家族小景「おでん」
冬だ。家の中で、ショウはお母さんの台所の様子をうかがっていた。
夕方の気温が下がるころなので、窓の外では木枯らしが吹いている。キッチンのガスコンロには鍋がひとつ、ことことと音をたてていた。
こんにゃく。大根。練りもの。白菜。いろいろな具が次々と投入されていく。
湯気があたたかそうだ。
「お母さん、もう食べてもいいー?」
「まだまだ。もうちょっとね」
お母さんは鍋に具を入れ終えると、キッチンのテーブル脇にある椅子に腰かけた。
「お・で・んー♪」
ショウが歌っている。
汁が吹きこぼれないようにお母さんがガスコンロの火加減に注意している。
すこし時間がたつと、鍋からいい匂いがしてきた。
ガチャリと玄関のドアが開く。お父さんだ。
「おっ、今日はおでんか」
コートを羽織って仕事から帰ってきたお父さんも、うれしそうな顔をする。
「おでん、おでんー♪」
ショウがでたらめな歌を歌っている。
寒くなったら鍋物がいい。
ショウとお父さん、お母さんで今日はあたたかなおでんだ。