祝福を受けよう
だいぶ遅くなりましたが第2話です。
目が覚めると私は知らないベッドの上にいた。状況を理解するのに少し時間がかかったが、すぐに分かった。七色の橋の始まりの宿のベッドに私は居た。
始まりの街ベグニ。七色の橋の中で最も大きいこの街には、ベグニの大神殿という場所がある。ゲーム開始後に最初に向かうのがこの神殿。で、ここでゲームをサポートしてくれる妖精を召喚できる。妖精には八つの属性があり、その中から一つだけを選べる。
光属精・闇属精・炎属精・水属精・風属精・土属精・鋼属精・最後に無属精の八属精がいる。
無属精以外の妖精は、基本的にその属性の能力を高めてくれる。炎属精を選ぶと炎タイプの攻撃力や防御力が上がる。その属性が強くなるってわけだ。無属精は自分や仲間のステータスを上げたりできるようになる。いわゆるサポート型だね。
しっかし、実際にこう宿の中に入ってみると木の香りとか、外の喧騒とか、意外と感じるものが多かった。天井とか見たこともない。ゲームでやっているときは、BGMとコマンドの操作音とコントローラの音しかしないものだから新鮮でなかなか楽しい。
部屋のタンスを調べたり、花瓶の中を見てみたり勇者ごっこをしていると、寝ていた川田君が起きてきた。彼は寝起きが悪いのか、かなりぼんやりしていた。
「おはよう、川田君」
「あー、おはよ、奈々ちゃん……ここどこ?」
寝起きでも奈々ちゃん呼びとは何事だ、いつもそれで呼ばれていたのか。まぁそれは置いといて、
「ここはベグニの街の始まりの宿屋。これから神殿に行って妖精の祝福を受けにいくよ」
と、場所とこれからやることを軽く説明した。
「ベグニ……?宿屋……?妖精の祝福って……」
そう少しつぶやいてから、
「あー!!分かった!!ゲームの中か!!納得だわ!!これやばいな!!すっごいリアルじゃん、チョー楽しみ」
と、テンション爆上げ。さっきまでのテンションが嘘のようだ。
「それじゃ準備したら出発するよ」
そして、軽く服装を整えてから私たちは宿の外に向かった。
「ところで神殿ってどこにあるの?」
二人で街を歩いていたらそう聞かれた。
「街の中心だけど……もしかして、川田君七色の橋やったことない?」
そう、この質問はゲームをやっていたら絶対に出てこない。
このベグニの街は、始まりの街であると同時に、冒険の拠点になっている。ゲームをやっていれば必ず何回も来るはずだ。それなのに街の構造を知らない。なんなら最初の祝福のことすら知らなかった。
「あー、うん、やったことないだわ、ごめんな」
「ならなんで一緒にきたの……」
「楽しそうだったから?」
こいつやっぱり適当だな。
「まっ、やってれば何とかなるでしょー」
と、こいつは能天気に言い切った。
まぁ事実でもある。魔法で世界に来ている以上ストーリーはしっかり追えるはず。例えば、ももたろうの世界に入ったのに、鬼を退治できませんでした、なんてあったらたまったもんじゃない。悲しくなっちゃう。
なんやかんやで歩いていると、ベグニの街の大通りに出た。
「おぉ、あれが神殿か、でっけぇ!!」
川田君が興奮するのも仕方ない、ベグニの神殿が目の前に見えるから。
大通りに出ると街の中心にある神殿が見える。大通りといっても、この街は円形になっているからいくつかあるが、そのすべてがあの神殿に続いている。神殿の周りに街が作られた形かな。
「なんだあれ!剣が並んでる!かっこよくね!?」
「あー、あれね、鍛冶屋だね。ああいう武器を売ってるの」
このゲームのお店は何種類かある。ざっくり分けて鍛冶屋と防具屋と道具屋。これは追々説明すればいいかな。
「少し見てく?」
「ちょー見たい!!」
一瞬で見ていくことになった、子供か。
店に向かって歩き始めると、
「おぉっと、すみません」
川田君が通行人に当たってしまった。改めてゲームとの違いを認識した。ゲームだった当たっても特に何もない。ぶつかりたい放題だ。
歩いている時に聞こえる周りの会話。少し舞う土煙のにおい。太陽の日差し。どれもゲームだと感じなかった。改めてゲームの世界に入ることの素晴らしさを実感した。
それはともかく、
「川田君気を付けてよね、あぶないんだから」
「おう、すまんすまん」
ぶつかってケガをしました、なんて事になったらやる気が削がれる。たぶん魔法とか道具とかで治せるだろうけど、まだその段階じゃない。とりあえず妖精の祝福を早く受けに行きたい。
「とりあえず、鍛冶屋をちょっとみたらすぐ行くよ」
とは言ったものの、それから鍛冶屋を離れるまでには時間がかかった。なぜかって?そりゃ川田君が離れないからに決まっている。なかなか離れてくれなかった。今度来るときは一人でこようと決心する程度には。また、それから神殿に行くのにもすっごい時間がかかった。大通りのいたる所に引っかかるからなかなか進まない。祝福を受けたあとでまた来られるって言って何とか真っ直ぐ神殿に向えるようになった。
神殿が近づいてくると、神聖な雰囲気がガンガン伝わってくる。なにかが居そう、そんな感じだ。
そして、私は圧倒的な場違感を覚えている。
ベグニの神殿は『始まりの神殿』と呼ばれている。すべての冒険者がここで妖精の祝福を受けるから。ここでただの旅人だった人たち、農家だった人たち、兵士だった人たち、そういった人たちが正式に冒険者として認められる。だからそのまま旅に出ても大丈夫な格好をしている。それに比べて私は……学校指定の制服だ。
なんかもう目立つなんてもんじゃないよね。周りはみんな鎧とかローブとかしっかりしたものを着て、剣とか杖とかを持っているのに、私たちは制服。なんなのこれ、嫌がらせ?
まぁ、そういった浮いている感覚には負けないで神殿に入っていった。
神殿に向かう途中で、川田君に「神殿で祝福されるとどうなるの?」と聞かれた。
神殿で祝福を受けると妖精の補助を受けられるようになる。祝福を受けると妖精を召喚できるってわけ。そして、祝福を受けると、正式な冒険者として認められる。冒険者になると各地で旅の助けになる補助を受けられる。ギルドや宿、馬車を安く利用できる。まぁこれは冒険者としての活動に応じてだけどね。で、一番大きいのが、勇者になる権利を得ることだ。権利を得ると言ってもすぐになれる訳じゃない。一定以上の能力が必要になっている。接近戦から、回復や補助、攻撃の魔法、そして妖精との連携が必要でなかなか大変。すべてをバランスよくこなし、しっかりパーティーを支えられる人が勇者になれる。
まぁつまり神殿に行くと色々できるようになるってことだね。だから早く神殿に行きたい。ゲームだったらチュートリアルもかねて最初に行くところだね。
神殿に入るとチンピラみたいなやつに声をかけられた。
「おいおい、今の時代、あんたらみたいなのでも冒険者になれるのか?流石にやめとけよ」
と絡まれた。
「あぁー、やっぱこうなるか……」
私はあきらめたように呟いた。こんな格好をしてたらこうなってもおかしくない。どう見ても旅に出ようとする人の格好じゃないし。
「そうそう、やめとけよ」
「そんなことより俺たちとお茶でもしないか?」
また、後ろから新しい奴らが来た。めんどくさいんだから。
「遠慮しときます、行こう、川田君」
「えっ、あぁ、おう」
そう言って川田君を連れて行こうとした。
「おい、俺たちとお茶しないでこんな奴と行こうってのか!?バカにしやがって‼」
すると後から来た奴らがいきなり川田君に殴り掛かった。
川田君は吹っ飛んでしまった。痛そうに、大丈夫かな。なんて考えていると、
「ほら、あんな軟弱もの置いてって。じゃぁ嬢ちゃん行こうぜ」
と、今度は私の手を引っ張り始めた。
「やめてよ」
私はそう言って手を軽く払うと、手を取ってきたチンピラが吹っ飛んだ。
「え?」
何だこいつ等、大げさだな。これでいちゃもんを付けてくるのか、なんて考えていると、
「コ、コイツ化け物だ!こんなの相手にしてられねぇ、逃げろっ」
なんて言いながらすごい勢いで去っていった。
まじで何だったんだろ、あいつら。
「すまねぇな、変に声かけちまったせいで、面倒な奴らに絡まれてよ」
最初に声を掛けてきた男がまた語り掛けてきた。
「俺はノイーグ。最近大した覚悟もないのに冒険者になろうとしている輩が多いからよ、声を掛けて回る役割を頼まれててな。下手なのが冒険者になると困るってもんで。あんたは肝が据わってそうだから大丈夫だったぜ。そのまま奥まで行って大丈夫だ。」
「はぁ、ありがとうございます。色々あるんですね、お疲れ様です、お仕事頑張ってください。それじゃ行ってきます」
「おうよ、行ってらっしゃい」
そう言って私はノイーグと別れた。
ゲームにあんなキャラいたっけな、なんて思考を巡らせながら聞いていたら返事が適当になったしまった。そういやチンピラもいなかったよななんて考えていると、吹っ飛ばされた川田君のことを思い出した。川田君のとこに行かないと、彼、大丈夫かな。
「いってぇ……けどまぁ何とか大丈夫」
川田君はそう言ったから大丈夫っぽい。
「それより、さっきのあいつ等が吹っ飛んだのはなんだ?わざと吹っ飛んだように見えなかったが」
川田君にもつっこまれた。それでも私はよくわからない。チンピラたちが勝手に吹っ飛んだだけだもの。
「よくわからない。手を払ったら吹っ飛んでって。ほんとに何だったんだろ?」
「わからないのか……まぁいいや、それじゃとりあえず奥に行って祝福を受けようぜ」
そして私たちはついに祝福を受ける神殿最奥部についた。
神官様と少し話をした後に、祝福を妖精の受けた
「古の豊けき世を取り戻さんとす、世界を救わんとすこの者たちに精霊様の加護よあれ!精霊様、世界の果てより出でて、かの者たちに加護をあたえたまえ!」
私は無属精、川田君は風属精の加護を得た。
「そなたらの旅路に幸あらん事を」
そう言って私たちは見送られた。
「無属精の加護を得るものがいたとは、これは驚きですな」
そして、神官様はそう小さく呟いた。
「ねぇ、奈々ちゃん、妖精って自分で選べるんじゃなかったの?」
「え?選べるはずだけど?川田君風属精以外がよかったの?」
「うん、炎のほうがかっこいいからそっちが良かったんだけど」
川田君は希望通りにいかなかったらしい。私が希望通りに行ったから上手くいかない可能性を失念していた。
「どっかで風がいいとか思ってたんじゃないの?」
「そうかなぁ……よくわかんねぇわ。そうなのかな」
「たぶんそうだよ」
「そうか。わかったわ。で、この後はどうするの?」
「んー、このまま旅に出てもいいけど一回ゲームの外に戻らない?ちょっと疲れたからさ」
実際かなり疲れた。街の喧騒とか、コイツの相手とか。意外と歩き回ったてのもある。
「オッケー。じゃぁ一回外に出よう」
私は外に出るためにペンダントを掲げた。
1話のおばあちゃんのセリフを少し改変させていただきました。