戦いは始まる1
スズが凍夜に連れ去られ、更夜は我を忘れ凍夜を追いかけた。
「……我々は凍夜に逆らえない。霊になっても奴の術に縛られている」
千夜は目を伏せ、逢夜はため息をついた。
「それが問題なんです。更夜はあの小娘を人質にとられ、怒り、逆らえないことに気づいてない。更夜は危険です」
「だが、これは望月の問題。高天原に動かれたくはない。凍夜の術にかかってない望月はサヨ、ルナ……」
千夜に指名され、肩を上げて驚くサヨとルナ。
「……ルナはまだ小さい。戦いに行くには危ない。……サヨ……」
千夜がサヨを申し訳なさそうに見た。
「な、なに? あたしが凍夜と戦うの? あたし、武器持てないんだよ?」
「わかっている。だから、私達の呪縛を解く手伝いをしてもらいたい」
千夜はサヨの背中を撫でながら言う。
「呪縛を……解く……」
「恐車は逢夜にも私にも深くかかっている。この術を解かないと、我々は解放されない。更夜は間違いなくこのままではオオマガツヒに落ちる」
千夜はサヨを落ち着かせようと、穏やかな声で説明をした。
「呪縛を解くには……私達の中にいる記憶内の望月凍夜を倒すことだ。私達自身でな。サヨは『K』。
ならば、私達の記憶の中に入り、望月凍夜を見つけられるはずだ。見つけるだけだ。戦うのは私と……逢夜だ。自分達で凍夜の記憶を打ち負かすことで、術を切るんだ」
「えっと……」
「もう少し説明をすると、術がかかる寸前の私達の記憶で、記憶内部の望月凍夜を殺す」
千夜はどこか迷いながら目を伏せた。
「ねぇ、ちょっといい?」
サヨが眉を寄せながら疑問を口にする。
「ああ」
「その記憶って子供時代の話なんじゃないの?」
サヨの発言に千夜も逢夜もため息をついた。
「その通りだ」
「凍夜は若い男でしょ? 時代的に。幼い子供が凍夜に勝てなかったから、術にかかったわけ。記憶のふたりが子供なら、凍夜に一人で勝つのは難しいんじゃね?」
鋭いサヨに千夜は苦笑いを向けた。
「その通りだ。だから、最後のとどめで子供時代の我々が凍夜を殺す。その隙をサヨが作る……。……いや、お前が怪我をしてしまうか……」
千夜はサヨに怪我をさせたくはないようだ。千夜の術を解くのに、手伝いを逢夜にすると、逢夜は術により凍夜に攻撃どころか動けない。
「……わかった。高天原が介入する前に、自分達の術を解いて、自分達で凍夜を倒したいってことか。でも、あたしは戦えない。防御ならできるけどね。
……もう、スズが連れ去られて、おじいちゃんが消えた段階で、時神の問題でもあるから、プラズマに話を持っていくから」
サヨの言葉に逢夜は千夜を心配そうに横目で見た。
「お姉様、時神に話が伝わります。よろしいですか?」
「……本当は私達でなんとかしたかったが、更夜がああなった以上、仕方ないのかもしれない。高天原が介入してこないのなら、かまわない。……いや、助けてもらおうか」
千夜がそう発言し、逢夜は頭を下げた。
サヨはため息をつくと、ルナを千夜に渡し、壱の世界への扉を開く。
「俺も行く」
なぜか逢夜がついてきて、サヨはさらにため息をついた。