月の女神4
「こちらの世界の他に、お前が行った世界がある。その世界には時の神が住んでいて、時間が狂わないよう守っている。お前は守っていたものを壊すという事をしたんだ。向こうの時神に迷惑がかかった。……神が世界をいじるとな、世界が滅ぶんだ。つまりなくなる」
更夜はルナの両手を握り、目を見て話す。ルナは更夜から目を離せずに更夜の話を黙って聞いていた。
「で、でも……ネコさんは元気になったよ」
「ルナ、あの猫はもう寿命だったんだ。あちらの世界で死ぬと肉体は残るが、心はこちらに来る。こちらで自由に駆け回れるんだ。お前はな、こちらで楽しそうに駆けて遊んでいた猫を赤子に戻し、もう去るはずだったあの世界にまた戻したんだ。猫は喜んではいないぞ。戸惑い、泣いていたんだ」
更夜の言葉を聞いたルナは初めて目に涙を浮かべた。
「……ルナ、知らなかった」
「ああ、知らなかったな。知らない事は悪い事じゃない」
更夜はルナの頭を優しく撫でる。
「約束を破ってはいけないことがわからなかったなら、俺に聞けば良かったんだ」
「わからなかった……」
ルナはうつむいた。
「ルナ、反省できたか? 反省したなら『ごめんなさい』だぞ」
更夜に促され、ルナは頭を下げ、あやまった。
「ごめんなさい」
「さて、では今後忘れぬよう、ケジメをつけようか」
「ケジメ?」
ルナは目に涙を浮かべ、更夜を見上げた。
「ああ、破ってはいけない約束を破ったから、厳しくお仕置きをするということだ」
「おしおき……?」
ルナが首を傾げた刹那、更夜の雰囲気が変わった。刺々しい刺すような恐怖がルナを襲う。
「やっ……」
ルナは怖がり、逃げようとするが、更夜はそれを許さず、ルナを睨み付けた。
「ここはお仕置き部屋だ。ルールは逃げてはいけない、それだけだ。サヨはちゃんと守るぞ? 下に履いているものをすべて脱ぎ、膝に来なさい。今からお尻百叩きのお仕置きだ。お仕置きを受けないならば、俺はお前を許さん」
「そんな……ルナは知らなかっただけだよ! 知らなかったの!」
ルナは泣きながら言い訳を並べた。
「知らなかったのは仕方がない。だが、お前がやったことは重い」
「で、でも!」
ルナがさらに言い訳を追加しようとした刹那、更夜が自身の腿を思い切り叩いた。
「言い訳ばかりするな!」
「ひっ」
「やってしまったのは仕方がない。だが、子供だろうがなんだろうが、責任はとらねばならない。お前はサヨとは違う! 世界を破壊できる力を持っているんだぞ!」
「そんなの知らないよ!」
ルナは泣き叫び、更夜は息を吐くと、ルナに目線を合わせた。
「今、知ったはずだ。もう一度言う。お前は世界を破壊できる力を持っている」
「知らない! 知らない!」
「いい加減にしろ!」
更夜は言うことを聞かないルナを無理やり膝に乗せ、ズボンと下着を乱暴におろし、ルナのお尻を手加減なしに叩き始めた。
「大人しく来なかった故、五回追加だ、ルナ!」
「痛い! あう……ごめんなさい! 痛ぁい!」
ルナの泣き声と謝罪、お尻を叩く音が廊下にも響いていた。
ルナの泣き声と容赦ない平手の音を聞き、サヨは怯える。
「痛いんだよね。おじいちゃんの本気のお尻百叩きは……。ルナ、初めてか。これで懲りたらやらなくなるかな。ルナがやったことは確かにヤバイ。アヤがなんとかしたから高天原に知られずに済んだけど、見つかったら、誰かが責任をとらなきゃだしね」
サヨは静かにお仕置き部屋から離れた。
ここから更夜とルナはすれ違っていく事となる。




