会ってはいけない神6
「あ、アヤ? どうしたんだい? 雨すごくて萎えてたりするのかい?」
アヤが電話をかけてすぐに、サキという神の元気な声がした。
アヤはビデオ通話にすると、リカを落ち着かせようと、サキの顔を見せた。長いウェーブのかかった黒髪に猫のような愛嬌のある瞳。
見た感じ、害はなさそうだ。
「ん? その子は誰だい?」
サキに問われて、アヤが答える前にリカが答えた。
「り、リカです」
「なんか、不思議な雰囲気の子だねぇ……。で、アヤ、何の話なんだい?」
サキはリカをちらりと見てから、アヤに目を向けた。
「ええ、実はね……、こういう状況なの」
アヤはスマートフォンを回して栄次とプラズマを映した。
「なるほど、相容れない過去と未来の時神がいるわけだね」
「そう。それで、リカが何かに関与しているみたいなんだけれど、わからないの。彼女が神かどうかもわからなくて。それで相談」
アヤの説明でサキは「ふむ」とつぶやき、何かを考え始めた。リカはごくりと唾を飲む。
「それは神々の歴史の検索ができるナオに話した方がいいんじゃないかい?」
「ああ、確かにそうね。ナオは神々の歴史を管理してるもの。リカが神かどうかがわかるかもしれないわ」
サキとアヤの会話を聞きながら、リカは首を傾げた。
「あ、あの……神様ってそんなに沢山いるの? 私を神様と疑ったりしてるから不思議で……。だって、アマテラス様とツクヨミ様とスサノオ様しかいないでしょ? 本当の神様って……」
リカは恐る恐る口を開く。なんだか、この言葉は言っては行けないような気がした。
「……?」
リカの発言にアヤ達は案の定、眉を寄せた。
「どういうことかしら? 沢山いるわよ。あなたが会ったって言っていたワダツミも海神だし、私達も時神。そして……サキは『アマテラス大神の加護を一番持っている神よ』。アマテラスは概念になっているじゃない?」
アヤの言葉にリカは目を見開いた。
「そんなことないよ! アマテラス様の神社は沢山あるでしょ! でも、最近は『TOKIの世界書』シリーズを書いているマナさんの影響で、創作の神様も増えてきたじゃない!」
リカは声を上げる。反対にアヤ達は困惑していた。
……どういうことかわからない。
と、いった顔をしている。
「嘘でしょ! マナさんだよ? テレビにもいっぱい出てて……。あれでしょ、あなた達はマナさんの影響で創作の神様になりきっているだけでしょ?」
リカの記憶が混ざっていく。
マナに最初に言われたことを忘れていた。
『並行世界のような世界』に行ってみないか?
そう言われて、理解はできなかったが、納得はして来たはずだ。
あの公園に。
「何を言ってるのか……わからないのよ……」
リカの変わりようにアヤは戸惑いの声を上げた。
「わからない? マナさんを知らない?」
「ごめんなさい、知らないわ」
アヤが代表であやまる。救いを求めるように栄次、プラズマを見るが、ふたりも眉を寄せたまま、首をかしげていた。
リカは震えながら、画面ごしのサキに目を向けた。
サキに目を向けた刹那、リカは吸い込まれるような感じがした。
スマートフォンの画面に吸い寄せられている。
……やだ……、何?
サキはいぶかしげにリカを見ていた。やがて、スマートフォンの画面は真っ黒になり、リカも意識を失った。
それは電子機器のシャットダウンに似ていた……。
……思い出した。
……私は毎回、『ここ』で意識を失い、元に戻る。
……あの神に会っちゃいけない。
アマテラス大神を思い出してはいけない。
マナさんに
……『あの選択』を持ち出されてはいけない。
※※
「よう! マナ、良い感じじゃねーか?」
紫の髪に創作着物を着た男性が、豪快に笑う。
「スサノオ様、もう一回、やりますよ」
マナは水たまりに映る、リカの姿を楽しそうに眺めていた。
輝照姫大神サキ