表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/316

選択肢1

 暑い夏がやってきた。

 遠くで大きな白い雲が風に流されることもなく、その場に堂々と居座っている。


 リカは塾の夏期講習の帰りだった。海外の人には伝わりにくいというが、日本の夏といえばセミだ。ノイズのような音や、ミンミン鳴く音などが混ざり、かなりの騒音。


 どこにでも大量にいるセミはもちろん、歩道にも転がって命を燃やす。


 「うげぇ……またいる。なんでひっくり返って死ぬかな……。アブラゼミ、お腹が白くて茶色の羽なのが気持ち悪いんだよね……。またぎたくないから、公園から帰ろ」

 リカは近道になる公園へ足を踏み入れた。遊具辺りを横切った時、紫の髪の、創作着物を着た男性が声をかけてきた。


 「よう! TOKIの世界はあるぜ! 俺が見えるか?」

 「……」

 リカは眉を寄せた。

 前もこんなことがあった気がする。


 「TOKIの世界はあるぜ」

 「……」

 リカは黙り込んだ。

 いつもなら、こういったことが起きたら走って逃げる。


 しかし、今回は逃げようとは思わなかった。


 「なんだ? 今回は逃げねぇのかい?」

 「……今回は、にげ……逃げるって……どういう……」

 震えるリカをよそに、男はベンチから立ち上がり、リカの前に立つ。目を合わせた時、リカの体に鳥肌がたった。


 言いようのない恐怖感がリカを包む。


 「……な、なんで……」

 ……なんで、この人、こんな人間離れしてるの?


 言葉が出ないリカを見つつ、男はあざ笑いながら口を開く。


 「あー、俺、神格の高い神だからな。スサノオって言うんだ。名前くらい聞いたことあんだろ? あ?」


 「……スサノオ……嘘……」

 「俺を気持ち悪がって逃げねぇのか? 俺は英雄になるデータも、邪神になるデータもあるぜ。てんびんなんだ。今はどっちかわかるかな……?」

 スサノオが片方の口角を上げたので、リカは怖くなって転びながらも駆け出した。


 「なんか怖い! すごい怖い!!」

 リカには転がっているセミも見えなかった。セミの鳴き声すら聞こえず、ただがむしゃらに公園を横切った。


 大通りに出たところで、汗が滝のように流れ始めた。少しお気に入りだったトマトモチーフのTシャツが汗で濡れ、色合いが濃くなっている。


 「はあ……はあ……」

 「ねぇ、大丈夫? リカちゃん」

 ぼやける視界の先に、ツインテールの少女が立っていた。


 「はあ……はあ……マナ……さん」

 「こんな暑い日に走っちゃダメ。水あるけど、飲む?」

 ツインテールの少女マナはペットボトルの水をリカに差し出してきた。

 リカはありがたく水を飲み、一息ついた。


 「で、どうしてそんなに走っていたの? あ、セミがダメなんだっけ?」

 マナがきょとんとした顔で聞くので、リカは首を横に振った。

 言いたいのはそれではない。


 「マナさんのっ……TOKIの世界書のファンみたいな人が……話しかけてきて……えーと……」

 リカは汗を拭いながら、きれぎれに言葉を発した。

 暑さのせいで頭がぼんやりする。

 なにかを会話しているが、口が勝手に動くだけで頭に何も入ってこない。


 「見えたんだ。……ねぇ」

 会話の中で、やたらと明瞭に聞こえる言葉が響いた。

 マナの言葉の続きがリカを冷たいもので包んでいく。


 「へいこうせかいに、いってみない?」


 ……へいこうせかい

 並行世界。

 (いち)()()……。

 向こうの世界、夢や霊魂の世界、そして、この……今、リカが生きている世界……。


 数字みたい。


 以前、リカが誰かに言った言葉。


 世界は……

 六つある。


 リカの瞳が金色に光り、電子数字が流れた。


 「リカちゃん、深夜零時、公園で待ってるから来てね……」

 マナがその一言を発した刹那、なぜかマナの足元に逃げ水が現れ、太陽がさらに輝く。

 太陽の光が入ったマナの瞳は金色になり、笑みを浮かべながらリカを見据えていた。

 

 挿絵(By みてみん)

 

  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 安直な言葉ですがおもしろいです。 和風の神々や平行世界。 まだまだ序盤ですが、すごく良い作品だと思いました。 これから先の展開にも期待です!
2022/11/20 07:39 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ