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『ヤンデレにデレない』(松本久哉 パパ)
『ヤンデレにデレない』松本久哉
目の前に、泣きわめく女。
手首は骨の様に細く、そこに何重もシャラシャラと過度なアクセサリーが揺れている。
女が、何か俺に訴える度に、シャラシャラと。
よく外れないモノだと感心していたら、水をかけられた。
「全部、あんたが仕組んだくせに」
周りの客から注目を浴び、俺に恥をかかせられた事に満足した女は、高いヒールをカツカツと音をたてて出て行った。
ポタポタと、滴が前髪から落ちる。
ウエイターがタオルをよこしてくれたので、礼を言って机に置かれた書類を見た。
[離婚届]と印刷された薄い用紙には先程の女のサイン。
女の歪んだ字は、少し濡れて滲んでいた。
綺麗だけが取り柄だった女の最後の顔を想い出し、思わず笑みがこぼれる。
丁寧に折り畳み、大事にケースにしまい込み丁寧に上から撫ぜた。
これで、用意は整った。
「千草、待っててね」