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栄次の心の中は5

 リカは神力を無意識に一気に放出し、栄次と更夜の救済のみ考えた。

 「破壊システムに感情を! って意味わかんないけど、そうしないと二人は助からないみたいだから、お願いっ!」

 リカはただ願う。


 「おねがっ……やば……意識が飛ぶ……」

 その後、神力を放出しきったのかそのまま意識を失った。

 体から力が抜けたリカはそのまま電子数字の海をさ迷い始める。


 意識を失ってすぐに、機械音声のように感情のない声がリカから発せられた。


 ……アマノミナカヌシが世界改変を命じる。

 「トケイ」を元に戻せ。

 十四年前に戻すのだ……。


 エラーが発生しました。

 歴史神「ナオ」が矛盾に対するコンタクトを拒否しました。

 トケイのシステムを戻します。

 その他の時神はロックがかかっており、介入できません。

 インストール完了しました。

 時神に

 「エラーが発生しました」


※※


 栄次は神力を解放し、武神の神力を引き出す。そのまま破壊システムを退けるため、走り出した。


 「栄次。怪我が治ったのか?」

 更夜が少年の蹴りを避けながら栄次に声をかける。


 「ああ、もう大丈夫だ。加勢する」

 「気持ちも回復したようだな」

 更夜は少年の拳を紙一重で避け、軽く微笑んだ。


 「ああ。ありがとう。後で、スズとお前と話したい……」

 栄次は少年のウィングを狙い、刀を振る。


 「話そう。スズと」

 少年は高速で旋回し、鋭い拳をふたりに撃ち込むが、栄次と更夜は軽く避けた。


 「とりあえず、こいつはずっと俺達を狙ってくるぞ、どうする?」

 更夜が栄次に尋ね、栄次は眉を寄せ、少年に向かい声をかける。


 「俺はもう、死にたいとは思わない。お前はなぜ、攻撃をしてくる……」

 「……」

 栄次の問いに少年は何も話さなかった。


 「あいつは感情がないらしい」

 「……そうなのか。俺は……ちゃんと感情のある彼が見える……。うっ……」

 「栄次……?」

 栄次が一瞬怯み、更夜が栄次を引っ張り少年の攻撃を避ける。


 「……見えなくなった……先が見えない。こんなこと、今まで」

 栄次がつぶやいた刹那、少年の瞳が急に優しくなった。


 「……?」

 手を止めた少年は困惑した顔で栄次と更夜を見る。


 「……僕……誰?」

 先ほどの機械的な声ではなく、しっかり感情のこもった声でか細く言葉を発していた。


 「……っ。僕……僕は……。えいじ? プラズマ……アヤ……?」

 「……え」

 少年は突然に三人の名を呼んだ。三人は動揺した表情でお互いを見る。


 「なぜ、俺達を知っている……」

 栄次の言葉を聞いた少年はとても悲しそうな顔をすると、うつむいたままウィングを動かし、去っていった。


 「アヤ……」

 少年は最後にアヤの名を呼ぶと、振り返らずに消えた。


 「な、なんだったんだ?」

 更夜も困惑した表情になり、しばらく時が止まった。


 「ま、まあ助かったじゃねぇか」

 少年がいなくなり、安堵したプラズマとアヤが栄次と更夜の元にやってきた。

 安全になったと判断したスズも桜の木から降りてきた。


 「んじゃあ……とりあえず……三人で話すか?」

 プラズマがアヤに目配せをして、アヤが頷いた。

 「そうね。待っているわ。サヨもリカも心配だから早めに。私達はここから出る方法を考える」

 「……ありがとう、アヤ、プラズマ」

 栄次は目を伏せ、目の前に立つ更夜とスズを視界に入れる。


 「スズ、更夜……すまなかった。全部俺のせいだった。俺は自分の心の醜さに気がついた。こんなことを自分の心の中で思っていたとは思わなかったのだ。心は自分ではわからぬものだな……」

 栄次の言葉に更夜は頷いた。


 「そうだ。俺達は、お前が心の内部で計画した指示通りに動いて、演じていた。俺は霊だが神だ、まだ逆らえた。ただ、スズは……」

 更夜はスズに目を向ける。

 スズは目に涙を浮かべ、震えていた。


 「何度も何度も……忘れようとしていた後悔と憎しみを思い出させられたよ。自分は何回も死んだの。更夜に殺されたの。更夜が憎くなった。殺したくなったし痛かった。苦しかった。でも、栄次は許してくれなかった」


 「……すまなかった」

 悲しそうに泣くスズを栄次は優しく抱きしめ、謝罪した。


 「私はね、栄次……。こちらに来てからずっと寂しかった。だけれど、あたたかい何かに抱かれているような場所を見つけて、そこで寝ていたら、気持ちが穏やかになっていったんだよ。私は想像が乏しくてこちらにある自分の世界を飾り付けられなかった。でも、あのあたたかい場所は、私が想像したお母様とお父様の……」

 スズはそこで言葉を切り、嗚咽を漏らし始める。


 「俺がお前をそこから連れ出し、死ぬ直前までの記憶を何回もやらせたのだな。俺は……むごいことをしてしまった。まるで拷問ではないか。身を引き裂かれそうだ。本当に……すまない」

 涙を流す栄次に抱かれながら、スズは栄次を抱きしめ返した。


 「……やっぱり、あたたかいね。ひとりで想像するぬくもりより、あたたかい。あの時、私を必死で守ろうとしてくれて、ありがとう。私はこちらの世界で成長しようとしてなかったから、魂年齢を大人にできないの。だから、子供っぽいことしか言えないし、できない……。更夜がね……」

 スズは言葉を切ると、更夜に目を向けた。


 「更夜がこの繰り返しの中で、私をすごく気遣ってくれたの。殺された後、すぐに抱きしめてくれたり、抜け出せるよう頑張るからって励ましてくれたり、頭も撫でてくれて……生前なら考えられないくらい優しくしてくれた」


 「そうだったのか」

 栄次はスズにならい、更夜を仰ぐ。


 「ああ。俺は何回もスズを殺したからな。さすがに精神をやられかけた。俺は忘れてはいけない記憶だと何度も向き合ったが、心では必死にお前に話しかけていたんだ。もうやめてくれ、スズを殺したくないとな。スズを見捨てて娘を助けた事を何度も思い出させられた。俺も世界が憎くなった。スズと共に厄を溜め込むところだったんだ」


 更夜はあの時の軽薄な雰囲気はなく、スズを本当に心配していた。


 「更夜……ありがとう。私、頑張れたよ。更夜がこんなに優しいなんて思わなかった。……じゃあ、私はそろそろ行くね。元の場所に……」

 「待て」

 スズは離れたくなくなる前に、離れようとしていた。ただの霊が神に接触して良いのかもわからなかったからだ。


 離れようとしたスズを止めたのは更夜だった。


 「更夜……?」

 「俺達と暮らさないか? お前と同じくらいの年齢の子もいるんだ。ルナって言ってな、俺のかわいい子孫なんだ。友達になれるかもしれない」

 更夜はスズの手を握り、優しい顔でそう言った。


 「……でも、神様と暮らしちゃダメなんじゃない? 私、ただの霊だよ」


 「関係ない。厄をなくすには、お前には優しさが必要だ。それに、俺はお前に会えて良かったと思っているんだ。心に引っ掛かっていた後悔がなくなるような気がしてな」

 更夜の言葉にスズはせつなそうに口を開く。


 「更夜も苦しかったんだね」


 「俺はお前の方が苦しかったと思う。お前は七歳だったんだぞ……。七歳で俺に殺された。俺達二人を殺せと言われ、親に捨てられ、脅され、鼻血が出るくらい頬を叩かれて、腕を折られて、周りから嘲笑されながら、首を落とされた。こんな残酷な記憶がそう簡単に消えるわけがない。だから、今度はお前を助けたいと思ったんだ」


 今度は更夜がスズを抱きしめた。


 「俺は俺なりにお前を守ろうとしたのだが、俺は不器用だ。お前を怒らせることしかできなかったな。心ではな、お前を引き取って、娘の……静夜の姉にしたいと思っていたんだ。まあ、俺は静夜にも恨まれる事しかできなかったんだが。……もう一度、やり直せるならやり直したい」


 更夜の言葉を聞き、スズは安堵の表情を見せる。


 「やり直す……か。そうかもね。私、更夜を恨まなくて良かった。更夜がいいなら、一緒に住みたい」

 「良かった。俺の娘になってくれるか?」

 スズは首を横に振った。


 「娘じゃないよ、更夜の妻になる」

 「……ま、まあそれでもよい。では、共に」

 更夜が手を出し、スズがそっとその手を握った。


 「更夜、スズ……良かった」

 栄次は申し訳なさを感じつつ、幸せそうに笑う二人を微笑んで見つめていた。

 「一緒に帰ろう」

 

挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更夜さんも本当に辛かったと思うけど、なによりスズちゃんがやっと救われた感じがして、ホッとしました(*´ω`*)しかも妻!!!!(笑)
[一言] いいですね…ちょっと感動して涙が出そうになりました…みんな気持ちの檻から解放されて、自由になれた…いいですね…!
2022/07/26 18:46 退会済み
管理
[一言] なんと!逆プロポーズ(*ノωノ)キャー トケイくんは自我を取り戻したみたいだけど、エラーが気になるなぁ……
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