うつつとも夢とも知らず5
更夜はスズをそのまま寝かせ、ルナの朝ごはんを作り始めた。
「おじいちゃあん! フレンチフライズ~!」
ルナはいつもと変わらず、朝から騒がしい。
「揚げ物はおやつにしなさい! 朝から食ったら気持ち悪くなるぞ!」
更夜もルナといると騒がしい。
「じゃがいも!」
「今、粉ふきいもを作っている! 味噌汁もちゃんと飲め!」
「はあ~い」
更夜は机に粉ふきいも、味噌汁、ごはんなどを置き、ルナに朝ごはんを食べさせる。
「ちゃんといただきますを……ん?」
更夜は眉を寄せ、玄関先の気配を感じ始めた。
「サヨだな……なぜこんなに……」
更夜は朝食を食べているルナを置いて、廊下に出る。
サヨは休憩室に使っている、一番玄関から近い部屋に入って行った。更夜は追いかける。
「サヨ、どうした」
更夜が声をかけたが、サヨは振り向かない。
サヨは泣いていた。
「……なにがあった?」
更夜はなるべく優しく声をかける。
「……わかんない」
サヨは動揺しながら下を向いた。
「まずは深呼吸だ。それから、何があったか、話してくれるか?」
更夜に言われ、サヨは深呼吸をし、口を開いた。
「平和を愛する『K』が皆……悲しんでる」
「……?」
「おじいちゃん……助けて」
サヨは激しく泣き出した。
「どうした? 泣かずにまずは落ち着いて教えなさい」
更夜に頭を撫でられ、少し落ち着いたサヨは戸惑いながら話し始めた。
「おにいがね、目覚めなくなって、弐の……世界にさらわれたの……。おにいを探そうと弐に入っておっかけたんだけど……」
サヨはそこで言葉を切り、再び涙をこぼし始めた。
更夜は優しくサヨを抱き寄せる。それにより少し安心したサヨは続きを話し始めた。
「銀髪のすごい怖い男が、お前は女だからいらない。男に指図するな、男を産めないなら死ねって言った。どういうことかわかんなくて何もできなかった。おじいちゃん、ごめんなさい」
それだけ言ってサヨは黙り込んだ。
更夜は歯を食い縛った。
この言い方、身に覚えがありすぎる。
……お姉様……。
泣き叫ぶ姉の姿が浮かぶ。
「私はいつまで男にならなければならないのですか?」
苦しみながら
許しを乞う母の姿が浮かぶ。
「お願いします! 次は男児を産みますから!」
殺してやりたかった。
泣き叫ぶ姉や母の前にはいつも、あの男がいた。
投げ捨てられた赤子。
踏みつけられた赤子。
首を落とされた赤子。
「ではさっさと次だ」
産まれたばかりの赤子を殺し、泣き叫ぶ母に暴行する銀髪の男。
いつも笑みを浮かべている人間とは思えない男。
更夜は怒り、恨みの感情を溢れさせた。
……凍夜か……。
サヨを傷つけ、俊也をさらうとは、まだ望月を苦しめるつもりか。
次は殺してやる。
憎しみの感情がオオマガツヒを呼ぶことに、更夜は気がついていない。




