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第5話 さよなら竜馬子

「第2回ポイントゲットするには会議を開く前に」

「ドンドンパフーゥ♪」

「待て」

 腕をかざし、ミニチュア楽器隊の演奏を途中で止めさせた。

 曲目を指定しなくても俺のイメージ通りのBGMを奏でてくれる気の利く良い奴らなのだが、たまにフライングする癖がある。


「とても哀しい報告をしなければならない。被告人スティール! 一歩前へ」

 やや開けたままの窓より風のせいだろうか。名指しされたカーテンのスティールはそよそよと揺れている。


「ま、まさか。パーフェクトなタスクフォースであるツブヤイターが失敗したのdeathか?」

「そのまさか、death!」

 俺はデビルズサインを掲げた。片腕ではない。

 両腕をX字に交差させ、舌を下唇から垂らして。つまりは、ファックユーのサインを示すことで怒りを伝える。


「Oh……。ソーリーね」


「もっとも、作戦そのものを打ち切ると決めたわけではない。継続も視野に入れている。しかしながら、この作戦には致命的な欠陥のあることが判明した!」

「それは変deathね」


 なんだか腹が立ってくる。

 ここは日本だ。英語が、いや米語が世界共通どこでも通じる言語だとでも思っているのか。このカーテン野郎のすっとこどっこい。

 ……俺は良いのだ。デビルズサインだろうとファッキンサインだろうと、俺は例外だから。


 他人には厳しく、自分には優しく。

 生きていく上でとても大事なことなのは言うまでもない。


「いいか、スティールよ。ツブヤイターはつぶやきを載せるわけだ。当然、アカウントは俺の普段用いているそれとなる」

「ソウdeathね」


「俺は誰にも、誰にもだぞ。大学の友人たちにも、地元の友人たちにも、もちろん彼女にも。親にも弟や妹にも。誰にもなろうサイトに自作小説を投稿しているなどと知らせてはいない。これがどういう意味を持つか! 賢明なるスティール君には承知のことと思う」


「ツブヤイターではなく、ツブヤケテネーということdeathか」


「That’s right DAYO」


 ハッ、いかんいかん。スティールの言い様に引きずられている。

「ザッツライト。その通りだ」


 俺は言い直した。部屋の中にいるのは何もスティールだけではない。ほとんどのモノは簡単な英語くらい理解出来るのだが、中にはそうではないモノもいる。

 その代表格がポスターの竜馬子。

 中身がアイドルで、ガワだけ坂本竜馬。つまり、英語の知識がまるで無い。頭の中身が坂本竜馬ならば賢いのだろうけれど……機嫌を損ねると中々に手間がかかるのだ。

 アイドルなので、声だけを聞いている限りではツンツンも可愛げがある。

 だが、おっさん顔でツンデレ。しかもデレ無しなど、なるべくなら相手にしたくはない。


「スティール。なるべく日本語を使え。分かったな」

「そうdeathか。……あ、いいえ。ソウデスカ」


 うん、日本語が話せないわけじゃあないんだよなスティールは。ただ、面倒くさいんだよな。その気持ちは分からないでもない。

 俺が地元の方言ではなく、東京言葉を話す時とどこかしら似た感覚となってしまうのだろう。


「一応はサブアカウントを作ってつぶやいてはみた。だが、ハッシュダグを付けても反響がないのだ」

「それは、そうでしょうね。フォロワーがいなければ、リツブヤイートもなさそうです」

「イグザクトリー……ではない。そうなのだ」


「ぶっちゃけ、ぶっちゃけてみては?」

「答えはノーだ。無理というもの」

「枯れ木も山の賑わい、と言うじゃアーリマセンカ」

「く! スティール、お前は正論が好きだなあ。だが、常に正しき道が歓迎されるとは思わないことだぞ」

「ボス、そうではナイノデス。心をオープンに、カミングアウトをする良いチャンスなのでは、と」


 気楽に言ってくれるモノだ。

 そんなことが出来るのであれば、そもそも苦労はしていない。

 少なくとも10万文字間近でブックマーク0、ポイント0、感想0の無い無い尽くしではないはず。


「そこで俺は考えた。スティール、お前をツブヤイター担当モノとする。サブアカウントのフォロワーを増やすのだ。今後しばらくの間はスマホを常に窓際に置いておく。つぶやきでもリツブヤイートでもかまわぬ。とにかく増やせ」


「これでUSAのヘヴィメタフレンズとトーキングが」

「待て! 俺の投稿小説のジャンルは知っているよな?」

「……純文学デスネ」

「分かっていればいい。ヘヴィメタルを好む層と合うかどうか。米国モノたちが日本語を解するかどうか。分かっていればいい」

「オー、気をツケルヨ。イエッサー」


 こうして問題が1つ解決をみる。

 棚上げとかモノにぶん投げているだけじゃん、という話では断じてない。

 これは、そう。言うなれば、信頼して任せているのだ。出来る上司は何でもかんでも自ら背負ったりなどはしない。役割分担こそが大事。


「よし、今から第2回ポイントゲットす」


 その時である。突然にヒステリックな叫びが部屋中に響いていた。


「英語禁止だよっ! さっきからサブアカウトだとかフォルワとか難しい言葉を使って! 私をバカにしているんでしょう!」

 竜馬子がキレている。ツンツンモードに突入している。

 ああ……ヤバイ。そこまでのパープーだったとは、さすがにきつい。色んな意味で。


 コレマデカー。

 俺は竜馬子へ永遠の眠りの呪文をかけ……るのを途中で止めた。


 いけないいけない。

 俺は彼女の外見が好みなのであって、中身など知っちゃあいない。そもそも現実世界においてアイドルとの接点なんて皆無。

 だから、というわけではないけれど。酷い言い方になるけれど、多少はアホウでもかまわない。

 大ファンだからな。

 ……いや、大ファンだったという方が良いのか。いくらなんでも、ノウタリン過ぎるのは辛い。百年の恋も冷めるというもの。

 今後は、中~小ファンくらいの立ち位置で応援しよう。コンサート、DVDやグッズ購入は控えよう。CDくらいはお布施として買ってやる。


「おい、竜馬子」

「何よ!」


 不思議なもので、おっさん顔ツンツンが気にならなくなってきた。これはこれで面白いかなあ、と思えてくる。

「ちょっと眠っとけ」


 こうして竜馬子は眠りについた。

 お前はバカ過ぎる。

 再び目覚めたその時は、何にツンツンしていたのかすら忘れていることだろう。名前も変えてやろう。


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