真実へ5
いつの間にか日が傾き始めた。
赤い夕日が更夜の血をさらに赤く染める。
剣王は更夜の首を狙い、鋭く攻撃していた。今まで当たっていた更夜だったがなぜか、全く攻撃が当たらなくなった。
「弐の世界の霊が壱で死んだらどうなるかな? 弐の世界では霊のくくりにもなるが、壱では神のくくりだ。死んだら消滅だぞ?」
剣王は狂喜的に笑いながら剣で凪払い、更夜に致命傷を負わせようと追いかけ回していた。
「更……夜……」
栄次はアヤを剣王の風圧から守りつつ、戸惑いながら更夜の動きを目で追っていた。
……そんな怪我でどうして動ける……?
「……頼む……。アヤが死んでしまう! 更夜……やめてくれ」
栄次がどうしても止まらない更夜を止めるため、更夜に向かい走り出す。
「更夜!」
栄次が更夜の元へたどり着く寸前、余裕顔で笑っていた剣王の口から血が滴った。
剣王は血が口から漏れてきたことで、動きを止め、目を見開き、驚く。
「なんだ……血? なぜ、神力が逆流している?」
剣王は内部から神力が塗り替えられていっていることに気がついた。
「これは……時神の神力か……」
剣王はなぜ、時神の力が逆流して流れてきたのかを考え、一瞬だけ動きを止める。その隙をつき、狂喜に笑う更夜が小刀で剣王の背後から飛びかかった。
剣王は更夜の動きが全く変わらないことに、疑問を持ち始める。
……こいつ、さっきからなぜ動きが変わらないんだ。
怯んでいる剣王の首を容赦なく落とそうとしている更夜に、栄次が叫んだ。
「更夜! 待て! 殺すな!」
剣王は高天原西にいる重要神。剣王が消滅してしまえば、ワールドシステムに影響が出る。
更夜は笑いながら剣王の首めがけて刀を振るった。
……どうなっている……。
散々痛め付けたはずだ。
むしろ、先程より速い……。
武神の神力が……。
不思議な神力が更夜を覆い、いつも髪で隠れていた右目が現れる。スズに奪われた右目は死後、元に戻ったようだが、剣王はそれよりも更夜の瞳が赤色に輝いている事に驚いた。
……武神なのか?
剣王が目を細める。
バランスを崩し、尻餅をついた剣王の首に、更夜は小刀を当てた。
赤い目は狂気に光り、血の滴る音がやたらと大きく聞こえた。
ようやく剣王をとらえた事に喜ぶ更夜。
「ルナに教えてやろう。あきらめなければ勝てるとな」
夕日に照らされ、髪紐ちぎれたひどい髪の更夜と、首元にあてられた刀に目を向けた剣王は更夜を少し恐ろしく感じた。
……こいつは「武神」じゃない、
「鬼神」だ。
「魄」か。
地上に落ちた……鬼だ。
強いな……。
「ククク……」
剣王は不気味に笑っていた。
「ハハハ!」
剣王の笑い声に更夜の笑い声が重なった。
「負けた。それがしの敗けだ。ククク……アハハハ!」
ふたりは異様な笑い声を上げ続ける。何がおかしいのかはわからないが、お互いすっきりした顔をしていた。
それは戦いを楽しんでしまった狂ったふたりの、異質な感情だった。
栄次はただ、ふたりを見て困惑していた……。