最終話2
高天原会議には、東西南北、太陽、月が集まった。太陽の姫、サキは夜の間はレジャー施設、竜宮に泊まる事で来ることに合意したようだ。
話はプラズマが予想した通りに終わり、誰も罪にならなかった。
会議がお開きになる直前、更夜から緊急の電話がプラズマに入る。
「会議の最中に申し訳ありません。リカが大怪我をしており、神力の低下が激しいです。会議が終わりましたらすぐに、こちらにいらしてくださいませ。……焦らなくていい。プラズマ、応急措置をして命は繋いでいる。サヨを迎えに行かせるから、終わったら教えてくれ」
「……」
更夜の電話を聞きながら、プラズマは顔色を青くしてから、怒りをつのらせた。
「誰だ……。リカを瀕死にしたやつは……。ここにいるんだろう? 誰だっ!」
プラズマは会議室にまだ残っていた面々に叫んだ。
「誰なんだ。リカを攻撃したやつは……。リカが瀕死だ。お前らだな……」
プラズマは最後まで残っていた剣王とワイズに言い放った。
「さあ? なんの話か、それがしはまるでわからないねぇ……」
「さっぱり何の事を言っているんだかわかんねーYO」
剣王とワイズは首をかしげ、さっさと部屋から出ていった。
「どうした? プラズマ……」
栄次が心配し、声をかける。
「……リカが見つかった。何をしていたかわからないが、大怪我をしているようだ……。なあ、なんか知ってんだろ? ワイズ」
プラズマは今度、直球でワイズに声をかけた。
「知らねーYO。てめぇの部下はてめぇで管理しろYO」
「あんたら、リカを消そうとしていたな……。俺を封印したのもそうだったんだろ?」
プラズマは怒りを抑えつつ、剣王とワイズに問いかけるが、ふたりはプラズマの問いには答えず、手を振って去っていった。
「……話は終わってねーんだよ……」
「プラズマ……。紅雷王様、それよりもリカの状態を確認しましょう」
栄次の発言にプラズマは拳を握りしめ、怒りに任せて栄次の胸ぐらを掴んだ。
「それよりもだと!? 俺をここまで痛め付け、時神に深い傷を負わせたアイツらの罪をこんな痛み分けで終わらせろってのか!」
「……怒りをぶつける相手を間違えるな! いつもの冷静さを取り戻せ。悔しいのはわかる。だが、今、お前がアイツらに怒りをぶつけ、お前が罪に問われれば、俺達はどうなるのだ。皆がお前をどういう気持ちで助けに行ったかをよく考えろ。お前は頭だぞ」
栄次に言われ、プラズマは目に涙を浮かべうなだれる。
「……悔しいよ、俺は……。千年……生きたのによ、アイツらの神力にまるでかなわない」
「……プラズマ……。今回は勝ちだ。俺達全員の力で剣王を負かし、お前を救えた。泣くのはかまわないが、リカもアヤも重症だ。更夜もだ。手当てをせねば」
「……ああ」
落ち込んでいるプラズマに寄り添うように冷林が辺りを浮遊していた。
「冷林、お前も来るのか?」
栄次が代わりに尋ねる。冷林は一生懸命に頷くと会議室から出ていった。
※※
アヤを抱えた栄次、プラズマ、冷林は鶴の駕籠で現世に行き、自分達の家の前で降ろしてもらった。
家の前にはサヨが立っており、アヤの様子、プラズマの様子、栄次の怪我を見た後、冷林を抱きしめた。
「やっぱかわゆ~い! ……じゃなかった。急いで来て!」
サヨは弐の世界内の自分の世界を出すと、慌てて栄次、プラズマを押し込む。
あっという間に白い花畑の世界にたどり着き、急いで目の前の一軒家に入っていく。
「来たか」
更夜がすぐに迎え、不安げなルナとスズがこちらの様子をうかがっていた。
プラズマと栄次は更夜に廊下で迎え入れられ、そのまま畳の部屋の一室へ案内される。畳の部屋の端で布団の上に包帯を巻かれたリカが寝かされていた。
「リカ……」
「……落ち着いてくれ。彼女は今、眠っている。損傷は酷いが、致命傷はないようだ。何か鋭利な刃物……鋭い神力で切り裂かれたような傷が目立った。勝手ながら服を切って、とりあえず、止血をし、手当てをした。傷が残らなければいいのだが……」
戸惑う栄次とプラズマに更夜は安心させようと言葉を選び、説明した。その後、布団をもう一枚横に敷き、アヤを寝かせる。
「そうか。アヤの神力が戻れば巻き戻しが……」
栄次がそう言いつつ、アヤに掛け布団をかけてやる。
「栄次、お前も手当てだ」
「更夜、お前は……」
「俺は応急手当てはした。サヨ、お前もだ。怪我をしているだろう?」
更夜はサヨを見、サヨは顔をひきつらせた。更夜が手当てに入ろうとした刹那、冷林が神力を過剰に放出し、アヤへ向けた。
「冷林?」
プラズマが冷林の行動に眉を寄せる。冷林の神力は柔らかく、アヤを包んでいく。
「……冷林……まさか神力を……」
プラズマに冷林は小さく頷いた。
「あんたはアヤに神力を与えたらダメだ! あんたは高天原北のトップだ! あんたに所属してる神は俺達時神だけじゃない! あんたが疲弊したらダメなんだよ!」
プラズマに言われても冷林は首を横に振った。
「ダメだ! 今すぐやめろ! 安徳帝!」
プラズマが叫び、冷林の中で水干袴の子供がホログラムのように現れ、こちらを向いた。
「安徳帝だとっ!」
更夜が反応し、サヨが目を見開いた。
「安徳帝……平家物語の有名どころ……まわりの勝手で天皇にさせられ……祖母の時子に抱えられ入水して死んだ……あの八歳の男の子……?」
サヨがつぶやき、プラズマは頷いた。
「ああ、そうだよ。数え年八歳な。地域信仰だった魂宿る林の神、縁の神と安徳帝の魂の一部が冷林を作ってる」
プラズマは冷林を止めようと動くが冷林は神力の解放をやめない。
「やめろって! 俺は時神をまとめるので精一杯なんだ。あんたが倒れたら……」
そうプラズマが言いかけた時、アヤが目覚めた。
「うっ……」
アヤが目覚めたと同時に冷林が倒れた。リカにも神力をわけていたようで、神力を異常に消耗したらしい。
「冷林っ!」
プラズマが落ちていく冷林を受け止める。
「え……えっと……何があったわけ?」
アヤの震える声が静かな部屋に響いていた。