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元魔王の転生勇者は魔界の者を倒せない  作者: 浮幽精
第一章 初めての出会い
1/14

プロローグ

初投稿です。宜しくお願いします

黒と赤で統一されたその部屋に、ある者が倒れこんだ。

少年と言うよりは青年に近いその男は、彼の禍々しさを象徴するような紫の髪に、澄み切った海のような青い目をしていた。

そう、その青年は、この部屋の主である魔王だった。




その者を、とある人間が切り裂いた。

仮にも魔界の王である彼を、あっさりと、スッパリと。


どこを裂かれた訳でもない。

ただ、勇者は剣を振っただけ。

だが、彼がそれに気づいた時にはもう遅い。

直後、身体が弾ける感覚がある。


その感覚に驚き、瞬きをしたその瞬間、目線は天井を向き、そこを背景に映し出される、赤い髪の勇者の姿。

視界は霧がかかったように朧気だが、眼前に映るその男は、確かに、はっきりと、笑ったように見えた。

青年は、その不気味さに圧倒され、逃げるようにふと目線を横にやる。


そこには――――

真っ赤な鮮血が、ただでさえ赤い絨毯を更に赤く、更に禍々しく、染め上げている。


その血液の発生源が、勇者に切り裂かれた自らの身体であることに気付いたのは

彼が、激しい痛みと共にそれまで朧気だった視界が明瞭になったのとほぼ同時。


彼は、体が引き裂けるような痛みを全身に感じる。

いや、引き裂けるような。ではない


彼は気付く。先程見た自らの体の部位、それは

背中……だ。

もちろんの事だが、目は体の前についていて

後ろにある背中は、鏡でも使わないと視認することは出来ない。

にも関わらず今彼は、しっかりと、その存在を目で捉えている。

この状況、おまけに、身体を忙しなく駆け巡るこの痛み、そこから導き出される結論は一つ。


そう、彼の身体は切り裂かれ、本来繋がっているべき場所は、そのほぼ全てが途切れている。

彼は叫ぶ。その痛みを、苦しみの全てを絞り出すように

「ゆ……うしゃ……」

だが無情にも、その声は声にならない。

誰の耳にも届かない。


痛い。

怖い。

寒い。

暑い。


今この瞬間、彼の人生は幕を閉じる。

不意の暴力で命を奪われる者は皆、例外なく

その最期は、恐怖以外の感情を持たない。

いや、持とうとどんなに強く思っても。

どんなに強く願ったとしても。


その思いは届かない。

その願いは叶わない。


魔王は、静かに、ただ静かに、瞼を閉じる。

彼は消えるのだ。この世界から永遠に。

次の瞬間、彼の視界は、どこまでも続く暗闇の中へと消えていった。



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