すれ違う二人4
ルナはお腹をすかせながら、暗い夜道を寂しく歩いていた。
この辺は自然と共存している住宅地。街灯も最小限しかない。
ルナは何度もここに来ていた。
そう、ここには「ルナ」がいる。
自分ではないルナが。
隣の家の庭からルナの家を覗いた。
電気がついていて、あたたかい感じだった。
「あっちのルナは幸せなのかな」
小さくつぶやいた時、後ろから声をかけられた。
「うちの庭で何してるのよ。あなた、更夜のうちのルナでしょ?」
ルナははじめ、自分に声をかけられたと思っていなかった。
ルナは人間には見えないからだ。
「ねぇ、どうしたの? 大丈夫?」
肩に手を置かれ、ルナは驚いた顔で振り向いた。
「え? えっと……誰だっけ……! あ、ああ~、こないだ、一緒にごはん食べた人?」
「そうね。私はアヤ。時神現代神、アヤ。ところで、どうしてこんなところにいるの?」
茶色のショートヘアーの少女、アヤはルナの背中を優しくさする。
「別に……」
「おうちに来る? お腹がすいてそうね。どうしたの? 更夜と喧嘩したの?」
アヤはルナの背中を軽く押しながら、家へと促した。
ルナが見ていた家の隣の家が時神の家らしい。
ルナはうつむいたまま、アヤに従った。
家に入ると和室の一部屋からテレビの音がした。
「ああ、こちらの時神は四柱いるのよ。今は皆でテレビを観ているの。夕飯の途中だから、一緒に食べましょう? まあ、私が作ったものは更夜の料理と比べたらおいしくないかもだけれど」
アヤに連れられ、廊下を渡り、障子を開けるとサムライと三つあみの少女、赤髪の青年の三人がこちらを振り返った。
「ああ、いらっしゃい。俺は時神未来神、プラズマ。アヤの手料理はうまいぜ。食うか?」
赤髪の青年プラズマはルナを横の座布団に座らせ、余ったお皿をサムライに渡した。
「ああ、俺は時神過去神、栄次だ。今、新しくカレーを持ってくる。……ところで、最近はずいぶんと更夜を怒らせているようだな。望月ルナ」
「……っ!」
茶色の総髪、緑の着物の男、栄次は鋭い瞳でルナを横目で見てから、カレーをお皿に盛り、お茶もお盆に乗せて、丁寧にルナの前に置いた。
「ほら、食え。更夜に叱られて、ふてくされ、こちらに来たのだろう?」
「なんで、知ってるの……」
ルナは栄次を怯えながら見上げる。
「俺は過去が見える故」
「過去が見える……」
「そうだ。そんなに怯えるな。俺はよく顔が怖いと言われる」
栄次はリモコンを迷いながら押し、二、三回電源を落としつつ、子供番組をつける。
「そろそろ、寒くなってきたな、こたつ出す? ごちそうさん~」
「み、皆さん、なんでこんなにのんびりしてるんですか……」
ウェットシートで丁寧に口を拭くプラズマを見ながら、三つあみの少女リカは頭を抱えた。
「リカ、落ち着けよ。もう少しで更夜が迎えに来る。それよか、望月ルナに挨拶しておけよ」
プラズマはそう言うと、からになったお皿を集め、流しに運んだ。ルナはカレーを頬張りながら、四柱を不思議そうに見上げる。
「あ、ああ、そうだったね。私は時神のリカだよ」
「……リカ、リカはなんか……弱そうだね」
ルナに言われたリカは苦笑いをする。
「まあ、私は産まれて一年目だからねー……あはは。たぶん、すごい弱い」
「……そっか。じゃあ……」
ルナは先程入ったデータ、時神の上に立つというデータを試してみることにした。
本当に「平伏」するのか、試したくなったのである。ルナは更夜の反抗心で善悪がよくわからなくなっていた。
「……平伏せよ!」
「あう……」
ルナは神力を過剰に解放し、神力の解放が上手くできないリカを失神させてしまった。
「あれ……おかしいな」
「リカっ! ああ、遅かったか」
プラズマがリカを抱き起こし、リカの状態を見る。
「あ、たぶん死んでないと思うよ」
ルナは動揺しながらつぶやき、アヤと栄次はルナに頭を抱えた。
「知ってはいたけれど……」
「ここまで純粋に力を試すとはな……」
「る、ルナは偉いんだ! 誰よりも偉いんだ!」
ルナは動揺してわめき、栄次がなだめた。
「落ち着くのだ。神力の解放は相手を気絶させてしまうことがある」
栄次がルナの頭を撫でた時、プラズマがため息混じりにつぶやいた。
「更夜が来た。なげぇ夜になりそうだ」
プラズマの言葉を聞いたルナは拳を握りしめた。




