夜の子孫達2
「更夜」
逢夜が更夜を威圧的に呼ぶ。
「はい」
更夜は素直に返事をした。
「厄について説明してもいいか?」
「……はい」
更夜の態度にサヨは自分達姉妹とは違うことを感じとる。
序列がある。
明確な上下がある。
「……ねぇ、あたし、敬語の方がいい?」
サヨの言葉に逢夜は笑った。
「今さらだなァ。そのまんまでいいぞ。俺達は父のルールのせいで服従精神が兄弟感、夫婦感で強いだけだ。だが、俺は妻と友のように話している。様付けなんてさせてねぇし、意見も出してもらってる。だから、普通でいい」
「わかった」
サヨは少し怯えながら頷き、逢夜は続きを話し始める。
「じゃあ、厄についてだ。父、望月 凍夜は残虐非道だった。あの男には『喜』以外の感情がない。
お姉様の夫である、別の望月家の夢夜が反抗し、凍夜を殺した際も凍夜は人の死に方について模索しながら、興味津々に死んだらしい。
彼は望月全体から恨まれていたため、魂がきれいにならず、この弐の世界(死後の世界)に残り続けた」
逢夜は深呼吸をし、続きを話す。
「その後、ヤツに対する恨みなどが厄となり、最大級の厄神、オオマガツヒが凍夜に気づいた。
オオマガツヒは凍夜に入り込んだが、ヤツには『喜』以外の感情がない。つまり、厄神が入っても力を手にしただけで、人間としては狂わない。負の感情を感じられないからだ」
逢夜は目を伏せてから、また更夜を視界に入れ、さらに続ける。
「それで……、完全に融合したオオマガツヒ、凍夜が力を増やし、再び望月家を支配した上、世界征服を考えている。俺が前回高天原西にいた理由は歴史神からコイツを聞き出すためだ。早めに動いて俺達が凍夜に復讐しないと、高天原が動くぞ」
「そういうことでしたか」
更夜が頷き、サヨは焦った。
「ま、待って! 復讐ってそんなこと……」
サヨの言葉に逢夜の眉が上がり、更夜がサヨの説明をする。
「お兄様、彼女は『K』です。彼女の『正』の力がないと、私達はヤツに飲まれます」
「ああ、そうか。サヨ、お前さんはこの件、関わらねぇ方がいいな」
「で、でも……皆、傷ついたり、怪我じゃすまないってことない? あたしは心配なんだけど」
サヨの不安そうな声を聞き、更夜は眉を寄せた。
「……。この子達を置いては……」
「とりあえず、ヤツを早く倒しに行こう。高天原が動く前に、俺達がアイツをヤる」
逢夜が更夜を睨み、更夜は深呼吸をし、答える。
「私は行きません。様子を見、高天原に任せます」
「なんだと、更夜! アイツを殺りにいかねぇのか」
逢夜は、父に恨みを持つ更夜が必ず動くと思っていた。更夜が動かないことに逢夜は驚く。
「はい。守るべき者がおります故……」
更夜はサヨとルナを見つつ、逢夜にそう伝えた。
「守るべき者?」
逢夜はサヨとルナを横目で見て、眉を寄せた。
「それはお前の子孫じゃねぇだろ。罪滅ぼしでガキ育ててんじゃねーよ」
逢夜の言葉にサヨとルナは顔を見合わせた後、不安そうに更夜を見た。
更夜はうつむき、なにも言わなかった。
……静夜。
更夜は幸せにできなかった幼い娘を思い出す。
父の命令通りに城主暗殺をした後、追手から娘を守ろうと、親子の縁を切ろうとした。
父と呼ぶことを禁止し、娘を別の家に無理やり嫁がせようとした。
しかし、娘は更夜を父と呼んではいけない理由が理解できなかった。だから、何回も更夜を父と呼んだ。更夜はいらつき、理解しない娘に暴力を振るい始めた。
「俺を父と呼ぶな! 何度言えばわかるんだ! 殴られてぇのか、クソガキ!」
更夜は怒りに任せ、娘、静夜をひっぱたき、静夜は泣きながら謝罪を繰り返す。
しかし、意味がわかっていない。
静夜は
「ごめんなさい、お父様、もう叩かないで」
と泣き、更夜は「父と呼ぶな!」と再び彼女を叩く。
今思えば、追手から娘を守る事に必死で、思い通りにならなかった娘にいらついていただけだ。
静夜はおそらく自分を恨んでいるだろうと死んでからもずっと、同じ事を何度も考えた。
考えても、今、娘に優しくできるわけではない。
暗い顔で下を向く更夜に逢夜は鋭く言った。
「お前の娘への罪滅ぼしはやめろ。あれは『お姉様』の子孫。お姉様が望月の守護霊だ。お前じゃねぇんだよ」
逢夜の一言に、サヨは戸惑いの表情を浮かべた。
「お、おじいちゃん……」
「わかってんだろ? 更夜。お姉様はお前がいるから、守護霊になりきれてないんだよ」
逢夜の言葉にサヨは動揺しつつ、更夜をただ黙って見据える。
更夜は目を伏せたまま、悲しそうにうつむいていた。