リカを守れ5
鶴はどこをどう飛んだのかわからない内に宇宙空間へと入っていた。弐の世界への入り方は色々あるが、鶴の入り方だけは謎だ。
弐に入ってから更夜は鶴に指示を飛ばし、サヨの世界前にあっという間に辿りつかせた。
鶴にその場にいるように命じ、栄次とアヤ、リカに少し待つよう言った更夜はルナを大切に抱きかかえ、すぐに出ていった。
更夜はサヨの世界を足早に走り、家の引戸を開けると廊下を歩いた。足音がないからか、スズ、サヨは気がついていないらしい。
更夜は忍なため、誰にも気づかれずに背後をとれる。
誰も気がつかない内に布団を敷き、畳の一室にルナを寝かせた。
眠っているルナの目にたまった涙を着物の袖で拭い、優しく頭を撫でた更夜は息をひとつつき、立ち上がる。
そこでようやくスズとサヨが気づいたのか、廊下を渡り、部屋に入ってきた。
「おじいちゃん……」
「更夜?」
サヨ、スズの二人から同時に声をかけられた更夜はため息混じりに口を開いた。
「ただいま帰った。色々あって封印から俺は解かれたのだ。ただ、ルナの心が傷つけられた。起きたら俺を追いかけないように言え」
「え、えっと……」
サヨとスズは心配そうに更夜を仰ぐ。
「更夜、またどこかに行くの?」
スズが動揺しながら尋ね、更夜は頷いた。
「……デカイ喧嘩をしてくる」
いつもの雰囲気から戦国時代の雰囲気に戻った更夜は、スズとサヨを震え上がらせつつ、玄関から去っていった。
「え、こわ……」
「更夜は当時の雰囲気を忘れていたわけじゃない。出さないようにしていただけ。あのひとはね、怒らせちゃダメなんだよ。私は彼に逆らえない。あの更夜に反抗していたルナがありえないって思う」
スズに言われ、サヨは固唾を呑み込んだ。
「おじいちゃんは……プラズマに裁かれ、封印になったはずだよね~。それが外に出ていて、デカイ喧嘩をするっていうことは、高天原の会議でプラズマに何かあったってこと。ルナがあんな事になったのは……プラズマと高天原会議に出たんだ。で、ルナが責められてプラズマがおじいちゃんと交代して封印になった……としか考えられないんだけど」
サヨの言葉にスズは首を傾げた。
「そうなると、どうなるの?」
「詳しくはわかんないけど、おじいちゃん、高天原に喧嘩売るつもりだよ。よくわかんないけど、プラズマが封印されたのを良く思っていないみたいじゃん?」
「調査する?」
スズの提案にサヨはにこやかに笑った。
「そうしよっか!」
「後で更夜にお仕置きされない?」
「されるかもね~。スズはおしりペンペンかもよ~。おじいちゃんは子供への重いお仕置きはお尻百叩きって決めてるんだよ。ルナもめっちゃ泣いてたでしょ? 超痛いから経験してみれば?」
サヨは楽観的に笑う。
「……更夜に見つからないように動かないといけないってこと? こわっ」
スズは顔をひきつらせ、サヨを見上げた。
「そういうこと。あたしらが危ないことしたら、ガッツリ叱られてヒドイお仕置きだよ。あんたはお尻百叩き、あたしは正座五時間くらいは覚悟よん!」
「うそぉ……」
「やる?」
サヨに尋ねられ、スズは困惑しつつも頷いた。
「更夜を助けられるなら、助けたい」
「おっけー! じゃあ、ルナが起きるまでルナについていて! あたしはこれから情報を集めてくる! 高天原め、ルナを傷つけたな……」
サヨは更夜と同じ雰囲気を出しつつ、部屋を出ていった。
スズはサヨにも怯える。
「サヨさんも怖いねー……」
スズはルナの様子を見つつ、大人しく待っていることにした。