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虹の根元で会いましょう  作者: 君名 言葉
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第2話 約束を果たしましょう

昔から、僕は人一倍臆病だった。人と違うことがとても恐ろしかった。けれど、莉奈と出会ってからはどうだったろう。僕はあのとき変わった。僕は僕が嫌いじゃなくなった。大げさでもなんでもなく、僕は救われたんだ。

じゃあ、今度は僕が莉奈を救う番なのではないだろうか。それこそが、僕が悪魔と自称するあの男の持ちかけに乗った理由だ。正直、信じてはいなかったが。

しかし、よく考えてみれば、莉奈はそれを望むだろうか?

死別の直前に言っていた言葉が蘇ってくる。

幸せになってね...僕はどうすべきだろうか。


そこは、智の家の前だった。

夢..だったのか..?


しかし、すぐにそれが現実であることに気づいた。

いつもは忙しく響いていた車の音がない。車が一台も走っていないのだ。田舎とは言え、この時間帯は車が多いので、聞こえないはずはないのだが…


人がいなくなるってそういうことか…


しかし、グズグズしているわけにはいかない。あの男の言っていたことが正しければ、僕は一週間以内に莉奈を見つけ出さなければ、命を取られてしまう。死神の好物が命というのはなんともベタだが、現状を見る限りおそらく本当だろう。


それにしても…どうすればいいんだ?


冷静に考えれば当然だ。地球上のたったふたりの人間が出会うことなんてできるはずがない。

何の手がかりもないのに。待ち合わせしてるわけじゃないんだぞ…


ん?待ち合わせ…?


「あっ!!!」


智の脳に、電気が走るようにある記憶が蘇ってきた。

あれは、寒い冬の日、莉奈と付き合ってちょうど1年半くらいだった。夜中に突然莉奈からLINEが来た。『智くん起きてる?今から星を観に行こうよ』


『え?今?寒いし暗いじゃん。何で今なの?』


『やっぱダメかー。笑 今しかできないんだけどなぁ』


『急にどうしたの笑』


『星が見たくなったんだよ。女子はそういう時が人生に一回はあるよ』


『じゃあ、今日がその一回?』


『そういうこと!あぁーこの一大イベントを誰かと共有したいなぁー』


『わかったよ。でも、時間も遅いし早めに帰ろう』


『やった!ありがとう!もう私待ってるから準備急いでねー』


まさかとは思い部屋のカーテンを開けてみると、そこにはマフラーに顔をうずめて笑いながら手を振る莉奈がいた。おいおい、断ったらどうする気だったんだ。


親にバレると面倒なことこの上ないので、裏口から音も立てず外に出た。電気はつけたままだった。

「やっと来たね。じゃあ行こう」

僕は何かが引っかかるような気がしたが、何かはわからなかった。同級生の名前がたまに思い出せなくなる感覚みたいだ。

莉奈の後ろについて家から10分ほど歩くと、特に人の少ない地域になって、そこの神社に入っていった。


「え?神社入るの?」


「うん?そうだよ?」

いや、そんな当たり前でしょみたいな顔されても。でもこの状況が怖すぎるなんて口が裂けても言えないな…


神社の裏には、開けた原っぱがある。昔からよく遊んでいた。そこに着くと、莉奈が急に寝転んだので、終着だと分かった。


「はぁー。いつ来ても綺麗だなー。星が近いよ。ほらほら、智くんも隣おいでよ。寝転がらないと、ここの星を見る権利はもらえないんだよー」

そう言って、ポンポンと隣の場所を叩いた。


「わかったよ。よいしょっと。あ、、、すごい。めっちゃ近い…」


「でしょー!二人の秘密の場所みたいでしょ。一応、他の人には内緒ね」

そう言って笑った。


「そう言えば、いつ見ても綺麗って言ってたけど、よく来るの?ここ」


「まあたまにね。星が見たくなるときがあるんだよ」

さっき、人生に一回はって言ってたけどそれ月一とかだったりして…


「危なくない?女子高校生が一人で夜中に神社にいるのは」

どう考えても、事件性しか感じない。


「大丈夫、全然人いないし。こういう時に、田舎でよかったって思うよね」


それから、僕らは他愛もない話をして、その後に少しだけ沈黙が流れた。

すると、急に莉奈が起き上がった。

伸びをして、僕を見下ろす形で言った。


「ごめんね、智くん。今まで黙ってたけど、私は本当はかぐや姫なんだ。もうすぐ月に帰るの」

彼女の背後には、雲でぼんやりとした月と、誰かが砂をこぼしたかのような星が輝いていた。星たちが彼女の心を透かしているようだった。


二度目の沈黙が流れた。その静寂を破ったのは僕だった。


「莉奈…?どうしたの…?」


やっと違和感の正体に気づいた。今日会った時から彼女が抱えていた何かを初めて見た気がした。いや、おそらく抱えていたのはずっと前から…


二度目の沈黙が流れた。


「なん…で…智くん…」


我慢しているようにもみえるが、彼女の目にはすでに涙が溜まっていた。


「ごめんね、本当にごめんね…」

と言った。それでも、泣かないよう必死だった。僕の方は、自分が泣いているのかどうかもわからなかった。


三度目の沈黙の後、それから話されたことを、僕は未だに受け入れていない。


莉奈と僕が付き合う前から、実は病気を抱えていて、治療法の見つかっていない病気だということ、医者に、余命1ヶ月と宣告されたこと、そして、それを言うことがずっとできなかったこと。彼女の余命は、宣告されてから2週間経っており、残り20日ほどしかなかった。


それからの記憶は、全くない。脳が、思い出すことを拒否しているようにも思える。ただ、消えてしまう何かをつかむように、彼女の手を強く握って帰ったことだけは覚えている。


そう、あの時に…言っていたんだ。カミングアウトする前に。


「智くんは、天国ってあると思う?」


「まあ、あるんじゃないかな、善人も悪人も同じ環境だったら不平等だし。いや、それが平等なのかも」


「ふうん。じゃあ、もしかしたら信じてもらえるかも」


「ん?」


「私ね、昔小さかった頃に、突然迷子になったの。周りに誰もいなくて一人で泣いてたんだけど、かっこいい男の人が現れて、私を喜ばせるために、虹の根元に連れて行ってくれたんだ。それからは覚えてないけど、気づいたらお母さんが私の肩を抱きしめて喜んでて…」


「虹の根元?」


「そう、凄かったんだよー。綺麗だったな。ごめん、こんなの信じれないよね」

そう言って苦笑いした。


「いや、信じるよ。存在があるものは必ず終わりがあるんだ。だから、虹にもきっと終わりがあると思う」

彼女はかなり驚いていたと思う。


「え!信じてもらえると思ってなかったからびっくり!」


「そうだね。いつかそこで待ち合わせしよう。虹の根元を探しに行こう」


「うん!約束だよ」


そういえば。そういえば。そういえば。なんでこんな重要なことを今まで忘れてたんだ。

よし、わかったぞ。僕が目指すべき場所は、虹の根元だ!!!…


しかし、その智の心意気は、3秒で折れた。



虹の根元って何処だよ…



よく考えれば、いや、考えなくてもわかる。そんなのどこにあるのか知らないってことくらい。


また振り出しじゃないか…


でも、あの悪魔は確かこう言ってたはず。

僕が、

「世界中のどこかにいる人間を見つけるって無理難題じゃないですか?」

と言うと、


「そんなことはないよ。君たち二人の心が通じ合っていれば。気持ちが同じなら。約束を守り合えば。きっと会えるよ」


ということはだ。もうこの約束にかけるしかない。もしこの段階で間違えたらその時点で詰みは確定なんだけど。


ところで、この世界でも携帯は問題なく使えるようだったので、試しに、


虹 根元 場所 検索


と打ってみたが、もちろん出てこなかった。本当に大事なことは、インターネットには書かれていないのだ。


とりあえず、思い出の深い場所を巡ってみよう。何かヒントがあるかも。

そう思い、近くにあった原付にまたがった。持ち主さんごめんなさい。でも緊急事態なんです。

それにしても、兄貴に原付の乗り方を教わってよかった。やんちゃな兄だったけど、なぜか今になってこうして感謝している。


静かな街に、エンジン音が響き渡る。残された排気ガスだけが、儚げに宙に消えた。



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