巻き戻せ7
ルナは暗い、道なき道を恐々歩いていた。電子数字が輝きながら舞っては消えていく。
ルナにはその数字がなんなのか、まるでわからなかった。
どこまでもこの空間は続いているような気がした。
「えっと……なにするんだっけ?」
ルナはひとり考える。
「ああ、神力を放出すればいいんだ」
やがて、大事なことを思い出した。こんな大冒険をするとは思っていなかったルナは子供らしく、まだ不安定で頼りない。
「この辺で放出すればいいのかな? ルナには力があるんだ。ルナはヒーローになりたい。だから、戦う」
ルナはできるだけ神力を放出させた。服が霊的着物に変わり、空間に時神の神力が充満する。
そこまでで止まれば良かったのだが、ルナはさらに神力を放出させ、自身を未来へと送ってしまった。
「え……ちょっと、違う!」
ルナは光に包まれ、徐々に空間から消えていく。
「神力をうまくたもてないよ……」
ルナがつぶやいた時には、空間は剣王の神力で満たされていた。
つまり、時間が現代に戻ったわけである。
「ヤバい! ルナは今、どこにいたっけ?」
ルナは無意識に「今」の自分を思い出す。だが、思い出せるわけがない。
ルナはこの時、気を失っているのだから。
「わかんない……」
ルナは落ち込んだまま、霊的着物の袖を振り、辺りを見回す。だいたい、どの時間軸かもわからない。
神力をうまく放出できたのかすら、自信がなかった。
もう一度前を向くと、電子数字の奥から鋭い槍のような光が、何かをずっと突き刺しているのが見えた。
「……え?」
ルナは怯えながら、雷のような光に近づく。
「うっ……がふっ……」
苦しそうな男の声が聞こえる。
「……っ!」
血にまみれた赤髪の青年が、肩を上下させながら苦しそうに血を吐いていた。
「ひっ……」
ルナはその男がプラズマであると気がつき、怯え、震える。
身体中を切り刻まれ、血を流しているプラズマを見、ルナは涙を浮かべながら近寄った。
プラズマの下には時計の陣が光り、鎖が周りを囲っている。
その真ん中でプラズマは神力を放出し、気絶しないように保っていた。
「プラズマ……!」
「……ルナ?」
ルナの声にプラズマが反応する。
「ぜんぶ、ルナのせいでした……。ルナは……いけないことをしました。ごめんなさい。プラズマ、みんなが大変なんです。助けてください」
ルナは泣きながらプラズマに頭を下げた。
「時神の力が急に増えたなと思ったら、ルナだったのか。ルナ、ここまで来てくれてありがとう。あんたは俺達のヒーローだよ」
プラズマは血にまみれながらも、笑顔でルナにそう言った。
「プラズマ……ルナのせいで、そんなに傷ついたの?」
「もう、いいんだ。どうやって来たかわからねーけど、俺を助けに来たんだろ? 更夜達を助けるために」
プラズマに尋ねられ、ルナは目に涙をたくさん溜めながら鼻水をすすり、頷いた。
「あんたが来てくれて助かった。あんたの時神の力が、剣王の力を少し弱めたようだ。ルナが中にいるなら、俺を出せるよな、この結界から……。あんたは時神を監視する神だ。俺を出すこともできるはずだろ」
「プラズマ……ルナは上に立てる神じゃないです。ルナはただの……」
涙をこぼし始めるルナに、プラズマは優しく笑いかけ、言った。
「あんたは俺達のヒーローなんだろ? 俺達の上にちゃんと立ってる。堂々と、このシステムに命令をするんだ。紅雷王を解放すると。あんたなら……できるよ」
プラズマに強い視線を向けられたルナは涙をぬぐい、唇を噛み締め、頷いた。
「……命令……する。やってみる」
「ああ、頼む……」
プラズマは苦しそうに再び血を吐く。
時間がない。
「……め、命令する! えっと……こう……」
「こうらいおうだ」
「こうらいおうを解放しろ!」
プラズマに助けてもらいながら、ルナはワールドシステムに命令し、叫んだ。
叫んだと同時にプラズマの周りを浮遊していた鎖がちぎれ、プラズマが解放された。
「……やった?」
「やった! よくやった! ルナ!」
プラズマはよろけながら立ち上がり、ルナを抱きしめた。
「……うええん」
ルナは緊張から解放され、鼻水を垂らしながら泣き、プラズマに抱きつく。
プラズマの傷は剣王の強い神力から解放されたとたんに治ったが、神力共に中身はかなり消耗しているようだった。
「解放されたが、まだ剣王がこの門を閉めている。あいつの神力を減らさないと、空間のシステムを変えても、ここからは出られないんだ」
「うん……。プラズマ、どうしたらいいか、教えて。ルナ、頑張る」
ルナの涙を、持っていたハンカチで拭ってやったプラズマはルナの頭を撫でてから顔を引き締めた。
「ああ、俺とルナで力を解放し、剣王の神力を削ぐ」
プラズマはそう言うと優しくルナを離し、微笑みながら尋ねた。
「俺とまだ、頑張れる?」
「……うん!」
ルナはプラズマの言葉に息を吐いてから、力強く答えた。