表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
160/316

夜の子孫達3

 「そうだ……俺は本当の先祖じゃない……。俺は望月静夜……いや、木暮静夜の父だ。つまり、直系望月家の祖先ではない。望月家をだましていた事、申し訳なかった」


 更夜はサヨとルナに体を向け、頭を下げた。いつもと違う更夜に二人は困惑する。


 「そ、そんなこと急に言われても……。おじいちゃんはあたし達のおじいちゃんで……更夜様じゃん……。急におじいちゃんやめないよね? ルナはおじいちゃんが大好きなんだよ?」


 サヨの言葉にルナは今にも泣きそうな顔を向ける。


 「おじいちゃん……。ルナのおじいちゃんやめるの? ルナがばあばのこと、話したから?」

 ルナの純粋な発言が更夜に静夜を思い出させる。


 「この……なんだかわかってないのに、発言してる感じ……静夜に……静夜にそっくりなんだよ……」

 更夜は涙ぐみながら言う。


 「おじいちゃん……あたしもおじいちゃんがいないと寂しいよ……」

 サヨは珍しく悲しい顔をし、更夜を見ていた。


 「サヨ……お前も本当に手がかかる子だった……。ルナより厳しく叱ったこともあるな。大きくなっていくお前が、静夜の年齢を抜かした時……静夜が大きくなったらこんな感じなのかと……心のどこかで思っていた。結局は……」


 更夜は二人の前で、静夜と比較していたことを告白する。


 そう、結局は静夜と重ねていたのだ。


 更夜は情けなく泣きながら、望月家の主、望月千夜に頭を下げる。


 「お姉様、申し訳ありませんでした……。お姉様……私は静夜の罪滅ぼしでっ……お姉様が……お姉様が黙っているのをいいことに、守護霊のふりをし、彼女達を育てました。申し訳ありませんでした。まるで……静夜を育てているように感じて……かわいくて……」


 切れ切れに言葉を発する更夜に、千夜は優しい顔で口を開いた。


 「更夜……。お前は優しい弟さ」

 千夜は項垂れている更夜に近づき、片膝をついた。


 「わかっていた。……私は息子が産まれた時に死んだ。息子と夫と過ごしたかった。ああ、それで……息子をアイツに持っていかれた時、私は逆らえずに泣きながら任務へ行ったんだ。そこで、追われていた敵国の名もなき親子を助けてしまった。息子を産んだばかりだったから、悲しくなったんだ。それでな、命令違反をした私は後ろにいた妹に殺された……」


 千夜は目を伏せ、頭を下げ続ける更夜に語る。


 「私も……子を育てられなかった。故に……気持ちが良くわかっていた。ああ、逢夜……、よく覚えておけ。苦労して産んだ大切な子を、幸せにできなかった親の苦しみは……簡単には消えないんだ」


 千夜は横目で逢夜を視界に入れ、静かに言った。


 「わからなくても良い。だが……更夜を責めるな」


 「……申し訳ありません。軽率でした。お許しくださいませ」

 逢夜は素直に謝罪した。


 「逢夜、ありがとう」

 「……」

 逢夜は静かに頭を下げた。


 「更夜」

 千夜は再び更夜に目を向ける。


 「はい」


 「お前の気持ちが痛いほどわかった。……だから私は知らないふりをしたのだ。お前は本当に優しい子だ。ふたりを育ててくれてありがとう。


 ああ、木暮静夜に会った。お前の娘、木暮静夜はな、木暮の守護霊になっていた。彼女はな、不思議と消えられないらしい。


 どこか人間のくくりから外れてしまったのかもしれない。その彼女が言っていた。彼女は……木暮静夜はな、お前を心から尊敬していると」


 千夜の言葉を聞いた更夜は項垂れながら泣いていた。


 「ありがとう……ございます……」


 「更夜、だから……このまま二人を育ててやってくれ。私は偉そうにはできぬ。息子を育てていないからな」


 千夜は更夜の頭を優しく撫で、離れた。


 「お姉様……お姉様はもっと辛かったはず……」

 更夜のつぶやきに逢夜が答える。


 「……そうだ。更夜が産まれる前の方が……凍夜のしつけが酷かったな。しつけというか、なんだったんだろうな、あれは……。ただの拷問か」


 「逢夜、もう良い。思い出したくない。私を度々かばってくれたこと、本当に感謝している」

 千夜は話を切り、障子扉の方に目を向ける。


 「……お姉様?」

 「どうやらお嬢さんが話を聞いていたようだ」

 「スズですね」

 更夜が言い、千夜が頷いた。


 「お前も守るものが多くて、大変だな……」

 「お姉様……」

 逢夜が小さい声で千夜を呼んだ。


 「……?」

 「厄を感じます……」

 「厄……」

 千夜と更夜は同時に眉を寄せた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 平和な時代に産まれていれば……(´;ω;`) しんみりしている暇はそんなになさそうだなぁ!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ