巻き戻せ3
ルナは他の時神とは違い、頭に流れてくる力の理解が早かった。
神力を放出しやすくなる霊的着物に着替えるやり方を早くも知り、手を横に広げてあっという間に紫の創作な着物に変わった。
かなり今時な雰囲気。
紺色の袴にスカートのようなかわいらしいフリルがついていた。
時計の陣を出したルナは、リカとサヨを連れて未来に向かい歩き出す。
白い光が前方から現れ、ルナ達を包んだ。
「ん……」
光が止み、恐る恐る目を開ける。
気がつくと三人はどこだかわからない海辺にいた。
異様にきれいな夕焼けに静かに押し寄せる波。砂浜は夕陽に照らされて赤い。ただ、夕陽がない。
太陽はないのに明るいのが、かなり不気味だ。静かすぎて生き物が何もいないことがわかる。
「ど、どこ……」
ルナがサヨに身を寄せ、怯えながら尋ねた。
「わからないけどー、なんかヤバそう」
サヨが救いを求めるようにリカを見る。リカは唇を震わせながら、海に浮かぶ小さな社と、遥か上空にある大きな社を交互に見ていた。
「リカ?」
「こ、ここは……ワールドシステムのっ……」
リカがそこまで言いかけた刹那、肩先まである紫の髪をなびかせ、黄色の目をした男性が口角を上げたまま、こちらに向かってきていた。
「……っ! すっ……スサノオっ!」
リカだけが目を見開き、震える。サヨとルナはリカを困惑しつつ見つめ、男に目を向けた。
「よう! TOKIの世界はどうだ? 楽しいか? だが、少し来るのが遅かったようだな」
スサノオは紫の着流し一枚の格好で、軽く笑った。
「来るのが……遅い?」
「お前ら、さっきも来ただろ? なーんてな。さっきのお前らが本物で、お前らは過去のお前らだな。さっき来たお前らは状況が全部わかっていた。お前らは……つまり、今後、どちらにしろ俺に会いに来るわけだ」
スサノオは手から剣を取り出し、曲芸のようにてきとうに回して遊び始める。
「未来のあたしらはどこへ?」
代表でサヨが尋ねた。
「どこへ行ったのかねェ? 俺の目的は知ってんだろ? あ?」
「……そういうことか……」
リカは拳を握りしめた。
「勘違いすんじゃねぇよ。俺は女をボコす趣味はねぇんだ。お前はマナんとこに行ったぜ。世界のシステムはなかなかしぶといよなァ」
スサノオの言動でリカは理解した。サヨとルナはこの世界線にはもういない。
「んまあ、こうなるわな。んで、またお前らがここに来るわけだ。嫌なループに入っちまったもんだ。だがまあ、タケミカヅチは俺の神力に従っている。そのうち終わるだろうなァ」
スサノオは楽しそうに笑っていた。
「ルナ! なんかヤバイ! 現代にっ!」
サヨが勘づいて叫び、ルナは慌てて元に戻る鎖を出現させた。
「戻る前に死んどくか? ここで死んどけば俺は楽だ」
スサノオは強力な神力を放出する。浴びたら消滅しそうな雰囲気を感じたリカはサヨとルナを守るため、咄嗟に結界を張った。
神力が届く寸前、ルナが半泣きで『過去戻り』を発動させ、三人は光の粒となり消えた。
「あーあ、まーた消えた。あの望月姉妹も『時神』になりかけか。神力が安定する前に時神の力を剥奪したかったんだがなァ。今後、リカがマナに会うところで決着をつけるしかねェか」
スサノオは再び光り出した砂浜にため息をつく。
「あーあ、また来た。ワールドシステム、やってくれるなァ。最初に来た事情通のあいつらから何回やんだよ。最初に逃げたあいつらを見つけて消滅させないと、こいつらは何回もここへ現れる……か」
スサノオが愉快そうに笑った刹那、再び時空が歪んだ。
「スサノオ様、マナさんに会いに来ました。そこをどいてください」
現れたのはリカだけだった。
「お前、過去関係ないリカだな? あいつらは……どこにいった?」
「どこにもいませんよ」
リカは真っ直ぐに、海に浮かぶ社に向かう。
「ああ、そう。厄介だなァ」
スサノオはリカの背中を眺め、おかしそうに笑っていた。