真実へ6
リカは謎の海辺に来ていた。
いつも夕方で、きれいな不気味な海。波は穏やかだ。
そして特徴は生き物がいないのか、異様に静かということ。
もう何度も来ている海だ。
リカは目の前に立つ男に向かい、まっすぐ進んだ。
「スサノオ様、マナさんに会いに来ました。そこをどいてください」
リカの前にいたスサノオはうんざりした顔を向ける。
「お前、過去関係ないリカだな? あいつらは……どこにいった?」
「どこにもいませんよ」
リカはそっけなく言い、海に浮かぶ社へと足を進めた。
「ああ、そう、厄介だなァ。お前だけ来たのか。時神にしてやられたってわけだ。タケミカヅチは負けたのか」
「……あなたは私を殺すつもりはないんですよね? マナさんを止めに行きます」
「マナとやるのか。やめた方がいいと思うがねぇ~」
スサノオは笑い、リカを見送った。彼は見送らなければならなかった。
過去戻りをおこなったルナ達をここで迎えなければいけない。
動けないのだ。
世界のシステムに矛盾が出るからである。
「……よくできた足止め方法だな。この物語が終わるまで、俺は無限にあいつらを迎え、追い返す。そして、再び、あいつだけが来るんだ。リカが」
スサノオはため息をつくと、過去戻りして怯える三人に同じ言葉を発した。
※※
リカは迷わず海に入り、社に向かって泳ぐ。飲み込まれそうな黒い海に恐怖を感じながらも、海に浮かぶ小さな社にたどり着き、扉を開けた。
扉を開けると暗闇が広がっていた。リカは暗闇の中へ、ためらいもなく手を突っ込む。電子数字がまわり、リカはワールドシステムへ入り込んでいった。
「リカちゃん」
来ることを知っていたのか、マナが微笑みながら電子数字が舞う世界にういていた。
「マナさん……会えてよかった。マナさんは……スサノオに言って、剣王に更夜さん達を殺させようとした?」
「したよ? だってチャンスだったじゃない。あなただけが残る」
マナはメガネをかけなおすと瞳を金色に輝かせて笑った。
「マナさん、それはさせない。私はマナさんを止める!」
「はあ……、もう少しでうまく行くの。邪魔しないでほしいわ」
リカは無意識にアマノミナカヌシの槍を手から出現させる。蛍光色の矢印のような槍だ。
「どうせ、聞いてくれないだろうから、力づくで止める」
リカは槍を振り回し、マナに攻撃を始めた。
「私と戦うの? いいよ」
マナはアマノミナカヌシの槍を複数出現させると、リカの突進を軽く避け、リカに銃弾のような槍を浴びせる。
無意識でリカは、額にパソコンの電源マークに似たものを出現させた。リカが霊的着物に着替えた時に一度、出現した謎の模様。
神力が強まり、霊的着物になりかけになったまま、リカはマナの攻撃を危なげに、勝手に出た結界である程度弾いた。
かすり傷を負ってしまい、リカは血を流す。
「はあはあ……」
リカは呼吸を整え、槍を構え直した。
……早く更夜さん達を助けないといけないのに!
「さあ、次は……」
マナは先程よりも多く槍を出現させ、リカにぶつける。
「け、結界……どうするんだっけ……」
リカは手に力を集中させる事を思いだし、力を集中させたまま、ほぼ無意識に手を前に出した。
防げたことは防げたが、だいぶん切り刻まれた。
……痛い……。
けど、戦わなくちゃ……。
リカはまだ、剣王が敗けを認めた事を知らない。
「ずいぶんと……好戦的じゃない」
マナはすべてを知っているのか、笑いながら槍を振り回す。
「うっ!」
リカはマナの槍を自身の槍で受け止めたが、槍は回りながら手から離れていった。
リカは距離をとってもう一度、槍を出現させる。
「両方の世界を守りたい……。時神さん達を守りたい……」
リカは霞む目でマナを睨み付けた。
……だけど、また……
彼女が邪魔をする。
何度も何度も……。
リカの瞳にこの事件の前後がすべて映る。数字の羅列なのだが、なぜかリカは理解した。
マナがスサノオに何か言っている。
スサノオがタケミカヅチ内にある自分の神力を増幅させ、好戦的にさせる。
殺しても問題はないと判断したタケミカヅチが……
アヤ、更夜、栄次を殺した。
「リカちゃん、まだやるの? 子供を傷つけたくないんだけど」
マナは薄ら笑いを浮かべながら、リカを見ていた。
「アマノミナカヌシの力が現れてきたわね。正直、その能力はいらないの」
マナは槍を再び出現させ、リカを突き刺すように一気に発射させた。
……スサノオに……命令して
栄次さんと、更夜さんと、アヤを殺したのは……マナさんだ……。
「私にその力を返して」
マナの槍を結界で防いでいくリカだが、やはり力がうまく使えず、完璧には防げない。
……何もできない自分がいる。
なんとかしたいと言っても、
何にもできなきゃ意味がないんだ。
「マナさんは……敵。世界に必要のないシステム……」
リカは自分の感情に従う。
そこに疑いを持たなかった。
「どちらも……私。私は彼女を必要ないと思ってる? あっちの私は何を思っている?」
リカは意味不明な言動をしていることに気がついていなかった。
「あっちの私は世界を離す。こっちの私は世界を繋げる。これはデータをとっているだけ。どちらがいいのか。私は……あっちの私を負けさせないといけない」
マナを視界に入れていたリカの瞳が金色に光り、表情がなくなった。
「マナさんを……殺さなきゃ」
リカは突然、悲しそうに目に涙を浮かべた。