更夜の兄様4
更夜の兄、逢夜に連れられ、リカは剣王の城から離れた。
「リカ」
逢夜に突然呼ばれたリカは肩を跳ねあげて震えた。なんというか、更夜に似て雰囲気が怖い。
「は、はい……」
「しっかりしやがれ! いいか? 状態はかなり悪いんだぜ? 更夜はあの男に勝つつもりらしいが、このまんまだと全滅だ。あいつは冷静に見えてアツくなりすぎる時があんだよ。聞くところによると……概念だったはずの神が弐の世界に現れているとのこと……」
逢夜はリカを見て不気味に笑うと続ける。
「んで、お前は殺される立場……。剣王、タケミカヅチは誰を親に持つか、誰が親族か……わかるか?」
リカは震えながら首を横に振った。
「では、関連する神を言ってやろう。アマノミナカヌシ、イザナミ、イザナギ、アマテラス、ツクヨミ、スサノオ、アメノオハバリだ」
逢夜の口から聞いたことのある名前が飛び出す。リカはパズルのピースがはまってしまったかのような感覚にとらわれた。
「スサノオ……アマノミナカヌシ……」
リカは小さくつぶやき、ふたりの目的を思い出す。
少し前、リカはアマノミナカヌシとスサノオの人形になるところだった。まあ、そこは今は良い。
そこではなく、リカの顔を青ざめさせたのはスサノオの目的だ。
『時神を全員消滅させて、時神を一柱……リカだけにする』。
そう言っていたのではなかったか?
それで、時神達はスサノオと戦闘になった。
タケミカヅチ、剣王がスサノオの思考を持っていたとしたら、この戦いはかなりまずいことになる。
「いや、でもまて……」
リカは再び考える。
剣王はこちらの世界、壱を守るため、異物データのリカを殺しにきている。
「まだ」剣王の標的はリカだ。
「……それがいつ、時神全員を消滅させる方向にいくかわからない……ってこと? ……まって!」
リカはそれに気づかせた望月逢夜を怯えながら仰ぐ。
「あなた、なんでそれを知ってるの?」
「なんで知ってるかネェ。まあ、いいじゃねぇか。俺はな、お前を逃がしてやるとこまでしかやらねェ。あとは、なんとかするんだな。剣王は気まぐれだ。あいつら、全員死ぬぞ? もしかすると、お前も」
リカは逢夜の瞳が赤く光るのを見逃さなかった。
「なんで……そんなに知ってるの?」
リカは深呼吸をすると再び尋ねる。
「必死だねぇ、時神のおじょうちゃん。……俺は更夜を守りたいだけだ……。それ以外はない。俺が事情通なのは忍だからだ。
……そろそろ……『オオマガツヒ』が目覚める……。
俺は更夜をこのタイミングで失いたくねぇ。更夜には戦ってもらわねぇといけないからな。……とりあえず、お前への危険は説明したぜ。そうだな、弐の世界へまず、行け」
「え?」
逢夜の言葉にリカは眉を寄せた。
「弐には、お前の仲間がいるんじゃねーのか? さっさと行け。時間がねぇぞ? ああ、噂になってる望月ルナ……ちょっと特殊な事ができるらしいな。ワイズは知っていたが、剣王は知らないようだ」
「……特殊な……?」
「もう、うるせーな! 俺もそんなにしゃべれねぇ立場なんだ。自分でやれ」
逢夜はそこらにいた鶴を呼び出し、駕籠にリカをおしこんだ。
「あなた、もしかして……」
「お察しの通り。東のワイズ軍だ。妻がこっちなんでね。じゃあな」
逢夜はそれだけ言うと駕籠を軽く叩き、鶴を空へ飛ばした。
リカは駕籠についている窓から、遠ざかっていく逢夜の背中を訝しげに見ていた。
※※
「ああ……固くて入れないやー」
弐の世界内、宇宙空間でサヨは目の前の結界を解こうとしていた。普通に見ると、ただの宇宙空間。だが、サヨが持つ『K』の能力を使うと、ここは何かが封印されている結界であるのがわかる。
「プラズマサーン、プラズマサーン。応答願いまーす」
なんとなく声をかけてみるが、反応はない。
「ハイ、プラズマダヨ! ……ってこんなくだらないことやってん場合じゃなくてー。たぶん、ここにプラズマがいるんじゃないかと思ったんだけどー。超強力な結界! ダメだあ……。どーすっかなあ。とりあえず、戻るかあ」
サヨが戻ろうとした時、宇宙空間の上空を鶴が飛んでいた。
「ツル?」
引いている駕籠の窓から、青い顔をしているリカが見え、サヨはすばやく駕籠へ向かった。