真実へ4
リカは弐に向かい走っていた。
走って走って、走ったところで、どうやったら弐に行けるのかわからないことに気がつき、立ち止まった。
「……弐に行くにはどうするんだっけ……えーと、確か天記神の図書館から……それから、ツルだ!」
思い出したリカがツルを呼ぼうしたところで、ワイズが突然目の前に現れた。
「いやあ、高天原のワープ装置はなかなか使えるYO」
ワイズは手首につけていた腕時計のようなものを楽しそうに眺める。
「ヒィ!」
突然現れ、驚いたリカは咄嗟に逃げようとした。ワイズがリカを殺す予定だったことを、リカは知っているからだ。
「まあ、待てYO。もう、お前は狙わない。メリットがなくなったからNA」
ワイズの発言にリカは眉を寄せた。
「それより、剣王に殺されそうなアイツらが死んでもらっては困るんだ。剣王はスサノオの神力に従っている。お前、スサノオに会った事があるだろう? アイツと遊んでるアマノミナカヌシを止めてくれYO」
「……んん?」
リカはワイズを睨み付けた。
この神は味方ではない。
「マナを知っているだろ?」
「……そういえば、なんでマナさんを知っているの? こっち(壱)の神は皆、彼女を知らないんだ。でも、あなたは私が霊的着物になった少し前、マナさんと着物が似ていると言っていた」
リカは少し前、ワイズと戦った時に、ワイズが発していた言葉を思い出した。
……それがお前の霊的着物か。
アイツにそっくりだな、マナに。
そんなことを言っていた。
「そりゃあ、私は世界改変前の記憶を持っているからな。マナも知ってるYO。とにかく、ワールドシステムを開くから、止めてこい。私は東に住む神々をまとめるため、あまり外出ができないんだYO」
「……どういうこと?」
「早くしないと奴らが死ぬぞ? 私は行けないんだ。だから、頼むYO。アマノミナカヌシ、マナ、アイツが黒幕さ」
ワイズは手をかざすと、ワールドシステムにハッキングした。
「高天原だとワールドシステムは開きやすいな。他の神にバレるとまずいんだYO。こちらの世界が脅かされる。私はこちらの世界の平和を守る」
ワイズは元々、こちらの世界を大切にしている神で、壱と異世界伍の統合をよく思っていない。
それで、リカは自分を頼ってきたのだと思った。剣王が、いるはずのないスサノオの神力に動かされ、三柱の時神を殺そうとしている。
壱を守りたいワイズは困っていたに違いない。
「……わかった。あなたが出したワールドシステムに入ってマナさんに会ってくる。その代わり、全てから手をひいて、えーと……」
「剣王に喧嘩を売ったアイツらを許す方向へ持っていけばいいのだろう? それはやっておくYO」
ワイズはサングラスを少し上に上げ、平然と交渉を終わらせた。
「ほら、ワールドシステムを出したYO。行ってくれ」
ワイズは一人分入れるかくらいの黒いトンネルを地面に作った。
トンネルの向こうは宇宙空間になっていて、弐の世界に繋がっているようだった。
リカは何度も行ったあの海辺の雰囲気を感じ取る。
嘘をついている感じではなさそうだ。
「……わ、わかった。じゃあ、行くね」
ワイズが本物のワールドシステムを開いたことがわかったリカは、黒い渦巻きに向かい飛び込んで行った。
「くくっ……そうだ。真実に気がつき、アマノミナカヌシを殺しに行け。アイツはシステムの一部。いなくなったってアマノミナカヌシに影響はない。壱を脅かすワールドシステムなどいらんのだYO。嘘は全くついてない。すべて真実だ」
ワイズは小さな声で軽く笑うと、ワープ装置を使って東に帰って行った。