し理解していた。


 「大丈夫だ。ありがとうな」

 栄次はいつも多くを語らない。

 人に話しても意味がないことを良く知っている。


 「辛かったら……」

 「お前に相談することにする。リカ」

 栄次がリカに話を合わせたことで、リカは自分の子供っぽさを感じた。


 栄次は八百年生きている。

 十八の青年のはずなのに、精神が自分とはかけ離れている。

 自分より重たいものを彼は背負っている。


 「俺はお前の方が心配だ。過去見に近い力を見たことで不安定になっている」

 「……はい」

 「今は休みなさい」

 「……わかりました」

 栄次とリカの会話を聞きつつ、アヤは複雑な表情を浮かべていた。皆が不安定になっている。


 それはアヤ自身もだ。

 自分は恐怖が抜けない。

 なんだか嫌な予感がする。


 「アヤ、門に入りな」

 プラズマに声をかけられ、アヤは肩を上げ、怯えた。


 「……大丈夫か?」

 「……大丈夫なのかしら……私」

 「大丈夫じゃねぇな。……逢夜!」

 プラズマは門に入りかけた逢夜を呼んだ。


 「ん? なんだ?」

 「厄除けの神、ルルを呼んでくれ」

 プラズマの言葉に逢夜は止まり、振り返った。


 「妻は巻き込まない」

 「……アヤが一番オオマガツヒに入り込まれる。あんたの妻の力で厄除けをしてくれないか」

 「結界を妻に張らせるのか? 妻はそこまでの力はないぞ」

 「……そうか」

 プラズマが落胆の声を上げた時、すぐ近くから少女の声が響いた。


 ヒメちゃんでもサヨでもなさそうだ。


 「け、結界なら張れます! アヤを守ることくらい、できるよ!」

 「おう? だ、誰だ」

 プラズマが慌て、逢夜が頭を抱えて声のした方を見る。


 「ルル、こっそりついてきて、盗み聞きとは悪い子だなあ……」

 「ルル!? この子が……」

 門をくぐっていないのはプラズマとアヤ、門を開いているサヨだけだ。三人は突然の登場に驚いた。


 ルルは短い紫の髪をした活発そうに見える少女だった。


 「逢夜! なんでウソつくの? 私、結界張れるよ!」

 ルルは逢夜の前まで来ると、半分怒りながら言うが、逢夜がルルに目を向けた途端にルルは口を閉ざした。


 「ルル、言いたかった事があるんだろ? 続きは?」

 「……」

 ルルは黙り込んだ。


 「黙んなよ。文句あんなら言え」

 「文句は……ないです」

 ルルが萎縮し、逢夜は慌てて雰囲気を変える。


 「あ、ああ、わ、わりぃ……すまねぇ。俺がお前を巻き込みたくなくて言った嘘なんだ。お前が怪我すんのもやだし、ワイズ軍が動くのも嫌なんだ」


 「……私、ワイズ軍だけど、私は逢夜のために来たんだよ。だから、疑わないで」

 ルルは少しせつなそうに目を伏せた。


 「う、疑うよりも怪我が心配でしょうがねぇ……。凍夜に狙われたらと思うと……。い、今もな、ひとり怪我したんだよ。俺にとってお前は一番大事な存在だ……だから……」

 ルルに対し、珍しく表情が情けなくなった逢夜にルルはさらに声を上げる。


 「逢夜! そんなこと言ってる場合じゃないんだって!」

 「どういう……」

 逢夜が困惑していると、サヨが横から口を開いた。


 「どうやらそうみたいだわ。弐の世界の『個人の心の世界』がオオマガツヒと凍夜に乗っ取られて、個人個人の想像力をなくしてる……」

 「なんだと!」

 逢夜が叫び、プラズマはアヤに寄り添う。


 「あたしの世界はまだ大丈夫。拠点にするなら、ルルが結界を張って少しでも厄が入らないようにするしかないね」


 「まずいな……そんなことをやり始めたか。弐(夢幻霊魂)の世界にある感情ある生き物の心を乗っ取り、壱(現世)を支配するつもりか」

 プラズマが頭を抱えた時、アヤの震えが酷くなった。


 「……アヤ、お前まさか……」

 「わからないっ! やめてっ!」

 アヤは突然泣き始めた。


 「弐の世界にある心をオオマガツヒに……」


 「嫌っ! 助けて……やだ……『凍夜様』が来る……」

 プラズマはとりあえず、アヤを優しく抱きしめる。


 「大丈夫。俺達がいる。ルル、なんとかできないか?」

 「……アヤの心を弐の世界で見つけて、元凶のオオマガツヒを追い出すしかないよ」

 ルルは心配そうにアヤを見ていた。プラズマはすぐに答えを出す。


 「……更夜を探す前にこっちが先だ。アヤは……『壊れちゃいけない』神なんだよ。サヨ、俺はアヤを優先で助ける。とりあえず、アヤの心に連れていけ」


 「……わかった。千夜サンはどうする?」

 「俺をアヤの心に連れていくのが先だ。千夜は後回しにしろ」

 プラズマはいつもの雰囲気を消し、やや高圧的にサヨに言った。


 「……わかった。とりあえず、あたしの世界に」

 プラズマはアヤを抱き上げ、背中を優しく撫でながら門をくぐって行った。


 「……ルル、ついてきてくれ。さっきはごめんな」

 逢夜はルルに手を伸ばし、一回抱きしめると手を引いて門に向かい歩き出す。


 「……ひゅ~! ナイスカップゥ~」

 サヨはにやつきながら最後に門を閉めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] アヤが狙われてしまったようですね…アヤはかなりまずいです…その一方でそんなアヤまで狙おうとする凍夜の狙いはなんなのでしょう…そして厄除けのルル、ちんまいのですね!想像とは違って可愛らしいんだ…
2022/09/12 09:42 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ