リカを守れ4
栄次は冷林の過去を細かく見ていく。いつの事かはわからないが、冷林はワイズに呼び出され、ワイズの会議室でなにやら話をされていた。
「お前んとこの時神のデータがここんところ、コロコロ変わっている。お前は把握しているのかYO? 新しく時神になった奴らの事についてどれだけ知っている?」
ワイズに尋ねられ、冷林はうつむいた。
「知らないんだな? 管理不足なんじゃねーのか? 冷林」
ワイズに冷林は何も言わない。
「紅雷王に任せすぎだとは思わねーのかYO。あの男が時神をまとめている。その中で、おかしな事があるんだYO」
ワイズはお茶を乱暴に飲むと、湯のみを机に叩きつけるように置いた。
「よく聞け、クソガキ。私達は今まで紅雷王をほとんど知らなかったはずだ。それはなぜか。彼は元々肆の世界、未来にいたはずで、私達は現代神アヤしかよく知らないはずなんだYO。ああ、おそらく、肆にいる私達は紅雷王を知っているだろうが、反対にアヤを知らんだろう」
ワイズは黙って聞いている冷林に人差し指を向ける。
「それが、どの世界でも共通で全員わかるようになった。世界が変わった事で私らのデータも変わったんだYO。世界を変えたのは誰かわかるか?」
冷林は首を横に振った。
「それは、お前んとこの時神、突然この世界に来たリカというやつだ。お前はリカについても、リカの影響で出てきた望月ルナについても知らんのだろ?」
冷林は再びうつむく。
「お前、本当に何にも知らねぇんだな? そんなんで北の主か」
冷林は感情を表に出さず、黙っている。
「私達はこちらの世界を守る。やはり、あのリカとかいうやつは世界にとって悪だYO。いままでのデータ改変はまあ、このままで良い。現代神アヤが安定しているからな。
だが、これ以上、めんどうな改変をされるのは迷惑だ。
なんだ? あのチビが五歳で時神になって世界にとっていいことは起こったか? 世界を混乱させただけだ。
私達は世界を守る。お前は何も言う資格はない。何にも知らねぇお前にわざわざ説明してやったんだ。会議での発言権は『ない』と思え。これはただ、罰を決める会議じゃねぇんだYO。世界を守るための仕事だ」
ワイズは冷林の肩だと思われる部分を軽く叩くと、会議をするため、高天原の者達に連絡を始めた。
「……」
栄次は呼吸を荒くし、過去見を終わらせる。
「あいつら……神力が高いプラズマを封印して、リカを消すつもりかっ!」
栄次が突然鋭く叫んだので、リカは肩を跳ね上げて驚いた。
「栄次、落ち着いて……」
アヤが栄次をなだめ、栄次は我に返った。
「あ、ああ……すまぬ。過去見を深く続けると、現実か過去かわからなくなることがあるのだ」
「ええ、だから声をかけたのよ。説明……してくれるかしら?」
アヤに優しく言われ、栄次は気持ちが少し落ち着いた。
「わかった。……過去を見たら、ワイズの目的がわかった。彼女はリカを消すつもりのようだ。いや、はっきりとは言っていない。俺が過去見をすることを予測したのか、だいぶん濁している。だが、リカを狙っているのは間違いない。冷林は『世界を守るための仕事』と言われ、ワイズに仕方なく従ったようだ」
栄次がため息をつき、更夜は軽く笑った。
「さすがオモイカネだな。全部予想してくるか。とりあえず、プラズマを封印したことで、リカを狙う話まで考えた栄次もなかなかだが」
「リカはな、こちらに来た時、奴らに殺されかけているのだ。……俺は……リカが害悪なのか、本当にわからない」
栄次はリカを見た。リカはよくわからず、目を伏せる。
「……私はやっぱり……」
「リカ、大丈夫よ。私は……あなたを守りたい。だから、自分に自信を持って」
アヤにそう言われ、リカはただ、頷くしかできなかった。
「とりあえず、高天原西に行くか? 冷林、お前は俺達を止めに来たわけではないと言ったな。ならば、プラズマを助けることを許可しろ」
更夜はとても偉そうに冷林に言い放つ。冷林はただ、小さく頷いた。
「決まりだ。ルナはサヨ達に預ける。また、奴らに使われたらいけないからな。弐の世界にいれば、奴らは来れないはずだ。ルナはちょうど、眠ってしまったようだから、しばらく動かないだろう。疲れたんだ。かわいそうに」
ルナは更夜の膝にいつの間にか戻り、更夜の胸に顔を埋めたまま、眠ってしまっていた。
「更夜、お前は冷静そうに見えぬが、かなり落ち着いているな。こうだから腕利きの忍なのか」
栄次の言葉に更夜はため息をつくと、鶴に命令をする。
「鶴、お前は弐の世界にも入れるんだろう? 俺が指示するからサヨの世界まで行け。弐の世界は常に変動する。場所は霊しかわからない。常に変動するから鶴が奴らにサヨの世界を教えられるわけもなし、つけられている気配もなし。ルナを安全に隠せる」
更夜は笑みを残しつつ、栄次、アヤ、リカを仰ぐ。
「これは……手強い忍だった理由がわかる……。先手を打つ感じ。敵じゃなくて良かったわ」
「まさしく……」
アヤと栄次は更夜の頭の回転の早さを恐ろしく思った。