人間に転生した最強女神(師匠)はショタ(弟子)に救われる。~師弟の異世界放浪の始まり~
ふと、書きたくなったので書きました。
短いですが、お楽しみください。
ほぼ焦土と化した村に一体のドラゴン。
この世界の誰もが、恐れるSランクの巨大なドラゴンだ。
丸太を何重にも重ねたような太い手足、凶暴さを示す爪、牙。
そして、口から今にも飛び出しそうなブレス。
「つまらない」
私は容易く、両手で持った剣で、ドラゴンがブレスを吐き出す前に、その首を斬り捨てる。
崩れ落ちる首無しドラゴンを見届けた後。
「凄い! お姉さん、こんな簡単にドラゴンを倒すなんて!」
声が聞こえて、私が後ろを振り向くと、井戸から少年が顔を出していた。
「へえ、フラウさんって、そんなに強いのに、パーティに入ってないんですか……なんかカッコいいですね 一人で何でもできるって」
「馴染めないだけよ。そんなにカッコいいものでもないわ。 ルイン」
「いやいや、そんな事ないですって。一人旅しながら、立派に生きている。
俺はフラウさんみたいな強さって憧れます」
キラキラした目で私を見つめてくる少年、ルイン。
ああ、強さに焦がれる羨望の瞳。
美しい、と。
彼をみてそう思う。
けれど私は……。
少年はルインと名乗った。
ルインは、ドラゴンに焼かれた村の生き残りだった。
私が村を訪れたときには、もう既に村は焦土と化していたのだ。
ルインは変わり果てた村をみながら呟いた。
「俺は強くなります。 もう何も失いたくない。 だから、俺を、弟子にしてください」
「…………….…本気?」
「はい、旅をしているフラウさんに迷惑なのは、わかっています。 けど、俺には強くなる方法も一人で生きられる力も持っていない。 お金を稼げって言われたら稼ぎます。 だから、お願いです。」
彼の眼差しにみていると、彼の隣に一人の小さな少女が浮かび上がった。
似ている。彼は昔の私だ。
人間に憧れて転生し、人間として生きられることに目を輝かせている頃の私。
私はぎこちなく、けれど久しぶりに微笑んで。
それは彼に対する同情からか、それとも。
「安心なさい。 お金なら心配ないわ。冒険者として活動しているときにたんまりと稼いだから」
「なら!」
「ええ、これからよろしくね。 ルイン」
* * *
私とルインが対峙にしている
「ハッ!」
ルインが木刀で私に打ち込んでくる。
右から胴をなぎ払ってくる…………とみせかけて、私との身長差を活かして、左から突き上げるように顔を狙ってくる。
足の動きを利用したフェイントである。
が、私はそれを木刀の柄の部分でガードし、続けざまに、ルインの足を払う。
「あいたっ?!」
ルインは私の足払いに不意を突かれ、尻もちをついた。
私はルインが起き上がろうとしている、その首に木刀を突きつける。
「勝負ありね」
「ちぇ……今回はもしかしたら勝てるかもって思ったのに」
「でも、ルインは筋がいい」
「ホント?!」
「ええ、私が保証するわ」
笑って私が答えると。
手を上げて喜ぶルイン。
実際、筋は良かった。
私の言ったことは必ずやるし、私の戦い方をよく研究して、フェイントまでマスターし始めているのだ。
ああ、この顔だ。
嬉しそうなルインの顔。
私も普通に産まれていれば、こんな顔ができたのかな。
私は戦女神から人へ転生した。
何故か、転生した記憶も力も持ち合わせていて、産まれたときから強かった。
最初は転生して強いまま、産まれてきたのを喜んだ。
けれどそれは同時に、敵を倒して強くなったという実感も、仲間とそれを分かち合い、喜び合う時間も、生きている実感すらも、まるで得られないということに、気づいたのはいつからだっただろうか。
そんな状態だったからだろうか、冒険者時代、パーティに入っても馴染めず、転々とした。
そうして、いつしか付いた二つ名は孤高の女冒険者。
「転生の神、キュノスよ なぜ私は戦女神の力と記憶を引き継いだまま生まれてきたのですか……?」
声にならないほどの小さな声で呟く。
ただ、憧れていた。
美しいと思った。
弱いながらも仲間と協力し、強大な敵に立ち向かい、いつも手を伸ばし続ける人間という種族の在り方。
ただ、それだけだったはずなのに。
どうしようもない虚無感が私の心に渦巻く。
そう、所詮、憧れただけの女神だった私は、ガワだけを真似た作り物にしかなれなかったんだ。
そして、私は冒険者活動をやめた。
「師匠?」
「あ、ごめん。ボーっとしてた。 そろそろ、ご飯にしましょうか」
今日は森で野宿か……。
次の街には、今日の内に着きたかったなぁ。
つい、ルインの訓練に熱が入ってしまった。
私とルインは事前に、狩ったスライムを火で炙る。
スライムは炙ると硬くなり、歯ごたえのある食感を味わえるのだ。
炙ると香辛料の代わりになる葉っぱを細かく刻んで、スライムに振りかけるのも忘れない。
香ばしい匂いが辺りに漂う。
ルインは、鼻をヒクつかせながら、指を口に加えて炙られているスライムを凝視していた。
…………可愛い。
「そんなにみつめなくても……スライムは逃げないわよ」
「なはは、すみません。 訓練でくたくたで」
「ま、確かにそろそろ食べ頃ね」
私は炙られたスライムを口に運ぶ。 ルインもそれに倣った。
弾力のある食感、それでいて、噛むたびに舌に刺激のあるとろけるような旨味が広がる。
美味しい。
「おいひいれふね〜 もれ〜」
「…………プッ飲み込んでから喋りなさい、ふふふ……」
両手で頬を抑えながら、笑って喋るルイン。
その顔が可笑しかったせいか私も自然と笑みがこぼれる。
「あ、師匠! 今、笑いましたねー?!」
* * *
最初にその女性の綺麗な太刀筋に目を奪われた。
村を焼かれ、何もかもを奪われたばかりだったというのに、あの太刀筋をみた瞬間、全てを忘れて、その動きを目で追った。
だから、ルインはその女性の強さをもっと近くでみてみたいと思った。
そして、あの人がどうしてあんな顔をするのか。
村を守れなかったルインだからこそ、フラウのその顔を見るのが嫌だった。
もっと知りたい。彼女の事を。
必ず強くなる。そして、フラウを。
* * *
それは、晩御飯を食べ終えたときのことだった。
「やっと笑いましたね。 師匠」
「? いきなりどうしたの」
「だって師匠、あんまり笑わないでしょ」
晩御飯の後片付けをしている私の手が止まる。
「………それで」
「俺と会う前はどんな感じだったのかなって」
「….…面白い話じゃないわよ」
「それでもです。 俺は聞きたい。 何で、貴方がそんなに寂しそうな顔しているのかを」
そんなことを考えていたのか。 もしかしたら、さっきの食事での変顔も私を笑わせるために、気を使ったのかもしれない。
ルインは、私をあの真剣で純粋な瞳でみつめてくる。
やめてくれ、私にその顔は効く。
「はぁ……しょうがないわね 言っとくけど、本当に面白くもなんともないから」
私は、観念して、転生したことも含めて、冒険者時代のことを全て話した。
すんなり転生の下りも信じた。
ルインは純粋よね。
そこ良いんだけれど。
それにしても、これじゃあ、どっちが師匠なのかわからないわね。
ルインは私の話を聞き、少し思案した後。
「なんだ、簡単な話じゃないですか」
「え?」
「俺が師匠より強くなればいい」
「……は? いやあの、戦女神の話聞いてた? 私は産まれたときから既に女神の力を持っているのよ いくらなんでもそれは」
「俺は必ず強くなります。 師匠を倒せるぐらいに、そして、守れるぐらいに。 そうなれば、師匠も悩むことは無くなる。 一緒に強くなれるはずです。」
何それ。
根拠のなんて微塵もないじゃない。
けれど、そうだ。
無理だと思えることにも挑み続けて手を伸ばす。
それは、私の憧れた人間の姿そのものだった。
「ふふふ……あはははは、なら、私も明日から本気だすわよ」
「え……それはちょっと」
「私を倒して、守れるぐらいになるんでしょ。頑張りなさい。 期待しているわよ」
ルインは私の言葉に、ガックリと肩を落とす。
しかし、すぐに真剣な顔つきに戻った。
「そうそう、師匠は自分のことをガワだけを真似た作り物なんて言ってましたけど、俺はそうは思いません」
「…………それは、なぜ?」
「冒険者は辞めたけれど、それでも、立ち止まりたくないから、旅を始めたんでしょう」
そう、冒険者を辞めた後、何かをしていないと生きていられなかった。
だから、私は旅を始めたんだ。
私は頷く。
「ならそれは、師匠の言う人間の証なんです。何かを求めて旅をする。 それは、前に進むために手を伸ばす人間の姿です……だから、師匠は人間なんです」
「ルイン、貴方……」
その言葉は何かから醒めるように胸に染み渡った。
強くなる喜びも仲間との喜びも生きている実感もなかった。
けれど、それでも前に進もうとした。
ルインの言う通りだ。
なんだ、私もとっくに手を伸ばしていたんじゃないか。
ふと頬を手で触ると涙が流れていた。
「ルイン、ありがとう……」
「あわわ、師匠大丈夫ですか?!」
「ふふふ、大丈夫よ。 さあ、片付けを終わらせて、もう寝ましょう。 未知の明日が私達を待っているわ」
彼とならきっとこの旅は、かけがえのないものになるだろう。
それは、私の憧れた人間の美しさそのもの。
私はフラウ。
戦女神から転生した『人間』だ。
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