会ってはいけない神4
「はっ!」
リカが目を覚ましてから、最初に見たのは曇り空だった。
肌に触る滴がなんだか冷たい。
「……あめ……」
リカは雨が降る中、芝生の広い公園で、仰向けで寝ていた。
……こんなところで寝た覚えはない。
しかも、雨が降っている公園で寝ているなんて正気ではない。
「なんで……寝てんだろ……」
リカはぼうっとした頭で、しばらくそのままでいた。
雨を真下から眺めるとはいつぶりか。
「ちょっと、あなた! 大丈夫!?」
ふと、聞いたことあるような、ないような声がした。
リカは横目で、声をかけてきた少女を視界に入れる。
「……えーと……」
「あ、あの……話しかけない方が良かったですか?」
オレンジ色の傘を差した、茶色のショートヘアーの少女は、丸みを帯びた眉毛を寄せてこちらを見ていた。
「あ、いえ……。実はなんで寝ているのかわからなくて……」
「風邪ひいてしまいますよ! 買い物の帰りだったんですけど、さっき、突然雨が降ってきて……」
少女はリカを立ち上がらせてくれた。
「ありがとうございます……。あの、私、時神アヤさんに会わないといけないみたいなんですが、知っていますか? はは、知らないですよね。ちょっと格好が似ていたものですから……」
リカが自嘲気味に笑うのと、少女の顔が曇るのが同時だった。
「時神アヤは私ですが。なんで知っているのですか?」
少女は心配そうにこちらを見ていた。
……ああ、やっぱりこの子、アヤさんか。
リカははじめから確信を持っていた。理由はわからない。
「見たところ、高校生くらいですか?」
少女アヤが尋ね、リカは小さく頷いた。
「じゃあ、普通でいいわね」
「アヤさんも同じくらい?」
「アヤでいいわよ。あなたは?」
アヤは心配そうにリカを見つつ、名前を尋ねた。
「私はリカ。あなたを探せと言われたけど、探してからどうすればいいのかわからないの」
「そう……誰に言われたの?」
アヤはリカを傘に入れながら質問を重ねる。
「えーと……ワダツミのメグだったかな……」
リカは自信なさそうに答えた。
実際あまりよく覚えていない。
「……なるほどね。内容が深そうだわ。わかった。じゃあ……このままだと風邪ひいちゃうから私の家に……」
アヤはそこで言葉を切ると、眉を寄せた。
「ど、どうしたの……?」
「そんな……時間が……」
アヤは戸惑うリカの手を突然ひいて、走り出した。アヤは走りながら懐中時計を取り出し、時間を確認する。
「なっ! ちょっと! アヤ!?」
リカは焦った声を上げたが、アヤは止まらない。
アジサイが咲いている河川敷を走り抜け、雨足が強くなるなか、小さな商店街に入った。
「ま、待って! 頭がっ!」
リカは商店街に入ってから妙な頭痛に襲われた。
だんだんとアヤの声が頭に響き始める。
……あなたは誰?
……どう? きれいでしょ。ここは桜の名所なの。
……水たまりに何か落としたんですか?
……なんで私を知っているのかしら?
……さあ、いきましょ。リカ。
「うう……うう……」
リカがあまりに苦しんでいるので、アヤは慌てて立ち止まり、リカの背中をさすった。
「ど、どうしたの!?」
「頭にアヤの声が……いっぱい響いて……」
「ど、どういう……」
アヤは戸惑いながら、リカの背中をさすり続ける。雨がさらに強くなり、まるで滝の中にでもいるかのようで、辺りは白くて前が見えない。アヤの傘も差している意味はなく、二人とも雨に濡れてしまっていた。
しばらくすると、雨が小雨になり、リカの頭痛もおさまってきた。
「ね、ねぇ、大丈夫?」
「……う、うん。おさまったみたい……」
リカは深く息を吐き、気分を落ち着かせた。
しばらくして、アヤが心配そうに口を開いた。
「頭に私の声が響いたって言っていたけど、大丈夫かしら?」
「うん……。会話してないような言葉も響いていたよ。ここは桜の名所なの……とか」
リカの返答にアヤは首を傾げた。
「桜? もうとっくに桜は終わっているわ」
アヤはいぶかしげにリカを見たが、リカはそのことよりも聞きたいことがあった。
「ま、まあ今はいいや。で、アヤはなんで走り出したの?」
リカは自分で尋ねたのに、なぜか答えを知っていた。
……実は時神未来神と時神過去神がいるかどうかを確認したかったの。
……時間がいじられているから本来、この次元じゃない神も集まって……。
「実は、時神未来神と時神過去神が……」
言葉の出だしでリカは、初めて聞いたのにすべてわかっていた。
……なんで、私はこの不思議な出来事を受け入れていて、なぜ、知っているのだろう。
同じことを繰り返していることに、彼女はまだ、気づいていない……。