夜の子孫達3
「そうだ……俺は本当の先祖じゃない……。俺は望月静夜……いや、木暮静夜の父だ。つまり、直系望月家の祖先ではない。望月家をだましていた事、申し訳なかった」
更夜はサヨとルナに体を向け、頭を下げた。いつもと違う更夜に二人は困惑する。
「そ、そんなこと急に言われても……。おじいちゃんはあたし達のおじいちゃんで……更夜様じゃん……。急におじいちゃんやめないよね? ルナはおじいちゃんが大好きなんだよ?」
サヨの言葉にルナは今にも泣きそうな顔を向ける。
「おじいちゃん……。ルナのおじいちゃんやめるの? ルナがばあばのこと、話したから?」
ルナの純粋な発言が更夜に静夜を思い出させる。
「この……なんだかわかってないのに、発言してる感じ……静夜に……静夜にそっくりなんだよ……」
更夜は涙ぐみながら言う。
「おじいちゃん……あたしもおじいちゃんがいないと寂しいよ……」
サヨは珍しく悲しい顔をし、更夜を見ていた。
「サヨ……お前も本当に手がかかる子だった……。ルナより厳しく叱ったこともあるな。大きくなっていくお前が、静夜の年齢を抜かした時……静夜が大きくなったらこんな感じなのかと……心のどこかで思っていた。結局は……」
更夜は二人の前で、静夜と比較していたことを告白する。
そう、結局は静夜と重ねていたのだ。
更夜は情けなく泣きながら、望月家の主、望月千夜に頭を下げる。
「お姉様、申し訳ありませんでした……。お姉様……私は静夜の罪滅ぼしでっ……お姉様が……お姉様が黙っているのをいいことに、守護霊のふりをし、彼女達を育てました。申し訳ありませんでした。まるで……静夜を育てているように感じて……かわいくて……」
切れ切れに言葉を発する更夜に、千夜は優しい顔で口を開いた。
「更夜……。お前は優しい弟さ」
千夜は項垂れている更夜に近づき、片膝をついた。
「わかっていた。……私は息子が産まれた時に死んだ。息子と夫と過ごしたかった。ああ、それで……息子をアイツに持っていかれた時、私は逆らえずに泣きながら任務へ行ったんだ。そこで、追われていた敵国の名もなき親子を助けてしまった。息子を産んだばかりだったから、悲しくなったんだ。それでな、命令違反をした私は後ろにいた妹に殺された……」
千夜は目を伏せ、頭を下げ続ける更夜に語る。
「私も……子を育てられなかった。故に……気持ちが良くわかっていた。ああ、逢夜……、よく覚えておけ。苦労して産んだ大切な子を、幸せにできなかった親の苦しみは……簡単には消えないんだ」
千夜は横目で逢夜を視界に入れ、静かに言った。
「わからなくても良い。だが……更夜を責めるな」
「……申し訳ありません。軽率でした。お許しくださいませ」
逢夜は素直に謝罪した。
「逢夜、ありがとう」
「……」
逢夜は静かに頭を下げた。
「更夜」
千夜は再び更夜に目を向ける。
「はい」
「お前の気持ちが痛いほどわかった。……だから私は知らないふりをしたのだ。お前は本当に優しい子だ。ふたりを育ててくれてありがとう。
ああ、木暮静夜に会った。お前の娘、木暮静夜はな、木暮の守護霊になっていた。彼女はな、不思議と消えられないらしい。
どこか人間のくくりから外れてしまったのかもしれない。その彼女が言っていた。彼女は……木暮静夜はな、お前を心から尊敬していると」
千夜の言葉を聞いた更夜は項垂れながら泣いていた。
「ありがとう……ございます……」
「更夜、だから……このまま二人を育ててやってくれ。私は偉そうにはできぬ。息子を育てていないからな」
千夜は更夜の頭を優しく撫で、離れた。
「お姉様……お姉様はもっと辛かったはず……」
更夜のつぶやきに逢夜が答える。
「……そうだ。更夜が産まれる前の方が……凍夜のしつけが酷かったな。しつけというか、なんだったんだろうな、あれは……。ただの拷問か」
「逢夜、もう良い。思い出したくない。私を度々かばってくれたこと、本当に感謝している」
千夜は話を切り、障子扉の方に目を向ける。
「……お姉様?」
「どうやらお嬢さんが話を聞いていたようだ」
「スズですね」
更夜が言い、千夜が頷いた。
「お前も守るものが多くて、大変だな……」
「お姉様……」
逢夜が小さい声で千夜を呼んだ。
「……?」
「厄を感じます……」
「厄……」
千夜と更夜は同時に眉を寄せた。