責任とは5
更夜は鎖に絡まれながら時計の陣に引きずりこまれ、なぜか苦しそうに血を吐きながら消える。
そんな衝撃的な場面を見せられたルナは何にも言葉を発せられず、唇を震わせているだけだった。
「……あ……ああ」
ルナは涙をこぼしながら、放心状態になった。
「さて」
プラズマはため息混じりに立ち上がる。
「話は終わりだ」
プラズマがルナに背を向け、去ろうとした時、大泣きしたルナが必死にしがみついてきた。
「ごめんなさい! ごめんなさい! おじいちゃんを返して! 行かないでぇ! お願いします!」
プラズマは反応せず、下を向く。
「待ってください! 行かないでぇ!」
プラズマの手を引っ張り、わめきながらルナはプラズマを引き留めようとする。
「せきにんはルナがとります! ごめんなさい! 許してください! 行かないでぇ!」
プラズマは背を向けながら、唇をかみしめる。
プラズマは本来、こんなことができる男ではない。単純に辛かった。ルナの泣き顔をまっすぐ見ていられるのも、泣き声を聞くのも、限界だった。
ただ、おそらく、プラズマよりも優しい栄次、ルナに同情しているアヤのが辛いはずだ。
ふたりとも苦しいのを耐えているに違いない。
……嫌な役目だ……。
プラズマは心で小さくつぶやいた。
この子は俺達の上に立つには幼すぎる。
高天原で責任を取るのは、俺になりそうだ。
「俺はこれから高天原へ行く。更夜を罰したことでこの件が終わったことを、冷林に報告しないとな」
プラズマはルナを優しく振り払い、栄次とアヤを見る。
二人は小さく頭を下げ、プラズマを送り出した。
障子扉を開けると、困惑しているリカがプラズマを見ていた。
「リカ、大丈夫か?」
プラズマはリカを心配しながら声をかける。
「は、はい……」
リカはプラズマの暗い顔を見て、咄嗟に道を開けた。
「リカ、栄次とアヤについていてくれ。ルナも頼む」
「……え、はい」
プラズマはリカの返事を聞くと、息を深く吐き、言った。
「高天原会議からルナを守ってくる」
「ぷ、プラズマさ……ん」
リカがプラズマの名を呼んだが、プラズマは振り返らずに玄関から外へと出ていった。
一方、ルナはプラズマが小さい声でリカと話していたことを聞いていた。
高天原会議とはなんなのか?
ルナは「せきにん」に関係する事だとすぐに気がつき、プラズマを追って走り出した。
「ルナ!」
アヤと栄次が突然走り出したルナを追いかけ、廊下へ出る。
「リカ! 大丈夫?」
アヤは廊下にいたリカに驚きつつも、リカを心配し、栄次はルナを捕まえた。
「ルナ、落ち着け。プラズマはお前を守っているのだ。高天原でプラズマが更夜の刑期を短くする交渉をするはずだ。えー……早く更夜がこちらに戻れるよう、頑張るということだ。お前は待て」
栄次がルナにわかりやすいように言葉をかける中、ルナは玄関を抜けた先の庭で、白い翼の生えた謎の男達を見た。プラズマはその白い人達が持っていた、初めて見る謎の乗り物に乗り、消えた。
……あれは……なんだ?
ルナはほぼ無意識に「過去見」をし、プラズマの過去を覗き、あれが「鶴」という神の使いで、あの乗り物は「駕籠」というものらしいことを知る。
追加であれは「高天原」へ行くものであるという事も掴んだ。
ルナはすぐにプラズマを追うことにする。
「えいじ、ルナをひとりにさせてほしい」
ルナは栄次を見上げ、離してくれるように頼んだ。栄次はすぐにルナを離したが、ひとりにしてはくれなかった。
「更夜がいなくなって寂しいのだろう? 俺では更夜の代わりにはならんかも知れぬが……甘えてきても良いぞ……」
栄次が優しすぎるため、ルナは栄次に抱きついて甘えたくなったが、頭を振り、気持ちを落ち着かせる。
「おそとでお花、みたい」
「そ、そうか。なら俺も付き合うぞ?」
栄次はなかなかルナから離れない。
「お姉ちゃんとスズに説明するお約束だから、おうちに帰る……」
「ルナ、ならば俺も共に行くぞ」
栄次はルナを心配し、全くルナをひとりにしてくれない。
考えたルナは最終手段を試す。
「二階のアヤのお部屋で寝る」
「あ、アヤの部屋……えー……アヤ、ルナがアヤの部屋で寝たいそうだ」
栄次はルナが突然なぜこんなことを言い出したのかわからず、動揺しながらアヤにそう伝えた。
「あら、そう? なら私が連れていくわ」
アヤはルナを連れ、二階へと向かう。
「ルナ、大丈夫? 一緒に寝る?」
アヤは自室の部屋前まで来るとドアを開けた。ルナは素早くアヤの部屋に入ると、アヤを閉め出し、鍵をかけた。
「ちょっ……ルナ?」
アヤが不安げに声を上げる中、ルナはベッド横にある窓を全開にし、鶴を呼んだ。
鶴は驚くほどすぐに来た。
「よよい? やつがれはツルだよーい! 小さなお客様だよい?」
端正な顔立ちの、全体的に白黒の着物を着た男性が窓脇に駕籠を寄せる。
「えっと、高天原の会議まで連れてって!」
ルナは転がり込むように駕籠に入り込むと、鶴に命令した。
「はやくいって!」
駕籠内は電車のワンボックス席のようになっていたので、ルナはすぐに椅子に座り、鶴に叫ぶ。
「はやく!」
「よよい! 急行だよい!」
鶴はルナの言葉に従い、超高速で飛び去っていった。
「ちょっと、ルナ! 何してるの!?」
アヤは嫌な予感がし、階段を降りて玄関まで走る。栄次とリカが途中でアヤに気がつき、アヤを追った。
「どうした? アヤ」
「ルナが!」
三人が外に出ると、空高くに小さくなった鶴の姿が見えた。