うつつとも夢とも知らず4
サヨは弐の世界に入り、想像する生き物分の個人世界が絡まるネガフィルムの螺旋を避けて、宇宙空間を飛んでいく。
……昨日……。
サヨは昨夜の事を思い出す。
……おじいちゃんがすごく悲しい気持ちになってた。
詳細はわからないけど、苦しい気持ちだけは伝わってきた。
心が繋がっているから、辛い感情を共有してしまう。
おじいちゃんは疲れてる。
だから……原因はあたしが調べる。
「おにいは弐から帰ってきてないんだよね……? どうやって探そう」
どうするか迷っていると、視界に銀髪の青年が映った。
「え? お、おじい……」
更夜だと思ったサヨは言いかけて固まった。
顔がとても似ているが、雰囲気が全く違う。
……誰だ……?
サヨは黙り込み、更夜にとても似ている青年を見上げる。
とりあえず、雰囲気が「異常」だ。周りに禍々しい黒い霧を纏い、おかしいくらいに目が見開き、口もとに不気味な笑みを浮かべている。
更夜と似ているが、こちらは人間とは思えないなにかを見ているような恐ろしさがある。
……気持ち悪い。
サヨが眉を寄せた時、青年がサヨの横を通りすぎていった。
「……霊? ちょ、ちょっと!」
声をかけたサヨに青年は立ち止まった。
「なんだ? 望月家か。お前には興味はない。望月の当主は男。女は男を産むことだけを考えろ。指図をするな。それ以外の使い道はない。
望月のため、男を産め。産めなければシネ。女などそれしか使い道がないんだ。だからな、出てくる度に殺すんだよなあ。殺しかた考えるのも楽しいからまあ、いいのだが」
「……え……」
突然に非道な言葉をかけられたサヨは固まった。
「その年で男を産めないのか? なんで生かされてる? 理解できんなあ~」
「な、なにを……?」
「まあ、望月の跡取りは迎えた。お前などどうでも良い。お前はそうだな、あと一年待ってやる。一年たってガキを産めないようだったら、『処理』だ」
青年は不気味に笑いながら去っていった。
サヨは何も言えず、呆然とその場に立ち尽くしていた。
しばらくし、彼に言われた事の意味がわかってきたサヨは震えた。悲しい気持ちがまず押し寄せる。
……なんでこんなことを言われた?
昔は女の子ばかり産む夫婦は女性に問題があると言われた。
差別用語もあった。
女は男の子を産むため、望まぬ妊娠を繰り返し、養えなくなった女の子を売りに出していた時代があった。
その時代を……サヨは知らない。
知らないからこそ、悲しくなった。サヨは悔しさよりも悲しくなった。見知らぬ男にそう言われただけで、気にしなければ良かったのだが、サヨの瞳には涙が溢れていた。
動揺しながらサヨはおとなしく、更夜がいる自分の世界へと戻っていった。