巻き戻せ1
「リカ、やっほー!」
「うわあっ!」
リカは窓から突然現れたサヨに白目を向いて驚いた。
「そんな驚くことないじゃん。ねー、なんでこんなとこにいるの? ひとりで……って、ひとりじゃないのか」
「ええっ!」
リカは窓脇に座っていた青色の人形をおしりで潰していた。
「き、きゃあ! えっ? きゃああ!」
「ちょっと、落ち着いて! なにこのゆめかわなぬいぐるみ~! かわいいんですけどー!」
「れいりんさま!」
リカは真っ青な顔のまま、形の変わってしまった冷林の綿(?)を元の形に戻す。
「ごめんなさい! ごめんなさい! 時神の上にいらっしゃる神様をおしりで潰しちゃって!」
リカは冷林に必死にあやまるが、冷林はなにもせずに頷いた。
「ああー、それ、冷林なんだねー! かわいすぎるんですけど! ぎゅってやらして~!」
「そ、そんな扱いでいいの……」
サヨは冷林に頬ずりをし、抱きしめてからリカに再び目を向けた。
「で、なんでここにいるわけ?」
「え……あー……えっと! さ、サヨ、まずいことになってる! 全部説明するから聞いて!」
リカは目を回しながらサヨに向かい、叫んだ。
「ああ~、その前にあたしがいるんだし、鶴を解放してやれば? あたし、浮かせられるよ? リカを」
サヨのあきれ声を聞き、リカは慌てて駕籠から降りて鶴を解放した。
「よよいっ! ご利用ありがとうございますよいっ!」
「あ、ああ! 私があなたに乗ったことは他にもらさないでくださいね!」
リカは困惑しつつも、鶴に言う。
「望月逢夜が色々言ってきたから、それを守りますよい」
鶴はそう言うと、優雅に宙返りをし、宇宙空間に消えていった。
「……逢夜さん、用意周到すぎる……」
もう一度、体を震わせたリカはサヨの後ろを浮遊する。
「さ、サヨはここで何を?」
「あー、あたしはプラズマの封印とけないかなあなんて、ここで色々やってたわけ」
サヨの言葉にリカは眉を寄せた。
「え? ここに封印されてるの?」
「いやあ、今は違うかな。場所が変わっちゃった。弐の世界はコロコロ変わるから~」
サヨは冷林を抱きしめながら、そこそこ楽観的に言う。
「わからないけど……プラズマさんを助けられそうだったの?」
リカは重要なところを聞くが、サヨは手を広げてお手上げのポーズをとった。
「……いや、無理ぽよだった~」
「そ、そう……。それで、どうするの? これから」
リカに尋ねられてサヨは冷林を抱きしめながら、ため息混じりに言う。
「うちに帰る。だってさ、冷林がいて、リカがひとりでフラフラしてるんだよ? 話を聞くしかないじゃん?」
「そ、そうだよね……。ちょっと色々あって……。どこから説明したらいいかわからないんだ……」
「じゃあ、なおさら戻ろ! こんな宇宙空間で話すのもなんだしぃ。ああ、うちに向かいながら話して」
サヨにそう言われ、リカは戸惑いながら頷き、高天原会議の部分からリカが見たことを順に話し始めた。
※※
「うっ……」
ルナが目覚めた時、最初に目に入ったのは天井だった。
「ああ、ルナ。だいじょうぶ?」
目が覚めてすぐにスズの声がし、ルナは働いていない頭でとりあえず、スズに視線を動かす。
「あれ?」
「おうちだよ。大変だったね。覚えてる?」
「……覚え……」
ルナはスズに答えようとし、止まった。
「ルナ?」
「……っ」
ルナは目を見開き、突然に震えだす。
「ルナ? ねぇ?」
「血っ! 血がいっぱいっ! なにここ……っ!」
「え?」
ルナの発言にスズは戸惑い、辺りを見回した。特に家に変化はなく、もちろん血もない。
「そんな……おじいちゃんがっ! イヤだァ!」
「ちょ、ちょっと……ルナ? 更夜がどうしたの?」
スズが尋ねるが、ルナはスズを見ていない。ひたすら、怯え、叫んでいる。ルナは慌てて立ち上がると、畳の上を不安げに飛びながら歩き、何もない部分に額を押し付け、謝罪を始めた。
「おじいちゃん、ごめんなさい……おじいちゃん……! おじいちゃんっ!」
「え……なに? る、ルナ……?」
スズが呆然とルナの行動を見ていた時、サヨが帰ってきた。
「ただいま……ってルナ!」
サヨはリカと共に部屋に入ってから驚いた。ルナが起きていて、柱に向かい泣き叫んでいる。
異常すぎる光景だ。
「ど、どうしたの……」
リカは遠くからルナを見つつ、サヨを仰ぐ。ルナはさらに叫びだした。
「ごめんなさい! ルナが悪かったんです! おじいちゃんを傷つけないでぇ! 『けんおう』さま!」
ルナの言葉にサヨは目を細めた。
「……ルナ、もしかして……『未来見』を……。ルナっ! それは未来だ! 目を覚ませ!」
サヨはルナを思い切り揺すり、現実を思い出させる。
しばらく声掛けをすると、ルナが大人しくなり、怯えた顔でサヨを仰いだ。
「おっ……お姉ちゃん……」
「ルナ……。未来をみていたんだよ、アンタ。大丈夫。よく周りを見てから、あたしらに『何を見たのか』教えてくれる?」
サヨはルナを抱きしめ、頭を優しく撫でる。ルナはサヨに抱きつき、大声で泣き始めた。
ルナは……
他になんの能力が
あるのだろうか……。