プロローグ
なんでこんなことになっているんだろう。
俺は今、名も知らない美少女の前に立っている。
俺は生まれてから今日の日まで一度も告白されたことがないのだがこの雰囲気はひょっとして、告白か?
やばい、今になってドキドキしてきたぁ。それにしてもこの子は可愛いな、こんな子に告白されるなんて、俺はなんて幸せ者なんだ。
少女は顔を赤くしてうつむいたまま静止すること数十秒、決意したように勢い良く顔を上げると、俺に向かって想いを告げた。
「あの、高島くんの……」
来た来たキター、はいはい待ってましたよー。
ついついにやけ顔になってしまうのは許してもらえるよね、だってこんなに可愛い娘から告白されるんだもん。
「……妹さん、好きな人いるんですか?教えてください!」
「は、はいぃぃぃ」
次の瞬間、少女は消えて見慣れた天上があらわれた。しばらくの間呆然としていたが、やっと頭が動いてきて、状況を把握することができた。
「……なんだ、夢か。」
夢なら俺に告白してくれよ、っていうかどんな夢だよ。あー損した気分だよまったく。それにしても自分の叫び声で目を覚ますとはな、本当にかっこ悪い。思い出すだけで顔が熱くなってくるよ。
ふと、時計を見ると六時をまわろうとしているとこだった。たまには早起きもいいかなとベッドからでて着替えをはじめた。新品の制服に袖を通すのは気持ち悪いものだ。着替えを終えると、朝食をとるために階段を下りて、リビングにむかった。するとそこには科学では解明できない謎の生命体がいた。
「おっはよぅーーお兄ちゃん。」
そう人類最大の馬鹿であり、我が愚妹、恵だ。こんな朝早くからハイテンションなやつである。サンタはどこか外国の寒いところに実在すると考えているやつが……
「ぐはぁっ。」
い、痛ぇ、なんだいきなりテレビのリモコンがとんできたぞ。
「まったく恵が読心術がつかえることわすれたの?お兄ちゃんがなに考えてるか簡単にわかるんだから。」
そう、この馬鹿はむだに読心術が使えたりするのだ。なんでこんな馬鹿が読心術なんか、
「危ねぇ、お前なにとばしてんだよ!」
「え?なにって見てわからない。」
「違う。果物ナイフなんか兄貴にむかって投げる奴があるかぁぁ!」
壁に3cmほど埋まっている果物ナイフを見てあとちょっと避けるのが遅かったら絶対に俺に突き刺さっていたはずだ。
「ここにいるじゃん。」
不思議そうな顔でこっちを見る愚妹
「…もういいや、頭が痛くなってきた。飯食
ったらもう学校に行くから」
「じゃあ食べ終わったら一緒に学校に行こうよ。」
「やだね。」
次の瞬間、恵のこぶしが飛んできて俺の意識も飛んでしまった。
ちなみに今日は四月六日なので入学式だ。
あ!それと申し遅れましたが俺の名前は高島史登、高校一年生、中学生の時は帰宅部所属だ。成績は中の下、運動神経いたって普通、容姿は平凡。どこにでもいるつまらない男だ。一方、我が愚妹も高校一年生。成績優秀、スポーツ万能、才色兼備。
同じ血をひいているうえに双子なのにこうも違うとは、ああ神よこれは試練ですか?だとしてもこの試練の壁はとても高くて俺ではとてもじゃないけど無理です。この祈りが通じたのなら俺を秀才にしたりかっこよくしなくてもいいので、恵を俺と同じくらいのランクにさげてください……などと祈っても変わらないことは十六年の人生でわかりきっている。
なんだやけに顔が痛いそれもだんだんひどくなってきている。
「…………ちゃん……お兄ちゃん…お兄ちゃんってば。」
おおなんだ恵か、って
「なにすんだよ、いきなり人の顔を往復びんたって。」
涙目で頬をさすりながら理不尽な暴力をふるった恵に抗議の声をあげる。
「やっとおきたぁ。じゃなくてはやくしないと学校遅刻になっちゃうよ。」
時計を見ると八時五分前だった。
「や、やばい、入学初日で遅刻は非常にやばいぞ。恵、先に学校行くぞ。」
がばっと音がするくらいの勢いで起き上がり、
短距離走の選手顔負けのスタートダッシュで玄関を飛び出した。
「ひどい、せっかく待っててあげたのに、まってよー、お兄ちゃん。」
「それは、無理な相談だ恵よ。」
俺は馬鹿だ、簡単に考えてもスポーツ万能で百メートルを十二秒で走る恵に足でかてるわけがなかった。
「まってよー恵ちゃーん。」
「ふふふっ、それは無理な相談だよお兄ちゃん。」
「くそぉ恵の悪魔、鬼。小六までおねしょしてたくせにぃー」
と、できるかぎりの大声で叫んだ
恵はこっちを振り向きにっこり笑って立ち止まった。
ああやっぱり恵はいい子だったんだ。
お兄ちゃんは信じてたよ。
「お兄ちゃん、歯ぁくいしばってね。」
「は、はいぃ!」
前言撤回やはり悪魔だったと考えるも虚しく俺の顎にショートアッパーが突き刺さった。
しかし、こんなところで気絶するわけにはいかないのだ。なぜなら今日は高校の入学式だからだ。なので、こんなパンチごときでは、歯がぐらぐらして目の焦点が合わず、足がガクガクするくらいだぜ。つまり結構危ないってことだ。だが、俺は行かなくてはならない
「まっててねぇぇ俺のバラ色のスクールライフちゃぁーん。」
できる限りの力で、そう時速五キロくらいの速さで学校にむかった。
「うわぁ、いけないやりすぎたかなぁ?お兄ちゃんがとうとう壊れちゃった。まぁ、きっといつものことだと思うから早く学校にいかなくちゃ。」
「恵の野郎本当に置いて行きやがって、あいつの体に流れる血はいったい何色だ。」
恵に置いていかれたことに腹を立てつつ、学校に遅刻しないで着いたことの感動に酔いしれていると、すごい勢いで車道を爆走する暴走自転車に後ろから追突された。
「す、すいませぇーーーーーーん。よそ見してました。本当にごめんなさい。あの、大丈夫ですか?」
「大丈夫なわけあるかぁぁ、って」
そこにはアイドルにも勝るとも劣らないほどの美少女がいた。だけど俺は恵で慣れているのでそこまで慌てないですむのだ。なので紳士らしく応答した。
「僕よりもあなたは大丈夫ですか、お嬢さん。」
漫画でいうところの二枚目キャラがかならずできる得意技のひとつである歯がキラっと光る技を使いつつ微笑んで聞いた。
俺はこの技を使うために毎日三十分も歯を磨いてるんだ。そして、それを披露する時がやっとやってきた。
しかも相手がお人形さんみたいにかわいい女の子だとは、夢にも思わなかった。ああ、ありがとうございます。神様、俺は今日という日をきっと一生忘れません。
「あの、本当に大丈夫ですか?」
またいつの間にか自分の世界にトリップしてしまったのか。俺の悪い癖だな、すぐに自分の世界に浸ってしまう。しかも、たまに何十分もトリップするときもある。おっとまたトリップするところだった。あぶねぇあぶねぇ。
「ところで、お嬢…さ…ん」
い、いなくなった。何故だ!まさか放置プレイ。かわいい顔して危ない趣味してるな、だが俺は放置されてる場合じゃないんだ。時間ぎりぎりでここについたのだから早く行かなくては。今何時くらいだ?
ふと腕に巻きつけてある古い型の腕時計に目を落とすと、……あれ…俺目が悪くなったかな。
目をブレザーの袖でこすって再度腕時計に目を落とした、入学式は八時四十分からなのだが、長針が数字の二の上、つまり十分。ここまではいいとしよう、ただ問題なのは短針が数字の九を少し過ぎたくらいになっていた。
「俺は馬鹿だぁ。」
いや、わかっていたけど叫ばずにはいられない。時間ぎりぎりでも間に合ったのに、わざわざ遅刻をするような真似をするなんて。
すぐさま校門の前に張り出してあるクラス分けの表を見て自分の名前を探す。
こんなときに名前が見つかりにくい、受験生の気持ちが良くわかるというものだ。
やっと見つけたときには自分の名前の後に 高島 恵という文字があった。
そうして俺の微妙な色のスクールライフは始まりを告げた。