始まり
高校無事合格したのにコロナのせいで
入学できないので初投稿です。
カンカンカンカン
踏切の警報音が鳴り響き、遮断機が降りてくる。
目の前の夕日を電車が隠す。
再び夕日が現れる。
突然、人影が夕日の前に立つ。
「逃げろ」
目を開けると、そこは僕の部屋だった。
頭をポリポリ掻きながら、冬なら誰もが魅了される布団から出て、学校の制服である学ランを着る。そしていつも通り自室から出て、いつも通りの冷水で顔を洗い、寝癖を直す。
「ねぇねぇ春斗ぉ? 中学校生活ももう三年目に突入するわけだけどー、なんか浮いた話はないのー?」
「ない」
いつも通り面倒くさい姉の発言を一蹴し、リビングに行く。そこにはいつも通り朝食が並んでいた。
しかし、ただ一つ。異様な物が視界に入った。
見覚えのない青年が僕がいつも座っている椅子に座り、朝食を淡々と食している。
その対面に座している父も、キッチンでコーヒーを注いでいる母も、僕の背後で朝日に焼かれて死ぬ吸血鬼のようなポーズをしている姉も、その青年のことは気にも留めていないようだ。
「と、父さん。その人、誰?」
僕は青年を指差して訊いた。テレビニュースを見ていた父は、首をかしげて言った。
「その人? お前、自分の兄を忘れたのか?」
兄?
「兄って……僕に兄さんはいない!」
慌てて言い返した僕を、その『兄』が見つめてきた。『兄』は、立ち上がり、近づいてきた。
青くてボサボサの髪。白い大きな瞳。白人のような白い肌。一八〇センチの父を優に越える体躯。運動選手を思わせる広い肩幅。
その大きな存在感に圧倒されて絶句していると、彼は口を開け始めた。と同時に姉の絶叫が聞こえてきた。
「ああああああ! 焼ける! やっぱり部屋から出るんじゃなかった!」
焼ける? 一体なにが?
そう思いながら振り向いた。しかし、振り向くべきではなかった。
なんと、いつも湿った雰囲気の姉が、朝日で燃えているのだ。
それを見た母は呆れ顔で「子供がこんな時間まで起きてるからよ」と言って姉を昨日までなかったはずの暗闇の部屋に引きずり込んだ。
「私もう今年で九十七よ! 子供じゃないわ!」
「あら、親にとって子供はいつまでも子供よ。早く寝なさい」
そんな会話が聞こえたと思えば、突然バキッという骨が折れるような音がした。
なっ、なんだ?なんなんだ?姉さんが燃えて母さんが…。
「そうだ母さんだ。母さんは父さんと結婚してすぐに姉さんを産んだ。その次の年に僕を産んだんだから兄さんが存在できるわけがない」
僕は『兄』の矛盾に気付き、いつの間にか再度椅子に座っていた兄と、その奥に座っている父に向かって、それを口にした。けれども父はまたも首をかしげた。
「んー? 母さんは俺と結婚して二十年後にこいつを産んで、その八十年後にあいつを産んだ。それで、そこからもう九十七年経ってるから……ん?」
父は首をかしげたほうへさらにかしげた。
そのまま父の頭は一回転した。
「すると…お前、誰?」
『父』は手元にあった朝食用のフォークを僕の頭目掛けて投げてきた。
僕は反射的に目をつぶった。
その時、まぶたに走馬灯が見えた。しかし、走馬灯全てを見終わる前に声をかけられた。
「おい。おい! だから逃げろって言ったんだ、クソガキが」
恐る恐る目を開けると、目の前に『兄』の彫りの深い顔があった。
「え、え? 父さんは?」
「あれはお前の父さんじゃねぇ。もちろんあいつらも、お前の母さんでも姉さんでもねぇ」
青年の少し低めの声は、僕の耳に安心する答えを運んでくれた。
「玄関からまっすぐ走れ。そうすれば夢見堂って雑貨店がある。そこで店主を名乗る女にこう言うんだ。『あんたの話し相手になってやる』ってな。分かったか?」
「う、うん」
「じゃあ行け! 全速力だ!」
『兄』は僕を玄関の方向へ向かせ、背中を押した。即座に二人の戦闘が開始する。逃げる子供を追おうとする『父』を盛大に殴り飛ばす音がした。
だが、僕は気にせず走った。あれは僕の父さんではない。気にする必要はない。『兄さん』は少なくとも『父さん』に負けるようには見えなかった。だから気にしなくていい。そう自分に言い聞かせて、言われた通り、全速力で走った。
玄関の扉を勢いよく開け、いまだに成長期の来ない体には大きすぎる学ランの裾を引きずりながら、靴下のまま走った。住宅街だったはずの自宅のまわりは荒野になっており、アスファルトの道路だけが西の方角にただ一直線に突き進んでいる。
その上を、ボクはただひたすらに走り続けている。
おはようございます。私の自己満足オナニー作品を読んでいただきありがとうございます。
この作品は時間や世界を移動するやべぇやつですので、それにはもう飽きたという方は、嫌々読んでください。
それでは、次回は何年後になるか分かりませんがその時までさようなら。