巻き戻せ5
サヨは弐の世界を出し、ルナとリカを連れて進む。
宇宙空間に入り、サヨ達は浮き始めた。サヨの操作により、リカは勝手に動きだし、人々の心の世界だという二次元のネガフィルムをくぐる。
星が輝く幻想的な世界の中、リカは異質な赤い髪の少女を見つけてしまった。
「さっ……サヨ……」
「……わかってる。ワイズだ!」
黒い三角のサングラスをかけた派手な帽子の少女は、こちらを見つつ、冷たい笑みを向ける。
すべて見通しているかのような不気味な存在。それがこの少女、ワイズだ。
「なんでいる……」
「リカ、ワイズはあたしと同じ『K』だし、ワールドシステムに繋がる知識の神……大人しくしているわけがないよね」
リカの言葉の上からサヨが言葉をかぶせ、ため息をついた。
「ルナを叩いた神だ」
ルナはよく内容がわかっておらず、ワイズにそれくらいの感想しかなかった。
三人はワイズの前までたどり着き、様子を観察する。
「やはり来たNA。こういうことが起こるんじゃねーかと思ったんだYO。お前ら、私らを先読みして来たんだろうが? この時代のお前らじゃねぇNA? プラズマの封印を決めるのは私だ。未来の私も同じことをする。望月姉妹には用はない。用があるのは異世界神だけだ」
ワイズは霊的武器軍配を出現させると神力を放出させた。
「ちょ、ちょっと、時神に手をあげたら、あんた、北の会議で裁かれるじゃん! おまけに『K』!」
サヨがリカをかばいながら慌てて声を上げるが、ワイズはこちらを嘲笑しているだけだった。
「バカだNA。お前らはこの時代の神じゃない。未来のお前らを殺したら、こちらのお前らも消えるだろうが、私がやった証拠は残らない。だろ? ちなみに私は『K』ではない。『K』のデータをいただいただけだYO。『K』からNA。幼女の姿になっちまったが、『K』のデータは理解できた」
ワイズはサヨ達を試すように口を閉ざし、わかるだろと目配せをした。
「リカを殺すつもりか」
サヨの問いにワイズは答えなかった。
「ルナ、リカ、ここから先……ワイズの先が封印場所だよ。ワイズを三人で倒すか、時神の力を放出できるルナを封印場所に入れるか、考えないと」
「ルナの神力を低下させるのは良くないよね。サヨは相手を攻撃できない……。私が戦うしかない。なんとかしてルナを封印場所に早めに入れないとワイズの神力に当てられて神力を消耗してしまう……」
サヨとリカが考える中、ワイズが軍配を振り抜き、襲いかかってきた。恐ろしい神力を纏っている。
リカは咄嗟に時計の針のような槍を出現させ、ワイズの軍配を受け止めた。
「お前は、神力を固めてそんな武器を作れるのかYO。それはアマノミナカヌシの神力だNA?」
「知らないっ!」
リカは冷や汗をかきながらワイズの神力を浴びる。重圧がリカを襲った。
「ごぼうちゃん! 軍配を弾け!」
サヨに命令され、動き出したカエルのぬいぐるみがワイズの軍配を弾き返した。
リカはバランスを崩し倒れたが、すぐに立ち上がる。
「ああ、ルナとサヨは邪魔だYO。私はリカだけに用がある」
「じゃあ、ルナを封印世界に入れてもいいわけ?」
ワイズの言葉に眉を寄せたサヨはゆっくりルナを動かし始めた。
「かまわん。勝手にやれ」
サヨは自分達にこれからかかる悪いことを考えるが、足しになることしか思い付かず、ワイズの意図がわからなかった。
「ルナ、封印世界に行ったら、時神の神力を放出するんだよ……。わかった?」
サヨは困惑しつつ、ワイズの横をすり抜け、ルナと封印世界前にたどり着く。
「うん」
「あたしは時神じゃないから、ルナひとりで行くんだよ……」
サヨは何かが引っ掛かっていた。
「お姉ちゃん?」
「あ、ああ……えーと……ルナ、そのまま進んで」
サヨに言われたルナは首を傾げたまま、先へ進み始める。
まだすぐ近くにいるはずなのに、ルナは目の前から突然に消えた。
「オモイカネが命じる。封印世界に鍵をかけろ」
「はっ!」
ワイズの言葉にサヨは目を見開いた。ワイズはルナが封印世界に入った刹那、封印世界に鍵をかけ、ルナを封印してしまった。
「うそ……」
「バカだNA。私は『K』のデータがある上に神だ。罰を与えたわけではないので、神力を巻いていないが、封印世界に閉じ込めることは可能。鍵はそう簡単には外せない。
他の神のように罰を与える時だけあの世界を開けられるわけじゃないんだYO。『K』のデータが変動するこの世界を見つけ、神のデータがこの世界を開く」
ワイズは愉快に言いながら、リカへの攻撃を始める。
「うう……」
ワイズはリカを消滅させにきていた。神力を解放し、かなりの威圧をかけてくる。
「……今はワイズをなんとかしないと……あ!」
サヨはあることができることに気がついた。
……あたしは『K』だけど、あいつはKのデータを持ってるだけ。
「なら、本当のKの力が使えるのはあたしだけだ! 弐の世界、管理者権限システムにアクセス! リカを『排除』!」
サヨの言葉にワイズは軽く舌打ちをした。リカは突然、光の粒になり、弐の世界から排除された。
「考えたな。小娘」
「リカを壱(現世)に追い出した。追ってもいいけど、現世でリカを殺しに行ったら、他の神にバレるんじゃね?
あたしが『許可』しないかぎり、リカは弐に入れない。ここに連れ戻そうとしても戻せないよ? あたしがあんたを抑えるから、どっちみち追いかけさせないし!」
サヨがワイズを睨み、ワイズは薄い笑みを向けた。
「お前もギリギリなのは知っているYO。ルナは私が解放しなければ、あそこから出られない。どちらにしろ、紅雷王が剣王に封印されるタイミングで剣王の神力をもろに受け、運悪く消滅だろうNE」
「あたしはルナとリカを信じる! 今はあんたを抑えるから!」
「やってみるがいい。消滅ギリギリまで追い詰めてやるYO」
サヨは今まで神力を感じたことはなかった。しかし、なぜか今はワイズの神力を濃厚に感じる。
……なんで、こんなに威圧を感じるんだ?
不思議に思うサヨはまだ、自分が時神になりかけていることに気がついていない。