0.プロローグ
街外れの小高い丘の上に建つ屋敷は、豪邸と呼ぶにふさわしいものだった。
高い塀に囲まれ、手入れの行き届いた庭と豪奢な造りの本宅。
そして、研究棟と呼ばれる離れがあった。
その本宅の自室で老人は長椅子に腰掛け、ゆったりと窓の外を眺めていた。
春めいた暖かな日差しが心地よく、優しい鳥たちのさえずりは眠気を誘う。
まどろみかけた時、下から突き上げる強い衝撃と爆発音が響いた。
音は研究棟の方角からのように思えた。
老人は痛む足を引きずりながらも離れを目指す。
今日は息子の他に教え子が一人、いるはずだった。
息子も心配だが、まだ幼い子供に何かあっては御両親に申し訳が立たない。
気持ちは急くのに、身体が追い付かないのがとてももどかしい。
自分に苛立ちながらも老人は長い廊下を進む。
こういう日に限って、使用人たちはみな出払っていた。
―息子が故意にそうしたのではないかという疑念が、頭を掠めた。
・・・・・・
離れの外観はいつもと何ら変わりがないように見えた。
不安を抱きつつも、老人は中へと足を踏み入れる。
一番奥まった所にある研究室の前で、老人は目を見張った。
ここまでの廊下も、他の部屋も無傷だったというのに、この部屋だけが様相を異にしていた。
焼け焦げ、煤で真っ黒になった室内。
炎の余韻か、壁や床の亀裂から時々赤い光が薄く揺らめいては消えていく。
ほとんどの物が原型を留めていない中、床に大きく描かれた魔法陣だけが整然とそこにあった。
魔力を通した後独特の、淡い光りがまだ残っている。
魔法陣の中央には、子供が一人、横たわっていた。
息子の姿は、どこにも見当たらなかった。
お読みいただき、ありがとうございます。
もっと物語にぴったりくるようなタイトルを考えたかったのですが、無理でした。