エピローグ
とりあえず落ち着いた時神達は畳に円形になり座る。更夜の膝にはスズが座り、プラズマの上にはルナがいた。スズとルナはお互い静かにふざけ合い、遊んでいたため、そのままにして話を進める。
一通り情報を出しあった後、まだ呆然としていたリカに目を向けた。
「リカ、少し落ち着いたか?」
プラズマが代表で尋ね、リカは頷く。
「はい。混乱はなくなってきました」
「栄次がサヨ、ルナの過去見で、リカが血まみれでスサノオを排除した過去が見えたらしいが、覚えているか?」
「いいえ……何も」
リカは小さく答える。
「じゃあ、間で何があったのか、説明できるか?」
「……えーと」
リカは少し考えてからまた口を開く。
「ワイズが……首謀者はマナだと言っていて、この世界を守りたいから助けてほしいと言い、ワールドシステムを開いたので、私はマナさんを止めようとワールドシステムまで行ってマナさんに出会いました。
マナさんは世界を壊す破壊のデータを持っているのに、それに逆らって世界統合をしようとしてて……私はその破壊データのマナさんをなぜか殺そうとしてて……えっと……」
リカは時神達に説明するが、自分でも何を言っているのか、わからなくなっていた。
「マナさんと戦って、とりあえず勝ちました。そこからは覚えてません」
「無茶すんなよ……」
プラズマがリカを心配し、リカははにかんだ。
「私も何か力になりたくて……サヨのように無茶をしてしまいましたね。ごめんなさい」
「リカ……本当に酷い怪我だったのよ。私ひとりであなたの時間を巻き戻すのに二週間以上かかったんだから……。無理はしないで」
「うん。ごめんね……」
アヤに心配され、リカはもう一度あやまった。
「今回は皆無理をした。俺のために皆、ありがとう。だが、今後、ここまでの損傷を負わないように気を付けてくれ……。俺達時神は、人間の皮を被って産まれた神。破格の力を持つ神には……残念ながらまだ勝てない。俺も未熟だった」
プラズマの発言に時神達は皆、静かに頭を下げた。
「ルナ、その青いぬいぐるみ、何? かわいい! 貸して!」
「これ? いいよ! 勝手に動くから楽しいよ」
静かになった時、ルナとスズの会話が聞こえ、時神達は顔を青くした。
「待て! こいつはっ!」
「冷林!」
更夜とプラズマがそれぞれ叫び、冷林は軽く頷いた。
「あなた、元気になって北に帰ったんじゃなかったの?」
アヤが尋ね、冷林は頷いた。
「よくわからんが、また戻ってきたようだな」
栄次が過去見をし、そう言った。冷林は何かを伝えようとしていたが、結局わからなかった。
いつの間にか沢山の野菜と米が箱に入っており、冷林はそれを一生懸命指差していた。
「お礼なのか? 今回の件の?」
プラズマが尋ね、冷林は頷く。
その時、聞いたことのない男の声が響いた。
「話、終わったか? ウケモチ便っす~! ああ、とりあえず野菜置いとくぜ。じゃあなっ!」
ほどよくしまった肉体の、胸までのちゃんちゃんこを着た、黄色の短い髪の男が白いキツネを従えてさわやかに去っていった。
耳にはキツネ耳を生やしている。
「あ~! ミノさん~! 待って! 遊ぼーよ!」
ミノさんと呼ばれた謎のキツネ耳を追い、後ろにいたらしい幼い少女が慌てて走り去った。
幼い少女は赤い巾着を逆さにしたような帽子をかぶっており、赤い羽織に着物を着ていた。
「俺、これから昼寝~! 昼寝ごっこならやるぜ~。てか、イナ、ここに遊べそうな女の子いたじゃねーか。そっち行きなって」
「ミーノーサーン!」
台風のように去っていった謎の神々に時神達は固まっていた。
「な、なに?」
スズが動揺しつつ、つぶやき、アヤが答えた。
「あれは稲荷神。穀物の神よ。私のお友達なの。今回、なんかこちらにサプライズで入れてほしいって言うから、サヨに門を開けてもらったの。冷林のお礼だったのね」
アヤの言葉に冷林は頷くと、ふわりと浮いて去っていった。
「あー! じゃがいもォォ!」
じゃがいも禁断症状が出ていたルナが箱に入っていたじゃがいもをそのままかじろうとしたので、更夜はじゃがいもを奪い、ルナを抱え、お尻を一発叩く。
「あと五分だ。我慢しなさい」
「なんでルナ、お尻ばっか叩かれるのー!?」
「じゃがいもに気が向いたら、お尻一発と決めただろ?」
「おじいちゃん! ルナ……ルナ……もう無理だよォォ! もう無理ィ!」
ルナが騒ぐため、更夜はため息をついた。
「更夜、もう許してやれよ。じゃがいもが目の前にあるんじゃあ、じゃがいも好きなルナにはキツいと思うぜ、たぶんな。てか、よく頑張ったんじゃね? 一ヶ月我慢したじゃないか」
プラズマに言われ、更夜は苦笑いを浮かべた。
「……だよな。いやあ、本当によく頑張ったな。今回の件で成長したのかもしれない。はあ、俺は尻ばっか叩いて疲れたがな」
「疲れたならやめなよ。なんでうちのルール、昔からお尻叩きなの?」
サヨに問われ、更夜はハッキリと言う。
「お前らのやることがいちいちデカイからだ! めんどうだからお仕置きは尻叩きでいいんだ。何度も言うが、重刑なんだぞ。
お前らが、定めた重刑を軽く破るんだろう!
火薬を使わずにトースターでマシュマロを焼け、変な薬を俺に飲ませるな、ツボにボールを当てるな、それだけの事がなぜ守れない」
更夜はスズとルナを軽く睨む。
ふたりは口角を上げつつ、ひきつった笑みを浮かべる。
「そんなに怒るな、更夜」
栄次に言われ、更夜は頭を抱えた。
「今後、お前らのところに高頻度で預けるから覚悟しておけ」
更夜は壱の時神達に低い声でそう言い、栄次達は苦笑いを浮かべた。
「ま、まあ、更夜が頼ってくれるようになった故、よしとするか」
「……だ、だな。更夜、厳しすぎんだよ。女の子のお尻をパンパンビシビシ叩いてかわいそうだぜ。アイツ、尻叩き魔じゃん」
「厳しすぎるのには同意だが……彼女らも相当お転婆だぞ……」
栄次、プラズマが静かに会話をし、ルナが騒ぎ始める。
「じゃがいも! じゃがいもォォ!」
「わかった、わかった……。なんのじゃがいも料理がいいんだ?」
「なんでもぉ!」
更夜の問いにルナが満面の笑みを浮かべた。
「ああ、お前らもなんか食うか? リカ、お前はまだ起きたばかりだ。お粥を作る。傷が残らなくて良かったな。子供がバタバタしているが、休める時に休め」
「あ、ありがとうございます……」
更夜の言葉にリカは慌ててお礼を言った。
「とりあえず、スサノオとマナは不気味だけれど……今回は解決ね。またちゃんとした日常がくるかしら……?」
「元気なルナとスズを見ていると、日常っていいなって思うよ、ほんと」
アヤがつぶやき、リカが答える。
「更夜! 俺、あれ食べたい! あれ!」
「あれじゃわからんぞ、プラズマ……」
プラズマがルナに纏わりつかれながら、食べたい物を言うが、食べ物の名前を忘れている。
更夜は呆れた。
「この子達の相手をしていると、わからなくなるのはわかるな……」
栄次がスズの頭を撫でながら、しみじみと言葉をこぼす。
「ポテト~サラダ~!」
ルナが叫び、さらに思い出せなくなったプラズマは
「ポテト~サラダ~!」
と、とりあえず一緒に叫んでいた。
「プラズマは頼りになるのか、ならんのかわからないな……」
ため息をついた更夜が立ち上がり、栄次とアヤが追う。
「手伝うわ」
「飯も炊くか? 火を……」
「栄次、今は炊飯器だ。ああ、……アヤ、助かる」
更夜は呆れていたが、頼れる仲間の存在を誇らしく思えるようになった。
「ルナ、タマネギの皮、剥いてくれ。ヒーローなんだろ? 実はすごく困っている。ルナの力が必要だ」
更夜の言葉にルナは目を輝かせ、更夜の腕にからだ全体でしがみつき、更夜の着物をはだけさせたが、更夜は構わず歩き出す。
その後をなんとなくプラズマがついていった。
「更夜さんってなんか難しいね」
リカがサヨに言い、サヨはため息をついた。
「ねー、おじいちゃんはね、ルナを育ててからなんか変わったんだ。柔らかくなったっていうか、優しくなった気がする。ルナがかわいいんだね。ちょっとうらやましいわあ」
「私はサヨにもすごく優しいと思ったよ。更夜さんの刺々しい雰囲気がサヨとルナと話している時はない」
リカの言葉にスズがせつなげにうつむく。
「更夜のお嫁さんはあたしだけなのに」
スズの言葉を聞いたサヨとリカは顔を見合わせて軽く笑う。
「更夜さんのお嫁さんはスズだけだよ」
「そうそう。あたしにとっては親のようなもんで、ルナにとってはパパだもん。だから、嫁はあんただけじゃん?」
「そっか! あたし、更夜を手伝ってくる!」
スズが納得し去っていった。
「やれやれ。おじいちゃん、そんなに魅力かねぇ?」
「……ふふっ」
ふたりが笑いあっていると、更夜がなんか叫んでいた。
「サヨ! お皿くらい運ぶ手伝いをしなさい!」
「ちっ、呼ばれた。リカ、休んでて! はーい! いきま~す!」
サヨが慌ただしく出ていき、リカはひとり残された。
開け放たれた障子扉からはかわいらしい白い花が沢山咲いているのが見える。
「皆、優しいな……。この場所を失いたくない……。皆を守りたい」
……更夜さんは色々なものを失ってここにいると聞く。
あのひとも、きっと失うのが怖いのかもしれない。
「でも、大切なものがあるっていいよね……」
リカは騒がしい台所が気になり、寂しさを埋めるため、立ち上がった。