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子供を拾った。
食べ終わると、少年はホッとしたように息をついて、お礼を言った。
「ありがとうございます」
ペコリと頭を下げると、獣の耳も揺れた。
…私の目は、初めて見るその耳に釘付けだった。
「どうして一人で歩いてたんだ?」
スーシェさんが聞くと、子供は小さな声で言った。
「…棄てられたから」
「誰に」
「…母さん」
「……」
スーシェさんが黙ってしまったので、父が話しかけた。
「どこの村の子だ?」
「ゼアルダの、リンガ村」
「ゼアルダか…ずいぶん遠くから来たんだな」
ゼアルダは、ここよりずっと北の国だ。このエルダー国と接しているけど、かなり遠い所だ。
「…とりあえず、近くの村まで連れて行ってやるから」
スーシェさんが言うと、少年はコクンとうなずいた。
「名前は?」
「アルディク」
アルディクはスーシェさんの馬に乗せて、出発した。
(子供をこんな所に棄てて、母親はどこに行ったんだろう)
「お父さん。あの子もラディみたいに、村に連れて帰っちゃ駄目かな」
「…詳しい話を聞いてからだ」
その後は、二人とも無言で馬車に揺られていた。




