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ナイショの話 其の一


急がば回れ。


あえて迂回することってありますよね。朝の日課、歯磨きは避けては通れない道です。でも、中学生の私は人に自分の歯を磨かせていました。


彼は嫌がるどころかすすんで私の口に歯ブラシを突っ込んできました。自分でやるより効率的。これが私の急がば回れ、です。


伊藤嘉一郎君は、毎朝洗面台の前に私を立たせて歯をこぎざみにブラッシングしてくれます。私の高校入試が一ヶ月後に迫っていたため、家庭教師の彼は半ば住み込みのような形で西野家で生活していました。


しゅっとした美男子で、たしかこの時二十代後半だったかな。背が高くて、私が背伸びしても全然届きません。いつも見上げるだけでしたから、早く背が伸びますようにと初詣でお祈りしましたっけ。


それにしても赤の他人の男が愛娘と一つ屋根の下で生活していることを、父親は不愉快に思わないのでしょうか。


「彼は大学の後輩だし、性格もさっぱりしていて安心できる。いっそ婿になってもらっても構わんのだが」


我が父ながら何言っちゃってるんでしょうね。


最後のは冗談でしょうけど、全て冗談のような本当の話です。おかしな力が働いていたのかもしれませんが、誰も気づきませんでした。


歯磨きが終わると、うがいをしなくてはなりません。迂回はしてもうがいは自分でしなくてはなりません。

 

この日の朝は徹夜で受験勉強していたことになっていましたが、実は明け方近くまでテレビゲームに興じていました。


監督役のはずの嘉一郎君は、私を咎めることなく淡々とゲームの対戦相手を務めてくれました。私はどのジャンルのゲームでも僅差で勝ち、のめり込んでしまったのです。

 

子供だった私は彼がゲームが苦手な人だと考えていましたが実はそうではなく、彼は気持ちよく私が勝てるようにお膳立てしてくれていたのでした。


そうとは知らない暢気な私は徹夜明けでも満足感で一杯で、眠気を忘れてしまったくらいです。


歯磨きのついでに寝癖を直してもらっていると、四十代くらいの女性のお手伝いさんが、すっとんできました。洗濯機が側にあるから洗濯しに来たのだろうなと、私は油断していました。

 

「伊藤さん、ちょっと」


そのお手伝いさんは、嘉一郎君を私から引きはがすように廊下に連れ出しました。嘉一郎君のセーターに毛玉ができていて、とってあげようとしましたが間に合いませんでした。


しばらくしてお手伝いさんだけが私の所に戻ってきて、すごい剣幕で言うのです。


「あまりあの方と親しくしてはいけません」


どうして?


「あの方はお嬢様に邪な感情を抱いておいでです。汚らわしい」


そのお手伝いさんが何に対して憤っているのか、私にはわかりませんでした。


嘉一郎君と、お手伝いさん、両方好きだった私は板挟みのようになり、とても悲しくなりました。

 

そのお手伝いさんは私をよく抱きしめてくれました。母親と満足に接することがなかった私に同情してくれたのかもしれません。


よくしてくれた彼女を、名前で呼ばないのかって?

 

それには理由がありまして、この件のすぐ後、彼女が突然私の前からいなくなったのでした。


時を同じくして、私の母親の宝石が何点か紛失しました。彼女が盗んで逃げたのだろうと、お父さんは決めつけました。被害届けも出されたそうですけど、彼女は行方知れずです。履歴書の佐藤明美という名前も偽名で、経歴も詐称していたことが判明しました。疑うなというのが無理な話ですよね。

 

私は何故か彼女が盗んだとは思えませんでした。それは人間だからわからないですけど、彼女はそういう人ではないと思います。


魔が差すという言葉がありますけど、もし彼女の心に本当に何かが入り込んだらと、邪推してしまいます。

 

 二


予期せぬアクシデントに見舞われながらも、そこは重責になう受験生です。未来への切符を手にするために邁進するのみです。


私が描いていた未来とはとあるアトラクション施設でした。世界的なマスコットが狂騒を繰り広げ、その魔力は大人を惑わせるほどです。


受験に合格したら、嘉一郎君がナイショで連れていってくれることになっていたのです。


このナイショというのが、ミソです。


二人きりのナイショで行くネズミの国はどんなに楽しい世界でしょう。夢が膨らみます。


もうおわかりでしょうが、当時の私はこの変態野郎が大大大大好きでした。

 

勉強のことはもちろん、どんな些細な質問にも答えてくれましたし、私生活で困っている時も的確なアドバイスをくれて、絶交寸前だった友達と仲直りできました。私の同年代の男子なんか物の数じゃないとつくづく、思い知らされたものです。

 

息抜きにドライブに連れていってもらったり、世界が広がるのが、単純に楽しかったです。


彼が隣にいるだけで、まるで自分がドラマのヒロインになった気分でした。

 

仮に公衆の面前で彼のチ○コをくわえろと言われたら、喜んで従っていたでしょうし、何をされても幸せで、目にハートマーク浮かべて、考えるのを放棄していたと思います。


うわー、絶対黒歴史だこれ。死にてー、あ、もう死んでたわ。


話を戻すと、JCの頭の中はネズミのランドとチ○コで占められているってことです。以上。

 


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